23. 風呂上がりのドキっと考察1

 しばらくボーッとしていると、風呂上がりの三条カノンが戻ってくる。着替えを持っていたのか。

 シャンプーのすばらしい匂いにお覆われ、まだ乾ききっていない少しだけ濡れた感じに見える髪に、モフモフした感じの部屋着である。

 これは同棲やラブコメハプニングお泊まりとかでもない限り、お披露目されることのないシュチュエーションである。この時ばかりは、俺は、自分の運命を100%受け入れた。

 完全に俺の思考が凝視に反映されているのを、気づいたのか。


「あんまり、見るなし。恥ずかしいだろ」

 斜め下に視点を置き、両手をバタバタ振りながら、俯き加減で答える三条カノン。


「あ、あー悪い」

 すごいキョドッてしまった。

 この場面をどこかの四宮さんに見られていた日には、ゾッとする。

 いや、四宮シノアだけではないな。すべての人に見られたくない。俺のブランドが崩壊する。

 そもそも大したブランドはないけど。一応クールではいるつもり。


「じゃ、寝るね」

 そう言って、俺の隣を通り過ぎ、俺のベッドの中に包まれていく三条カノン。

 風呂上がりの女子が撒き散らすフェロモンかと思ってしまう、実際にはシャンプーやリンスやボディソープのコングロマリットスメールにパル◯ンテにならないよう意識を集中させる。


「おう、お休み」

 扉を閉め、無事ミッションクリア。なんのミッションやら。

 しかしながら、この結界空間。一体、どうなっているんだ?気配的に誰もいないように見える。

 家族のプライベートを覗き見してはならない如月家の暗黙のルールを俺は破ることにして、各部屋を回る。

 気配で感じた通り、誰もいない。


 とりあえずはリビングに行き、ソファに座り、なんだか久しぶりにゆっくり物事を一人で考える時間ができたな。と思う。

 そんな状態に久しぶりになるもんで、一旦ソワソワする。

 少し、落ち着こうと、お湯を沸かし、ドリップコーヒーを入れ、再度ソファに座り、熱いブラックコーヒーを喉に通し、心の奥底からほっとする。

 ちなみにやや苦いのあり少しづつしか飲めない。

 後、猫舌。最近、ミルクと砂糖から卒業しようとブラックにし始めている。

 理由は簡単だ。ブラックはかっこいいからだ。


 結界について、少し整理してみる。気づいてなかっただけで俺が出くわした結界環境は、多分3回。


 1回目は、四宮シノアから告白されると勘違いして連れて行かれた場所。

 今思えば、あれはコンタクトを取っている事を周りに察知されないために、予め用意していた結界に俺を連れて行ったと思うのが妥当だろう。

 三条カノンとのやりとりからもしても、接触を図ったことは分かっていたということからも、会話の内容は把握されていない。

 結界の中が見られていた。ということも少し考えにくいだろう。理由は後ほど。


 2回目は、三条カノンが現れた時の俺の部屋。

 三条カノンが言うようにエージェントとターゲットの接触はセンシティブなのであれば、結界を張っていたに違いない。

 もちろん会話も聞かれていいものではないだろうし。

 扉を開けてすぐいなくなってしまったことも踏まえると、そのロジックはわからないが、結界と見ていいだろう。


 3回目は、俺の今まで生きてきたすべての常識や価値観をぶっ壊された、あの屋上での戦い時の空間。

 当たり前だが、普通に誰もが見れるところであんなに激しい戦闘が行われていたらニュースものだし、下手したら軍隊が突入するレベルである。

 その後、生死をさまよった俺としては、どうなったかは分からないが、少なくとも最中や終わった後の静けさをみると、学校の連中は、屋上で行われていた事は把握していないのだろう。


 以上のことから思うに、結果は色々種類があるように思える。

 結界の種類と言っても俺が感じた限りでいうと大中小くらいのレベルな気がしているので、全部、大でいいじゃないか。と思うが、理由があるとすれば、魔術は無限ではないからこそ、その場面にあわせた使い方をしているのだろう。

