14. Battle

「話が通じやすい人で助かった」

 三条カノンは、四宮シノアをしっかりと一点で見つめながら、そう言う。


 その瞬間に屋上の空気が変わる。


 なんだ、この空気は。


 今まで感じた事の無い、少し重力が重くなったような、少し息苦しいような。。。

 これから起こる何かを俺は感じながらも文字通り、空気になるしかない状態だった。


 そう思い、四宮シノアを見ると口元で何かを呟いている。

「I'll switch here to a batlefield.I’ll Initiative.Air.Blood.Sound.All disappearance.Sets.The world of the barrier」


 その瞬間に明るかった外の空気はダークサイドに落ちたような暗さになる。厳密にいうと浅暗い空間に入ったような意識になる。


 三条カノンも何かをつぶやき始める。

「I’ll power for battle.I’ll tiger’s magic,Sets」


 同じタイミングにて四宮シノアもつぶやく。

「I’ll power for battle.I’ll dragon’s magic.Sets」


 すさまじい空気、もはやオーラと言っていいかもしれない。

 二人を空気か風のような圧が纏っている。俺は、気がつくと二人の側から少しづつ離れていた。

 もちろん足を動かしている訳ではない。


 その瞬間。


 四宮シノアが消えて、三条カノンの前に現れる。その距離にして3m。


 三条カノンの下から上に掻い潜るように現れた両手両足に青白い炎のようなものが覆われている四宮シノアは、両足はブーツのような形状、両手には短剣のような形状のものを持ち、両サイドから挟みうちするように三条カノンへの攻撃を始める。


 その短剣を防ぐように三条カノンもまた両手に青白い炎のようなグローブのようなものを纏い、そのグローブを短剣にぶつける。


 バチーン!!


 その音はまるで、鈍器と鋭利がすさまじいスピードでぶつかるような衝撃音だった。

 ぶつけ合った短剣とグローブを力と力で押し切るように二人は踏み込む。


 風が


 圧が


 俺の体にひしひしと感じさせる。


「ん、ん、ん、ハァーーー。ハ!!」

 三条カノンが四宮シノアの両サイドの短剣を弾き飛ばし、その勢いで右腕で四宮シノアを殴り飛ばそうとする。


 その攻撃自体を見切ってかか、四宮シノアは、遠くに飛ぶ形で交わす。


 その圧力の風にまた俺は飛ばされそうになる。


 この間、体感だが、わずか5秒。。。


 あまりにも早すぎる動きに、経験した事のない鼓動と冷や汗が止まらない。


「四宮、あんた、近接タイプじゃないんだね」

 三条カノンは、離れた四宮シノアに斜めからやや構えた角度で、そう言い放つ。


「三条さん、そういうあなたは、完全な近接タイプね。そしてあなたの予想をはずれ。私は、近接も遠距離も両方いけるわ。どちらが得意ということもない。とはいえ、完全に近接を得意とするタイプとやりあう時に、やや不利になることは想定できるので、相手にあわせてやり合うのが私のスタイル」

 四宮シノアは、三条カノンの属性判断と自分の属性、あわせてやり合いの戦略まで明かした。


 そんなに手の内をペラペラ喋って問題ないのか。そんな心配をよそに。


 距離をあけた四宮シノアは、両手にもつ短剣のような青白い炎の形状を、何かの呟きとともに小銃のような形状にかえ、その小銃らしきものから、青白い玉を乱発する。


 三条カノンは己に迫る玉をすべてグローブで払いながら四宮シノアに向かって走っていく。


 四宮シノアは、迫り来る三条カノンとの距離を測りたく、横に斜めに縦に移動しながら、小銃の玉を乱発する。


 三条カノンもまた、撹乱するような動きをしながら、玉をすべて弾き飛ばし、四宮シノアに近づいていく。


「ち」


 言葉が直接聞こえる訳では無いが、そのような口の動きと表情をした少し分が悪そうな四宮シノアはまたもや何かを呟きながら、青白い炎の形状を小銃から短剣に変え、迫り来る三条カノンと接近戦を始める。


