8. 想い

 すこし三条をからかいつつも、一番のところを聞き忘れていたので、聞いて見る。


「三条の組織や三条が目指している俺との最終目標はなんなんだ?

 タイムパラドックスボックスのキッカケを作り出す俺の運命に抗わず、話あって決めていくとはいえ、こうしたいって狙いというか願望というかはあるだろ?」


 話合って決めるといいながら、尊重してくれるわけではないという伏線を含まれている以上、そこはできる限り明確にしておいたほうがいい。

 俺だけのことを考えると、今のところはだが、どういう判断をするといいのかは、個人個人や陣営同士の価値観が違うのと同じよう、正直、複雑な気がしているので、まずは、明確な敵を作らないことに注力したほうがいい。

 もちろん、四宮シノア陣営のように、永遠に眠らせるような俺に害を与える選択肢をしてきた際には、完全にあいまみれることが無くなってくるので。

 四宮シノアにしろ、三条カノンにしろ、俺の存在自体を消そうとする考えを持っているほうが少ないことを切に願いたい。

 だが、今後はそうも言ってられなくなる気もしている。

 いざそういった陣営ないしエージェントが現れた時には、存在を消されることがデメリットになる陣営を、各々の最終目的地こそ違えど、束ねておくと、生き抜いて行きやすくなる気がしている。


 すごく打算的ではあるが、生き抜くためには必要な戦略だ。


「私達、ないし私の考えは、権力者の支配構造が悪化してしまうことだけを避けられればと思ってる。

 さっきも言ったけど、如月自体の行動を止めたところで、タイムパラドックスボックスは生まれると思うの。

 またそもそも、運命論や永劫回帰論の極論でいくのであればそもそも、私達の行動自体がその大きなレールの中にあるのかもしれない。

 でも、レールの中の動きに終わって、取り越し苦労だったとしても、それはそれで構わないと思っている」


 三条カノンの言う運命論や永劫回帰論は本質を突いているように聞こえる。

 そう思う事自体も結局は価値観ではあると思うけれど。


「可能性を信じたいだけなの。

 もしかしたら、いい使い方もあるかもしれない今、みんな、その技術に溺れてしまっているだけで一般化されたら違うのかもしれない。

 正直、AさんがBさんが、あの時あーしていればよかった。

 なんて考えをもとに過去改変すること自体はどうでもいいと私は思ってる。

 そもそも私たちの生きてきた世界軸や時間軸では、タイムパラドックスボックス自体がそんなに一般的なものではないので、AさんやBさんのあーしておけば、こーしておけばまで対応できる状態ではなかったしね」


 三条カノンは、起きてくる事や人の願望に対しての許容範囲を設けたいと考えての過去改変に対する考え方は伝わる。

 可能性を信じたい。という切なる願いも何か思いがあるのだろう。


「今後のことはわからないけど、今はそう思っている。

 結局、過去改変におけるタイムパラドックスが起こす自体の行く末は誰もわかっていないのが、正直なところ。

 現状、私の元いた世界は混沌としているわ。

 私達の世界軸や時間軸においてはタイムパラドックスボックスはそう簡単に乱用できるものではないけど、もっと未来の時間軸、またはもっと違う世界軸では、乱用されているかもしれない。

 想定しうる自体を回避していそうな動きだったり、狙って物事を進めているような動きをしている権力者が現れているのは事実。

 通常では考えられなような情勢の変化を日常のように受け入れている人と違和感を覚えている人で入り混じっている。

 もはや、誰がどこの誰なのかすら、疑心暗鬼に満ち溢れていて、わからない状態になってる」


 俺が思っているより、事は深刻なのかもしれないと思ってしまう内容である。


「如月が私や四宮と話をしていて、いまいちつかめないのと一緒私や四宮はきっとその中で情報開示しているほうだと思うよ。

 ただ、あまり、知らなくてもいい情報を知りすぎること自体が、その人にとってのリスクになってしまう可能性も非常に高いしね。

 だからもはや、私の世界軸、時間軸は純粋なものなのか、過去改変の繰り返しによって作り出されたパラレルワールドなのかすらわからなくなっている」


 三条カノンからの説明は、大枠では理解し、詳細を把握は今ではないということはわかった。

 雰囲気だけでも掴んでおくのが、大事だ。

 どこまで深刻な事態になっているのか、いわゆる内紛とか内争みたいなことも頻繁におきているのか、平和主義者で、未来も永劫できれば平和であってほしい俺としては、その先一歩の質問はしづらかった。


 今生きている現代でさえ、場所が違えば、内紛、内争に巻き込まれているというのに、平和主義者ってのもおかしな話だが。

 人は自分の見ている世界、体験している世界での想像のほうがしやすい。楽な環境であればあるほど。


「わかったようで、わからない箇所も多いが、とにかく、必要最低限の悪化で済ませたい。それが、三条の考え。ってことでいいんだよな?」


 四宮シノアと交わしたような曖昧な意思表示の確認をする。

 曖昧はよくないとされる傾向が世の中にはあるが、曖昧の美学ってやつが俺はあると思っている。

 約束事において、物事を明確に決めてしまえば、そうならなかった時の後処理はとてつもなく大変だ。

 すでに目標としている事項があると、そうならないのが確定になった時に、どこまで許容するのかといった話になってくる。

 それであれば、ある程度大枠の曖昧な状態にしておくのは、そもそも細かいことが決まっていないので、起こってきたことに対して、大枠にそらずにその中で考えていくことができるからだ。