 結界ってやつにはこれからも結構なタイミングでお世話になる気はしている。また気付いた事があれば、整理していこう。


 次は、四宮シノアについて。


 正直、出会ってから今に至るまで、プラスマイナス含めて、相当マイナスな印象だ。

 後からわかることだが、衝撃の告白も、意向の伝達も、状況説明も、三条カノンに比べると相当大雑把だし、押し売り思考とまではいかないが、限りなく女王様タイプの思考である。

 私がこうしたいから、あなたもこうしたいでしょ。っと。

 いわゆる、人と上手くやっていくと言うのは、相手と自分のメリット・デメリットを考えた上で、各自の100%の希望はあるものの、お互いの合意ラインに50%づつ歩み寄って着地地点に向かっていくものだと思っている。

 それが社交性であったり協調性と呼ばれるものであろう。

 四宮シノアには、その思考は一切ない。意識高い系ぼっちの典型的パターンである。


 ま、えらそうな事言ってますが、俺も交渉なんてしたこと無ければ、50%の合意ラインに歩み寄って着地した経験もないけどね。

 なぜならそういう事をする相手も友達もいないので。

 社会に溶け込んで率なく生きている人達を見ていて、そう思っていただけ。

 自分の考えを形成する経緯を思い当たると悲しくなるので、そこを追求する事はなかれ。

 どうであれ、そんな四宮シノアが、自分の生まれ育ってきた”場所”に帰る”手段”を捨ててまで、そして自分の命の危険を顧みず、かつ上手くいくかどうか分からない可能性に掛けてまで俺を助けようとした事実を、俺はしっかり自分の心の中に留めておかなければいけない。

 今思えば、こうなる事をも想定して、薬を飲ませて、眠り続けて生かす事実を作りたかったのかもしれないな。

 もちろんどこまで言っても俺の推測の域をでることはないだろうけれども。


 とにかく目覚めたらお礼を言おう。

 その後何を言われても、少しは我慢して受け入れよう。少しだけな。。。


 四宮シノアに対する今までの印象と今回の心象とこれからの対応をしっかり整理して、四宮シノアを少しづつ受け入れていこう。

 四宮シノアの考えと相反するものになる可能性は高いが、俺も四宮シノアに何かがあった時は、自分の身を投げ出してでも助けよう。


 そして、もう少しだけ四宮シノアのことを知っていく努力をしていこう。

 なぜ四宮シノア自身がこの世界にくることを望んだのか。

 なぜ自分がしたいと思ったのか。

 なぜ自分の命よりも俺の命を優先するのか。

 俺を生かして、望む未来や世界は、自分の命も大事なものなのか。

 自分の命よりも大事にするのであれば、それは家族や大事な人がその未来や世界を自分の望むものにしないとまずい事態が起きてしまうのか。

 それであれば、”それ”を俺は知るべきだ。

 俺の仮説通りであったとして、素直に話してくれるとは思えないので、話をしてしまいたくなるような環境や信用を俺自身も構築していくことが大事だ。


 そして、三条カノン。


 今回の件で、四宮シノアと自分を比べて、自分自身の存在意義を否定してまっているくらい、逆に言えば、それなりに重い想いを持って、今、この環境に自分を置いていて、俺や四宮シノアと接しているんだと思う。

 だからこそ、今回の件に対して、比較をするべきところではないと思うが、結局は、本人がどこで自分自身の納得感も含め、心の着地ができるかだとは思うので、俺は、三条カノン自身との接し方においては、彼女のよさを意識させるような言動を取っていこう。


 結局のところ、今回の件でわかった事は、色々と面倒くさいことを言ってくる奴らではあるが、少なくとも俺を大事にしてくれているのは確かなので、大事にしてくれる人を大事にしないのは、それこそ自分よがり過ぎるだろうと思うからこそ、俺は俺のやり方で、三条カノンや四宮シノアを大事にしていこうとこの場にて決意をしていくことにした。


 最後に。

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