 三条カノンのボクシング、サウンドバックを五月雨撃ちするような、上半身を左右に動かしながらの連発する攻撃に防戦するような形で短剣を打つける四宮シノア。


 鈍器物と鋭利物が激しくぶつかりあう音が乱発する。


 苦しくなったのか、大ぶりで左斜め頭にきた攻撃を短剣で受けそのまま流し、その勢いで距離をとろうとする四宮シノア。


「馬鹿ね」

 ニヤッと笑った三条カノンが、また何かを呟いたように口元を動かし、両腕を後ろに引っ張るような形をして、両腕を前に出す。

 そこから虎のような青白い炎の塊が放たれる。


 四宮シノアは着地とともに、その虎のような青白い炎の塊を短剣で両腕をクロスし、防ぐように受ける。


 すさまじい爆発音。


 まとも人間が受けたら死んでしまうのでないかと思うくらいの爆発。


 爆発のあとの煙からは、四宮の姿は見えなかった。


「ここよ」


 屋上のさらに上にある高台のようなところから、四宮は、バズーカ砲のような形をした青白い炎の武器をもち、口元で何か呟く。


 その瞬間


 龍のような青白い炎の形状がすさまじい勢いで、三条カノンに迫る。

 その勢いは放った四宮シノアは反動で後ろに吹き飛ばされるほどである。


「しまっ」

 そんなような口の動きを表情をした三条カノンは、手の平と平を手首の根でつけ、グローブを盾のようにして広げる。


 その瞬間、その龍の塊は、三条カノンにぶつかり、大きな爆発音を起こす。


 四宮シノアは、このチャンスを逃さない。

 三条カノンが致命傷になるとは思っていなかったのか、両腕に短剣の形状を用意して、三条カノンの場所に走りながら迫っていく。


 爆発後の煙が消えたその場所には、倒れかけそうな状態を、両手で支え、足はもはや立つこともままにならないように横に倒した状態の三条カノンがいる。

 そこに四宮シノアは、なんの迷いもなく、右腕を大きく振りかぶり、頭の上に叩き落そうとする。


「待ってくれ」

 その言葉は、発したのか心の声か分からない。

 ただ、その言葉と共に、俺は自分の体を瞬間移動したかのような早さで、三条カノンの前に現れ、自分の体を盾にしようとしていた。


 目の前に四宮シノアの短剣の形状が現れ、死を意識して、両腕をクロスして防ごうとするが、四宮シノアは、俺の存在に即座に気がつき、剣の軌道を変えて、空を切らす。


 そのチャンスを三条カノンは見逃すはずもなく、

 「set foot weapon」

 という言葉と共に、俺の背中に衝撃をあたえ、四宮シノアにぶつかり、俺たちは共に吹き飛ばされる。


「ぐは!!」


 背中の衝撃の次にくるのは、尋常ではない痛みだ。

 火傷と鈍器で殴られたような痛みが重なるような痛さだ。


 なんだこの痛みは。


 背中を青白い炎で纏った足に蹴られたのであろう。


 目の前には目をつぶった四宮が倒れている。


「起きろ、四宮」


 四宮シノアは、パチを目を開け、俺を右腕で弾き飛ばし、立ち上がる。


 三条カノンは、元の場所にいた。

 追加攻撃をできる力は残っていないのかもしれない。


「ハァ、ハァ、ハァ。如月くん、余計なことをしてくれたわね」

 四宮シノアは、立ち上がりながらも、足をガクガクさせて、背中で呼吸しているような状態で俺を睨みつける。


「四宮、お前、三条を殺すつもりだったろ」


「当たり前でしょ。戦闘なんだから」

 四宮シノアは、ややキレ気味で俺にそう言い放った。


 その当たり前が俺にとっては当たり前ではないんだよ。


 これが、三条カノンや四宮シノアの生きて来た世界なのか。。。。。


 三条カノンのほうを振り返ると、立っているはいるものの、相当重症そうに見える。

 あの龍の形状の塊のようなものを思いきり受けているのが影響しているのだろう。


 四宮シノアのほうも、三条カノンほどではないにせよ、相当ダメージを受けているように見える。

 俺と一緒に飛ばされた時だけの怪我ではなさそうだ。


「どうする四宮シノア?。このまま続けてもいいけど、お互いもう力残ってないでしょ」

 三条は、苦笑するように言った。


「そうね、ここで続けても、子供の喧嘩みたいになるのでここで止めておきましょうか。これは、私の勝ちということでいいかしら?」

 四宮は、終わらせてもいいが、勝敗はつけたいらしい。


 ダークサイドというか、浅暗い空間に包まれていた何かはそのまま消えて無くなり、俺の知っている屋上の景色となった。


「は?!何言ってんの?引き分けでしょ?!四宮がこの勝負に勝ちをこだわり続けるのであれば、私はこの後も戦うよ」


 たしかに、俺が入らなかったら四宮に分があったように見えた。三条としてはどうしても引き分けに持って行きたいのだろう。


「ふー。わかったわよ。じゃあ、如月くんに決めてもらいましょう」

 四宮シノアは、そういうと、わかったわよね。と言わんばかりにすさまじい眼光で俺を見る。

 三条カノンは、少し困ったよう表情で、いい着地を見出して。と言いたそうではあった。

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