15. 勝負の判定、そして

 ここで俺は、じっくり目をつぶり、頭を高速回転させて、色々と考えてみる。


 俺が邪魔をしなかった想定で考えれば、四宮シノアに軍配が上がっただろう。

 素人目からみても二人は、バトルステータスの振り方が違うだけで、総合スペックは同じように見える。

 結果として、四宮シノアが勝ちそうになったのは、戦略勝ちだと思う。

 ただ、打算的な考えでいうと、突き詰めると二人とも、最終目的が大して変わらない気もするが、柔軟性がなさそうな四宮シノアではなく、柔軟性がありそうな三条カノンのほうを優遇しておく方が、俺としてはやりやすさがある。

 だからといって、三条カノンに軍配をあげるのは、どうかと思う。いろいろ総合的に考えれば、この後何を言われるかわからないけど、引き分けにしておくのがいいと思われる。


「俺としては、引き分けでいきたいんだが」

 気まずそうに頬をポリポリさせながら、申し訳程度な対応でコメントをしてみた。


「如月くんが、引き分けっていうなら、認めてあげてもいいわよ」

 四宮シノアが溜め息混じりではあるが、受け入れてくれる。

 四宮シノアは絶対に拒否すると思っていたので、想定外だった。

 勝ちを確定させたかった発言から一変するような言動にみてとれるが、もしかしたら体裁を求めていたのかも知れない。

 

 考えてみたら勝負を挑んできているのも三条カノンからである。

 四宮シノアとしては、引き分けにするともう一度勝負される可能性があるので、勝ちの確定をさせたかったのかもしれない。

 第三者からの引き分けであれば、"あくまでも自分の意思ではない"引き分けの状態を作れる。その状態を作ったのであれば、実は勝ち負けにはこだわりはなくて、もう一度勝負をされることを避けられればそれでよかった。


 そう仮説を立ててみると、四宮シノアの一連の言動には納得感が出てくる。

 もちろん、ただの俺の思い込みで、四宮シノアは何も考えていないだけかもしれないが。

 どちらにしろ、そうなれば、三条カノンとしては、四宮は一度は勝ちを望んだものの、俺の引き分けという意見によって”やむをえなく”になるので、もう一度勝負は臨みにくいだろう。


 KYでなければ。


「どうだ、三条」

 四宮シノアの、納得は言っていないけれど、如月がそういうんだったら空気感を拾い上げるような形で、気持ちの確認のタマを投げてみる。


「う~~。納得はいかないけど、如月がそう言うなら、我慢して飲み込む」

 KYだった。そう、三条カノンはアホの子だったのだ。忘れてた。


「四宮シノア、この勝負は次降に持越しよ」

 三条カノンは、ガクガクしながら、四宮シノアに指をさす。KYどころではない。

 自分の勝ちは、あの状況からするになかったことは、忘れてしまっているのかを突っ込みたくなるほど、すがすがしく、三条カノンはきめ顔でそう言い切った。

 さすがの俺も四宮シノアも目を点にして、お互いを一瞬見合う。

 俺は首を軽くフルフルさせることで、この場を収めておしいと四宮シノアに無言のメッセージを送る。

 

「ふー。わかったわ」

 四宮シノアは、俺の無言のメッセージを理解したか、していないか、はたまた受け止めてくれたわからないが、受け入れてくれた。

 四宮シノア、これまでにないくらい溜め息ているな。

 まーでも茶番だよね。わかるわかる。

 しかしながら、そもそもそも。俺としては、この一連の流れは、まったく茶番でもなんでもない。

 夢でも見ているのでは無いかと思うくらいに今でも起こったことのすべてを受け入れられずにいる自分がいる。

 全てにおいてびっくり過ぎなのだが。

 もしかしたらなんて少し思っていたが、そんな様子をまったくみせないし、俺にも求めてこないので、話し合いと駆け引きだけで進んでいくのかと思いきや、思いっきり魔法とか魔術っぽいのを使っていたな。

 これは一体、何なんだ。と、このタイミングでは言っても問題ないだろう。

 

 三条カノンも四宮シノアもボロボロだ。相当きつい戦いだったのだろう。

 普通に見ている分には、なんども黄泉の世界にいくんじゃないかと思ったくらいだよ。

 俺は心身共にボロボロだ。


「それじゃーまー、この一連の流れの総括としようぜ」

 仕切り直すような形で、この一連の見たことない世界の謎に足を踏み入れる発言を始めようと思う。


「三条、四宮、その戦闘形態というか戦闘力というか、なんなの?君たち、魔法使いなの?」


 禁断の扉に手をかける瞬間だ。俺も魔法使えるようになるのか?

 世界を支配しようとしてくる勢力や組織と戦う力を俺も手にする日がくるのか。

 これぞ、俺の求めた世界なのか。男なら誰でも一度は戦いの場を求めるはずだ。

 現時点で戦っているのは、美少女達で、男の俺はただビビリながらみているという情けない役割だが。

 わくわくの興奮、ドキドキの不安、このなんともいえない高揚感こそが自分の求める感情なのかもしれない。


 俺は、世界を救うよ。三条カノンや四宮シノアの返答をまたずにして、意識も体もトランスフォームさせようとしたその瞬間。


 グサ


 聞いたことのない音と体に感じる異物の感覚。


 そして、徐々に感じる痛み。


「え」


 心臓のあたりに刺さっている青白い鋭利な何かが分からないまま、俺は、倒れこむ。


「如月ー!!」「如月くん!!」


 立っていることすらできない状態で崩れていく体と、薄れ行く意識の中で俺に迫ってくる三条カノンや四宮シノアの映像が、意識が飛ぶ瞬間ギリギリまで残っていたのは、なんだかんだ言っても自分の味方でいてくれるであろう彼女達への信頼感なのだろうか。

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