13. 優柔不断と主導権と

 1時限目と2時限目の間の休み時間で、三条カノンを転校生として二階堂アヤノ先生に紹介され、クラスのモブ達にやれ可愛いだのなんだのソワソワされながら、席に案内される。

 ちょうど俺の前の席が空いていたのもあり、そこが三条カノンの席になる。出来すぎじゃないか。

 こういった不可解な事象に対して確認するときは、少し躊躇ったほうがいい傾向がある。

 三条カノンも四宮シノアも、なぜか有耶無耶にしたがる傾向を感じる。

 俺としてもこのまま一緒に過ごしていけば、色々なことが解明されていくだろうと思い、気になっても聞かないことにしようとは思っていた。


 最初は、四宮シノアの時のトラウマがあるのか、クラスのモブ達も躊躇っていたものの 、普通に2時限、3時限、4時限、昼休みと進んでいく中で、休み時間、休み時間、三条カノンは、モブ達に話しかけられていき、転校初日にも関わらず一緒にお昼を過ごす仲間を見つけるという偉業を成し遂げた。

 三条カノンは、四宮シノアとは違って愛想笑いができるためか、四宮シノアが転校してきた時のようなクラス全体の張り詰めた空気感にはならなかった。

 これが本来のリア充というか、社交性の高い奴が作り出せる環境なのかもしれない。


 すこしだけ羨ましいという思いと、愛想笑いを只管して、興味のない話題に興味あるような対応をしていくのはシンドくないのだろうか?という無駄な心配をしてみた。もちろん、改めて天秤にかけると後者の気持ちが強いのは、いわずもがなである。


 羨ましいとか、そんなこと思うわけないでしょ。

 四宮シノアに、もし羨ましいだろ?なんて、聞いたらきっとこう答えるだろうな。などと、意味ない妄想もしてみた。きっとこんな妄想をすることで、少し四宮シノアを気持ちもわかった気になりながら同士を探していたのかもしれない。俺、小さいなー。いつもに比べて比較的退屈しない学校の時間だった。

 ありがとう、三条カノン。


 無事、授業も一通り終わり、俺と三条カノンと四宮シノアは一言を交わすこともなく、クラスのモブ女子から一緒に帰ろうよ。と声をかけられた三条カノンは


「うーん」

 と考える素振りをした後に

「ごめんね。この後、転校の手続き関係で残らなきゃいけなくて」

 そつなく、お断りを入れていた。


 そのまま、一緒に帰ってくれれば、俺の気苦労も減るのだが。


 そー、じゃーねー。っとクラスのモブな女子達とお別れをつげ、だらだらとクラスのメンバー達がいなくなるのを見計らって、俺も一緒に出て行こうと思ったが、三条カノンに睨まれる。


 そうですよね。

 この後、俺達は三人の時間があるんだよね。

 きっと。


 クラスで、俺と三条カノンと四宮シノアを除いていなくなったところで、

「さあ、そろそろ続きの話をしましょうか」

 四宮シノアは開口一番、切り出す。


 お互いに学校生活は、余計な関わり合いを持たずに無難に過ごすことは、暗黙のルールで決まっているんだな。

 最終目的は少し違うものの、今の時点では、あまり変わらないし、性格は似ても似つかないが、こういう空気を読む場所では読みましょうね。というところとかすごい以心伝心な気もするので、なんで仲良くできないかなーと本当に心の奥から切に願ってみる。


「場所を変えようよ」

 三条カノンは顔を少しだけ、教室の扉の先に向けて動かし、言った。

 三条カノンは、そのまま、どこかに向かって歩き始める。

 俺と四宮シノアは顔をあわせて、ついてこい。と言っているのだろうと理解し、ついていく。

 廊下の端にはる階段に三人は一定の距離を測り、三条カノンが上がっていくのをみて、俺と四宮シノアはついていく。


 いつもは学校の終わりとともに、脇目も振らずに真っ直ぐを帰っていく俺は、学校帰りに校舎をプラプラすることはなかった。この校舎って窓から入ってくる西日が結構厳しいのな。なんて思うところが、なんか青春っぽい。青春って大事だよな。今のこれって青春なんかな。

 どうやら、屋上に向かっているようだ。しかし、屋上は出れないはずだけどな。ここは親切心で言ってやってもいいけど、とりあえず黙ってついていこう。


 ガチャ


 階段を上っている最中に、先に屋上の扉に着いた三条カノンは扉をあける。都合よく鍵って開いているもんか?いやいやいや。そんな都合のいいことばかりではないだろ。鍵を持っていたのかなんなのか。