 そのまま何も進まないというデメリットもあるが、今の状態を考えると、何も進まないこと自体も、俺にとってはメリットになる可能性もあるので、今回は、曖昧の美学、発動でいいだろう。


「そうね、それで大丈夫。まだこれからだろうけど、人は極力同じだけのチャンスやチャレンジができるような環境であってほしいという考え方が私達、私の考え方。

 真の平等は無理だけど、生まれた時から、その人の運命が決まっているよう、レールができてしまっているようなそんな世界は嫌なの。

 そんな世界だったら、楽しくないでしょ。一部の権力者というのは、自分たちの権利や利権のためだけにそういった可能性をひたすら潰してくる可能性があるから、そこを阻止したい」


 三条カノンも結構ハードな人生を送ってきたのかと思わせる意思表示ではあった。

 その辺を垣間見れるのは、きっとこれから三条カノンと一緒に過ごす中で見えてくるのだろうか。


「だから、いろんな話をしようね。私はこう考えている、如月はこう考えている。

 意見が違うなら、お互いが納得するまで話し合いたいし、できることなら、あいまれみなくなって決裂するのでなくて、一緒にその壁を乗り越えていきたい。

 もちろん、これから現れるであろうエージェントや刺客がいて、如月の生命を脅かすような存在であれば一緒に戦うよ。

 だから、大変な環境に置かれてしまったと思うかもしれないけど、如月に与えられた使命を全うして、世界にとっても如月にとってもそして私達にとってもいい方向に向かっていけるうれしい」

 そう照れくさそうに三条カノンは、上目遣いで、恋人同士が交わすような熱い契りを求めてきた。


 可愛いな。


 キュン死しそうだよ。


 あ、なんか同じことを別のシチュエーションでも言ったような言わないような。


 この箇所だけをピックアップして、周りの人に聞いてもらってもらってたら、これはもうイチャイチャカップルにしか見えないな。


 この流れに便乗して抱きしめておくか。


 っと、キュン死からの暴走妄想乙。


「そうだな。その宣言はありがたい。とりあえずだが、今日1日で色々なことがあるから、自分の中でももう一度色々整理させてくれ。

 三条と四宮との関係値、はたまた新しい誰かが現れた時に、各自とどういった関係性を築いていくかもある程度、シュミレーション立てておきたいしな」


「は?」

 いきなり、三条カノンが怪訝そうな返答をする。


「え?」

 三条カノンのそのリアクションに俺もびっくりする。


「いやいやいや、この会話の流れでいったら、私にすべてを委ねる流れでしょ。何、四宮とか他のとか言ってるの」

 三条カノンはすごい近さですまさじく凄んでくる。

 続けざまに余計なことを言った日は、リアルな世界とは違う黄泉の世界に飛ばされてしまいそうなそんな目をしている。


 あ、そういうことね。あぶない、あぶない。すべてを尊重するわけじゃない。と言われていたばかりだったな。


「もちろん、三条がメインだ。そういう中でのすべてを無視するわけにはいかないだろ」

 三条カノンのすごい凝視に耐えられず、目をそらしながら、その場を取り繕う返答をしてしまう。


「そう、ならよかった」

 満面の可愛い笑みに戻る三条カノン。


 こいつ、もしかしたらヤンデレパラメーターそこそこ高いのか?だとすると、俺に課せられるミッションは、世界を救う以外も出てきそうだ。


「三条が俺のメインってことは、三条にとっても俺のメインってことだから、今日はこのまま泊まっていくってことでいいんだな?」

 そういって、ベッドに移動し、座り、ベッドの上を少しトントンと叩いてみる。 


「は?、何言ってんの?泊まるとか?一緒に寝るとかありえないし」

 手をバタバタさせて顔を赤らめて、むちゃくちゃ恥ずかしそうにする三条カノン。


「・・・で、でも如月が信頼関係のためにそうしたっていうなら」

 そして、モゴモゴしながらボソボソと言い始める三条カノン。


 まずい。これは地雷だったか。


「嘘だよ。なに、本気にしてんだよ」

「し、してないし。もういい、帰る」

 ぷいと向いて、三条カノンは部屋の扉に向かう。


「じゃあね」


 ここであまりイニシアチブを取られるとよくないが、からかうのも地雷臭がしてまずい。四宮とはまた違う攻略を求められるな。がんばれ、俺。


 そう、ふと思っていたところ、大事なことに気がつく。


「おい、ちょっとまて」

 部屋の扉を開けて出ていったら、そこには家族はいて、遭遇率ほぼ100%じゃないか。あいつなんで来る時は侵入で、出る時は普通なんだよ。

 待て。と言った言葉が聞こえてはいないだろうが、止めると共に扉を開けるとそこに、三条カノンはいなかった。

 おい。三条カノンが扉を開けて、出て行って、俺が扉を開けるまで、何秒の世界だぞ。階段を降りて、玄関を見る。玄関から普通に出て行ったのか?家族とは顔を合わせてはいなさそうだったが。

 人は自分の想定外のことが起きると思考停止しやすいというが、まさに今その状態に俺はなった。ただ、それよりもなによりも今日1日だけで起きた出来事があまりにも濃密すぎて、今日だけでいうともう何もないと思った瞬間に気が抜けた。


 俺はまだまだ知らないことだらけなんだな。とりあえずは精神的に疲労困憊だ。寝よう。

 俺のなんでもない、なんにもない日常生活は今日ここで終わりを告げるのか。と心に引っかかる何を思いながら。

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