24. 考察2からの感謝と契り

 俺が心臓を貫かれて、生死を彷徨い、四宮シノアのタイムパラドックスボックス発動における心臓転移が起こしたであろう、意識のタイムパラドックスなのか、記憶のタイムパラドックスなのか、分からないあの出来事。

 夢にしては現実感ありすぎる。

 そして、あの出来事は俺ではない。正確にいうと”如月カイ”ではない誰かである気がする。

 感覚的な事でしか言えないが、少なくとも最初の出来事は俺の過去にあった出来事のように思えないし、後の出来事はそもそも今の俺の年齢より高いはずである。

 あるいは、ある人の思考を覗き見しただけなのかもしれないし、俺の別時間軸の別世界軸の人なのかしれない。


 最初の、あえて回想という表現で統一しておこうと思うが、回想に関しては、とにもかくにも気になったら確かめずにはいられない。

 研究と実験が大好きで大好きでしょうがない印象を持つ。

 印象を持つという表現がそもそもおかしいのかもしれないが。

 次の、研究室で助手の子。。。

 名前は、たしか、九十九(つくも)。

 九十九と共にした実験は、この一連の流れから考えれば、タイムパラドックスボックスの研究なのか、後にタイムパラドックスボックスにつながる研究なのか、どちらにせよ、何かしらつながりがある研究をしていたように思える。


 キッカケ。


 三条や四宮が当初から口にしていたキッカケ。


 たしか、時空間らしき暗い空間ものに手を差し伸べて、この世界に帰ってきた?

 またはこの世界での意識で目を覚ました?そんな自分の意識の中でだけでいれば時系列だったように思える。


 あれがキッカケなのだろうか。


 この流れは非常に複雑なように思える。

 今、この俺の記憶だか、意識だかを三条カノンや四宮シノアに伝えるのは、得策とは思えない。

 事態の急展開はありえるかもしれないが、事態の急展開は、今回の俺の暗殺未遂における生死の問題もあるし、俺の今のキャパシティでは完全に事態の急展開に飲み込まれる予想しかつかない。


 三条カノンや四宮シノアへの信頼感?安心感?仲間意識?この感情をなんと呼べばいいのか分からないけれど、今まで俺が生きてきた家族以外に感じるこの感情は大事にしようと思う。

 だからこそ今回のこの俺の生死を彷徨ったことにおける回想なのか、タイムパラドックスボックスの心臓転移における回想なのかわからないが、俺に与えた”何か”はしかるべきタイミングで三条カノンや四宮シノアには伝えよう。


 諸々の自分の中での整理がついてきたところで、少し眠くなってきた。

 ずっと昏睡状態にあったので、体が少し硬くなって衰弱しているものの、体力的なものは回復していると思うけれど、頭を全力でフル回転させていることの疲れなのかもしれない。

 今度、どれだけの時間、俺に休息の時間が与えられるのだろうか。休める時には、全力で休ませてもらったほうがいいな。そう自分の中でゆっくりできる時間の有意義さを再認識しながら、ソファでもう一眠りすることにしよう。



◇◆◇



「・・・・・如月、如月」

 体をゆさゆさされ、心地よい睡眠から夢現つ状態に意識が変わり、目を覚ます。

 目の前にいるのは、三条カノン。私服姿になって髪型も整っている。部屋着からは着替えたのか。


「お、おう、おはよう。もう体調は万全なのか?」

 ソファからゆっくり起き上がり、半分寝ぼけ眼で、三条カノンを見ながら、体調の心配をしてみる。


「うん、すっかり元気。如月ありがとうね」

 そう言って、三条カノンは笑顔で答えてくれた。

 昨日の自分自身を戒めていた出来事なんて無かったかのように。


「ようやく目が覚めたのね」

 俺はびっくりして、声の聞こえた方向に目を向ける。三条カノンを向いていた方向とは別の方向に。


「四宮」

 そこにはたしかに優雅に紅茶だかコーヒーを飲んで、リビングのテーブルに座っている四宮シノアの姿があった。

 俺の家のリビングであまりにも自然に紅茶だかコーヒーだかを嗜んでいるその事についてはツッコむのは、今度にしておこう。

 そう思わざるを得ないくらい、人の家で人の紅茶だかコーヒーを誰の許可も取らずに勝手に飲んでいる様があまりに威風堂々としていて清々しい元気な四宮シノアの姿がそこにはあった。


「おはよう、如月くん。無事でよかったわ」

 四宮シノアは、そう言って、特に動きを変えずに少しだけ微笑んだように見えた。

 俺がびっくりして四宮シノアを見た後に、三条カノンの方を向きなおすと


「そうなの。四宮も元気になったみたいで。よかった。実は、私も四宮に起こされたの」

 あはは。という付け加えつつ、確かな喜びを醸し出している三条カノンであった。


 四宮シノアに何かあったら、すぐ気付くんじゃなかったのかよ?っと三条カノンに突っ込みたいが、今この場で言うことでもないので、三条カノンらしいな。と自分の心の中でだけに収めておく。


 それはそうとして。

 四宮の席の隣に行く。


「四宮、俺はお前に言いたいことがある」


「な、なんなの?ちょっと気持ち悪いわね」

 四宮シノアは、やや俺と逆に方向に体を仰け反らせながら、持っていたカップをテーブルにおく。

 ずっと飲んでたな。好きなの?


