12. ワンブレイク・タイムの先生

 そこに現れたのは、二階堂アヤノ、担任の先生だ。


「お、先生」

 これは助け舟かもしれない。

 三条と四宮を【スピリットトリガー・マシンガントーク】で硬直させたところまではいいが、硬直状態が解除されたあとに、そうね、あなたの言うとおりね。私達も自分達の一方的な思い込みや価値観を押しつけるのは反省して、少し今後の事を考えてみるわ。

 なんてほぼの確率で言われことはないだろう。

 だが、ここで二階堂アヤノ先生が入り、この場を解散させられることでワンブレイク入れば、もしかしたら、その後、俺の言葉をかみ締めて、感情論はおいといて、三条や四宮にとっては無難な選択肢、俺にとっては現段階では最高の選択肢の方向に結びつくかもしれない。


 先生のスキルを

【ワンブレイク・タイム】

 と名づけてあげよう。


 そのままだが。


「如月カイ、お、先生、じゃないわよ。今、もうHRも終わって一時限目よ。しっかり欠席扱いになってるから、あとで職員室にきなさい」

 マジか。三条と四宮のやりとりに巻き込まれて遅刻か。実は皆勤賞狙ってたんだけどな。

 早くも終了した。

 大して大きな目標もない俺のささやかな目標のひとつが未達成に終わったことに心の奥底から深い悲しみに襲われた。


「四宮さん。あなたも如月くんのせいで評価が下がったら、悔やまれるでしょ。如月くんの命を授けたとしても、償いきれないわ」

 二階堂アヤノ先生は、四宮シノアの評価などを気にしたりしているんだな。

 なぜか俺の評価は気にせず、なんなら、その罪を命で償う話にまで発展しつつも償いきれないらしい。


「そうですね。如月くんの人生をかけて償ったとして、償いきれないです」

 四宮シノアは、冗談で言ったであろう二階堂アヤノ先生に、いつもどおりのポーカーフェイスで答える。


「おいおい、先生、俺の命軽すぎだろ」

 当然のごとく、注意する俺。


「あはは。悪い悪い。如月くんに四宮さん、珍しい組み合わせだと思って。四宮さんにはつっこまないんだ?」

 二階堂先生は、ヒナリに少し似ているところがあるように思える。

 ヒナリは妹フィルターがあるからしょうがないとして、あんた先生なんだから、もっと生徒のポテンシャルをあげてくれよ。


「諦めてます。四宮は俺を弄って弄って弄り倒したいみたいなので」

 ため息混じりに諦めて嘆いた感じに答えることにした。


「ほら、あれですよ、好きな子はつい意地悪したくなっちゃうみたいなやつ」

 一応、俺なりの自尊心の保たせ方を思いついたので、追加コメントしてみる。


「そんな訳ないでしょ」

 四宮シノアは、真顔で切り返す。

 そうだよね。四宮シノアはこういう奴だった。

 また、俺がすごい恥ずかしい奴になってしまったよ。


「いいところを見つけよう、見つけようと努力しているんだけれど、勘違い発言とか変態プレーとか、なんだか自分に酔った発言とか多すぎて、その考えがいつも埋もれてしまうの」

 四宮シノアは、本当に困ったのよね。といわんばかりに、あごに手をあてて、考えげに答える。

 一応いいところを見つけようとしてくれているのか。いいやつだな。四宮シノア。

 ってはならないだろ。

 絶対いいところを見るつもりはないよ。四宮シノアさん。


「あら、変態プレーって。高校生なんだから、ほどほどにね」

 二階堂先生は、ニタニタしながら四宮の発言の揚げ足を取る。


 「ちょ!!先生違います、この人が、そこにいる三条さんにしている行動に対して変態プレーと言っているだけです。私は、半径1m以内近づけさせない様にさせているので大丈夫です」

 四宮シノアは、二階堂先生にそう思われているのが恥ずかしいのか、少しだけ顔を赤らめ、表情を崩して、自分の発言の揚げ足の言い訳をし始める。

 さすがに、二階堂先生には、毒は、吐かないか。

 そして、半径1m以内って、それ、初めて聞いたぞ。四宮シノアは、人の心をへし折る能力は天下一品だな。


「ちょ!!、な」

 変態プレーをされた三条さんとして、四宮シノアに紹介された三条カノンは、何言ってんの?そんな奴に私が変態プレーされている訳ないじゃない。と言いたかったのだろうが、されている自分に負い目があるので、擬音らしき言葉をあたふたと顔を赤らめて恥ずかしいのを誤魔化すような動きをした。

 いやいや、三条カノンさん。あれは立派な正当防衛である話をしましたよね。

 お前までそう受け取ってしまうと、本当にそういう事になってしまうので、気をつけてくれ。


「そうなの??」

 二階堂先生は、ニタニタしながら、

「始めましてね、三条さん。あなたが今日からうちの学校に転校してきた転校生さんね」

 ニタニタしながらも、挨拶に先にしてそれ以上つっこまないところあたりが大人だ。四宮シノアよ。見習ってくれ。


「先生、四宮さんの言ったことは気にしないでください。挨拶が変なタイミングになってしまってすいません。今日からお世話になります。三条カノンです。

 四宮さんが如月くんのことが好きみたいで、如月くんは私のことが好きみたいで、私は一番なんとも思っていないのに四宮さんに絡まれて、如月くんが助けてくれないのが今の状況です。だから気にしないでください」

 三条カノンは、二階堂先生に笑顔でそう言い切った。

 三条カノンよ。俺は、お前のその二枚舌を尊敬するよ。


「歪曲した発言はしないでちょうだい、三条さん」

 すこしお怒りな四宮シノアさん。


 なんとなくの空気を読んだであろう二階堂先生は、あはは。とだけ笑い、これ以上、この話題を追求するのはよくないと判断したと思われる。


「とりあえず、仲良くやってくれることはいいことだ。HRは終わってしまったから、とりあえず急いで1時限に参加して、2時限目の前にクラスのみんなに軽く挨拶する流れでいきましょう」


 同じクラスなのか。四宮シノアといい、三条カノンといい。そんなに転校生がひとつのクラスにまとまるわけがないだろう。どんなマジックを使ったんだ。


 キーン


 コーン


 カーン


 コーン


「あれ、二階堂先生、このチャイムって」

 考えてみたら、俺達は登校時間から始まり、HRも過ぎ去り、1時限目もそこそこ過ぎていたところで、二階堂先生に見つかり注意を受けているところな気がするな。


「たはは。私は、ここには今来たんだ。二時限目からしっかり参加するようにね。さ、急いで教室に行きましょう。三条さんの紹介の時間がなくなっちゃう」


 二階堂アヤノ先生は、既成事実をつぶしにきた。

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