30. ぼっちの本音と建前

 なんと時計が9時半を回っていたのである。一時限目が終了し、なう。家。


「おいおい。日常生活において目立たないように行動するのが原則なんだろ」

「ついつい話こんでしまったわね。しょうがないわ。今から行きましょう」

 四宮シノアに取っての目立たないようには、考えてみればすこしネジが飛んでいるので気にしなくていいか。

 じゃないとクラスであんなに浮かないよな。その時点で目立ちまくっている訳だが。


「行きましょう」

 なぜか楽しそうな三条カノン。


 家を出て、走ろうとする俺を咎める四宮シノア。

「待って、走らないで」

「え?!、急がないのか?」

「1分遅刻も100分遅刻も一緒でしょ。ここで走って学校に行ったところで疲れるだけなので、普通に移動していきましょう」

 なるほど、なるほど。それは最も正しくも合理的である。倫理観を除けばな。

 四宮シノアという女がどういう人格者なのかが少しづつ見えてくる。

 本質的には俺と変わらないんじゃないか。そんな事行った日にはフルぼっこ口撃に合うのでもちろん言わない。


「そうだね。1分遅刻も100分遅刻も10000分遅刻も一緒だからゆっくり行こー」

「三条、10000分遅刻したら、遅刻じゃなくて、欠席だ」


「は、確かに」

 びっくりした表情で三条カノンは答える。アホの子か。


「確かにじゃねーよ。いくぞ」

「如月、私にだけ、ちょっと当たり強くない?」

「いやいや、そんなことないぞ」

 本来の俺はこんなもんで、四宮シノアは強いので、本来の自分を出せずにいるだけです。とまでは言わなかった。


 移動中、俺たちの日常会話はなかった。

 まーそうだろうな。

 そもそもは、ぼっち属性を持っているエィジェントの集まりであるので、他愛の無い会話ができる訳も無かった。

 必要な伝達事項を、手短に。それが俺のコミュニケーションスタンスである。

 三条カノンも一見すると社交性の高そうな属性に見えるが、以前言っていたように”合わせるのが”得意なだけ。との事で、本質ぼっち。と俺の中で認定してあげよう。

 合わせるのが得意な属性は、自分から多くの発信をすることはない。相槌のプロなのだ。だからこそ合わせるのが得意なのである。

 自分発信でバンバン喋っている奴が合わせるのが得意だ。なんて発言をする奴がいたら、お前の脳みそは溶けているかもしくは宇宙人なのか。と言ってやるところだ。

 もちろんその場になれば言わないで思うだけだが。

 三条カノンに限っては、移動中、あ、あれ可愛い。とか、足が痛いとか。甘いもの食べたいだとか。感情を言葉に出しているだけのようで、赤ちゃんか。と突っ込みたくなるところであるが、本人は会話しているつもりなのか、ただ言いたい事を言っているだけなのか、時折、俺や四宮シノアに話しかけるような、でも明確話しかけていないような、そんな言葉を発していた。

 最初はいちいち相槌したほうがいいのか?なんて思いながら、フライング相槌とかしてみたりしたが、相槌しようがしまいが、三条カノンは特にリアクションしなかったので、俺は恥ずかしくなり、基本放置した。ぼっちかまってあかちゃんにクラスチェンジだ。


 そんなこんなで学校に着いた時には、10時15分。


「絶妙な時間だな。2時限目が終わったら、クラスに入るか」

「そうね。バラバラにいきましょうか」

「え、別にバラバラじゃなくてよくない?」

 三条カノンは、四宮の思惑なんてその、そんなの関係ねー。と言わんばかりである。


「あ、三条さんも四宮さんも仲よかったんだね。ってなっておけば、日常生活においても、色々やりとりもしやすいでしょ。

 都度何かある度に接触の測り方を考えているくらいなら、こういうタイミングタイミングで一緒にいる所を皆にも見せたほうがいいよ。

 どうせモブ達が聞いてくるのは私にだし、四宮には迷惑かからないでしょ」

 ごもっともな見解を述べる三条カノン。

 しかし、上っ面だけといえ、仲良くしているクラスの子達をモブ達を言い切れる君のそのメンタルがすごいですね。


「そうね、では、そうしましょ」

 なぜか四宮シノアは、嬉しそうに表情をしたように見えた。

 やっぱり友達ほしいんじゃん。

 自分の事を、あまりわかっていない友達はいらなくても、自分の事を知ってくれている人は友達になりたい。

 ごく自然な感情だ。戦友って言葉もあるくらいだしな。

 海外で全然日本人のいないところで知り合う日本人とはなぜか無茶苦茶仲良くなる。

 同じ日本で会うとほとんど仲良くならないのに。不思議だよ。

 人間の感情や本能って。あ、ちなみに俺は海外行った事無い。


「如月は、一応要注意人物って事になっているけど、これから一緒にタイムパラドックスボックスを作り上げていく。っていう使命を私達は抱えた共同体な訳なので、本来であれば別行動のほうがいいけど、今日を機に一緒に行動する事を問題ないとしてもいいと思うの。どう四宮?」

 もっともらしい事をいう三条カノンは、俺への確認は特になく、四宮シノアに確認する。

 なんか俺ってそういう立ち位置だよな。


「そうね。うーん」

 真剣に悩む四宮シノア。

 本人の中ではすごい色々なメリット・デメリットを想定しているんだろうけど、そこが意外に抜けててたいしたことないんじゃないか。って思うが、ここは本人の納得次第なところもあるので、見守っておこう。

 そして同じく、俺には意見を求めてこない。


「如月くんと友達なの?って思われる事以外はデメリットではないので、すごく悩ましいけど総合的に判断して、三条さんの考えに同意するわ」

 四宮シノアは、堂々と健やかに何の迷いもなく、そう言い放った。本当さらっと人を傷つける事に関しては一流のジャックナイフだよな。


「デメリットそこだけ?」

 キャハハと笑う三条カノン。俺の代わりにツッコミを入れてくれた事には感謝しよう。

 だがしかし、そこは笑う所では無い。


「じゃ、四宮と三条の意見もまとまった所だし、いくか」

 なぜか、俺が絡む話を俺の意見は一切求められず、合意し、俺が取りまとめを行い次の行動を指南する役目になる。


 そんな、一人の漢の悲しくも儚いエピソードがここにはあった。

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