「いや、その、あの、まー、俺を助けてくれたみたいで。お前がいなかったら俺は死んでいたかも知れないので、その、感謝してる。」

 こういう発言をすることがほとんど無い俺は、前のめりで四宮シノアの近くに行ったもの、感謝の言葉を、しどろもどろで四宮シノアの目を見ることはできず、右上や左上を向きながら伝えることになる。恥ずかしいぜ。


「そうね。如月くんは私に、感謝しつくさないとダメね。感謝し尽くすだけでは物足りず、文字どおり命を賭して、私の言ったことをすべて聞く忠誠を誓うべきだと思う」

 四宮シノアは、あーそのことね。と恰も大したことではないわよ。と言わんばかりにカップを再度持ち、紅茶だか、コーヒーだか、あ、このタイミングで見えた。コーヒーだった。

 コーヒーを飲みながら、俺のほうを向かずに、そう言い放った。

 今のこのタイミングでそう言われるのは、俺としては悪くない。あ、決して忠誠を誓いたい訳ではないがな。


「いやいやいや、忠誠はないだろ。感謝はしてるけど、忠誠するんだったら結局俺の意識は夢の中だろ」

 四宮シノアは、コーヒーを飲みながらも口元がやや緩んでいるように見えた。

 よかったわ。と言われているようだった。

 っというかコーヒー飲みすぎだろ。っと、もしかして、四宮シノア、照れているのか。

 特別うちにあるコーヒーが無茶苦茶うまい訳ではないだろう事柄と、一連のやりとりの流れと一連の行動の流れを見ると、そう考えてみるのも、もしかしたら面白い見解かもしれない。

 だとすれば、とんだツンデレさんだな。まー思ったことで確認することはできないのだが。


「っと、ここからは文句言わせてもらう」

 え?!っとした、四宮シノアと三条カノンの表情を見逃さなかったが、これからの事を考えて、今からの発言は必ずしておかないとダメなので、そのまま続ける。


「もう、今後自分を犠牲にしてまで俺を助けるのはやめろ。最悪の状況は回避できたかも知れないが、失ったものも大きいだろうし、何よりもこんなことが続いたらメンタル的に俺が持たない」

「は?!、何言ってんの如月、そんなこと言われたら、四宮は何のために」

 そう反論をしてこようとした三条カノンの言葉を遮るように、四宮シノアは手を差し出し、この続きは私が言うわ。っと言わんばかりのアイコンタクトを三条カノンに送り、


「だったら、如月くんは、あのまま死んで、三条さんや私が、自責の念に駆られてくれればよかったとでも言うの?」

 さすがは四宮シノアだ。おっしゃる通り、人は単純ではない。

 助けられた方は、そこで犠牲が発生したのであれば、そこまでしてまで助けてほしくないと思うものだし、助けた方は、そこまでしてまで助けられたくないと言われれば、じゃー自分達の気持ちを無視した行動を取れ。と言いたいの。っとなる。

 当たり前の感情だ。そので、う、、、そ、、、それは。。。なんてもちろん答えるつもりもない。


「違う、俺が言いたいのは、今度はもうやめてくれ。ってことだ。そんなこと言われたっって、今後も同じことが起きたらきっと四宮も三条も同じことをするのは、わかってる。

 だから俺にも自分を守れて、お前達を守れる力を身につけてさせてくれ」

 そう、これが本題である。文句を言いたかった訳ではない。

 もちろんこれを言いたいから、言ったという訳でもなく、もちろん伝えておきたいことではあるものの、結論とすれば、俺に力があれば、もう同じことを繰り返させずに済むんだ。


 キョトンとした四宮シノアと三条カノン。二人は目を見合わせて、少しだけ笑う。

 再び四宮シノアと三条カノンは俺をみる。


「びっくりしたわ。まさかそんなことを言われるなんて。

 基本、すべてにおいてやる気のない人で、人の気持ちも理解できないマッドサイエンティストの傾向があるっていう人物情報だったので」

 四宮シノアは、今まで見せたことのない、笑顔?、というにはやや堅苦しいが、そこには確かに、喜んでいるようにも見えなくない表情での返答だった。


 え?!俺、そんな人物になってるの?確かに、すべてにおいてやる気がないのは確かだが、さすがに命も関わってくるとなると、そんなことも言ってられないだろ。


「本当、もしかしたら、よくないことかも知れないけど、私達との接触によって、如月自身の意識の過去改変が起きて来ているのかも知れないね」

 そう言って、三条カノンもテーブルに向かって、テーブルの椅子にすわる。

 三条カノンはわかりやすく、ニコニコしている。


「いや、その、別だな、俺だけ無力っていうのはありえないだろ」

 三条カノンと四宮シノアが喜んでいるように見える様が俺に少しこそばゆかった。


「ところで、如月くん、失ったものも大きい。って一体何のことを言っているの?」

 四宮は、不思議そうに、俺からや三条カノンからは絶対に聞くことではないだろう事柄に自らが確認しにきた。

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