 俺は、もちろん、そこを指摘もしないし、四宮シノアは知ってるか知らずか何も言わなかった。


 屋上にて


「三条って社交性高いのな、誰かさんと違って」

 俺は、四宮シノアに目を向けて言うと


「あら、私の記憶が正しければ、空気かと思うくらい、誰からも存在を視認されていない人が、自分のことを誰かさんという言葉を使うのは不思議なものね」

 四宮は、あなたは馬鹿なの?と言わんばかりである。


「え、俺??四宮さん、俺は、君に言ったつもりだったんだけど。

 もちろん俺も似たようなもんだけど。というか、存在を視認されていないとかいうな。

 悲しすぎるだろ。俺とお前はクラスの中ではほぼ一緒の扱いだろ。言ってて悲しくならないのか?」

 ここは、俺も譲れない。ぼっちだという事を自覚しないぼっちは、人に迷惑を掛ける可能性が高いので、ぼっち指数の高い俺としては、本人にしっかり理解させる義務がある。


「何を言っているの?。私は、散々声をかけられていたけれど、関わってほしくないから、あういう態度をとっていて、その結果、誰も近寄らなくなっただけ。誰かさんと違って、そもそも視認はされているわ。

 むしろ、クラスの男性達は、度々私を見ているわよ。如月くんには、とても、、、悲しいことをお伝えしなくてはいけないけれど、私と如月くんでは、同じような事が起きていても、前提や本質が違うのよ」

 四宮はぐうの音も出ない切り返しで、俺の義務を見事に打ち破った。

 おっしゃる通りだが、そこまで明確に言われると、俺が視認されていないという"事実"は認めざるをえないな。

 さすがだよ、四宮シノア。泣きそうだよ。


「二人はいつもそんな張り合いをしているの?私から見ると、四宮さんは拒絶していて、如月くんは空気扱いなのはわかるけど、結果一緒じゃない?ぼっちという事実は」

 ニコニコしながら三条カノンは、俺と四宮をどんぐりの背比べを揶揄する。


 ぐぬ。三条、おのれ。


「ただきっと私も一緒。受け答えはするし、誘われればいくけど、決して自分から関わろうとは思わない。

 四宮シノアがいう前提という表現が正しいのかどうかわからないけど、心の奥底から仲良くなれるわけじゃないと割り切って接してるよ。ご近所さんみたいなもんだね」

 ニコニコから一点、遠くをみながら、しみじみ言う三条カノンはなんだか儚げに見えた。

 三条カノンも三条カノンで、これまたすごい闇を抱えているのかも。それか、リアリストか。

 自分の地ででいっている俺や四宮シノアのほうがよっぽど子供なのかもしれない。


「それはいいとして、如月はこんな感じだし」

 三条シノアは履き捨てるように言う。


「こんな感じとはどういうことだよ」

 一応、言い返してみる。わかってますよ。安心してください。優柔不断ですよ。


「優柔不断ってこと。その場、その場で四宮にも私にもいいこと言ったんじゃないの?」


 そ、それは。完全否定できない。

 すぐに決断を出すこと自体が、俺にとっても三条カノンにとっても四宮シノアにとってもいい結論に結びつけることはできるとは思っていない。

 ただ、そう自分に言い聞かせていて、その言い訳に見合う理論武装をしていたのを、三条カノンから本質的なことを言われてしまうと反論はできない。

 おっしゃるとおり、俺は優柔不断で、結論から逃げていました。


「だ、か、ら。ここはひとつ、私と四宮で決着をつけようと思うの」

 顔はにこやかだが、目が笑っていない。そんな表情で、三条カノンは俺や四宮シノアに向かって、そういい放つ。


「私か四宮がどちらが上か明確になれば、如月が優柔不断でも、主導権があるから、物事を進めやすいでしょ」

 三条カノンは、思っていたよりもずっと合理的なやつなのかもしれない。

 キーとなる対象人物が優柔不断で不明確なのであれば、その周りがしっかりしていれば、それでも物事は進む。

 つまりは、強制的にでも物事を進めていける環境をつくろうじゃないか。と提案しているわけだ。


「そうね。あまり、無用な争いごとはしたくない質なのだけれど、三条さん、あなたの提案はすごくシンプルでわかりやすいわ」

 四宮シノアは、毒ははくにせよ、無用な争いごとはしないタイプだと思っていたので、てっきり「何いってるの、あなた正気?」と言うだろうと思っていた俺の推測は見事に外れ、四宮シノアも三条カノンの提案及び挑発に乗るようだ。


 俺が思っているより、彼女達はもしかいたら修羅場をくぐって来ているのかもしれない。ゆっくり考えていきましょう。なんて。平和な国に生まれて、何一つ不自由なく育ってきた温室育ちの奴が考える選択しなのかもしれない。


 三条カノンと四宮シノアのやりとりをみていて、これから俺が足を踏み入れるべき環境は、三条カノンや四宮シノアのような、激しい考えを持たなければやっていけない世界なのかもしれない。と自分の考えを少しだけ改めるキッカケにはなった。

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