7. 考え方と接し方

「その前に、如月は、四宮とのやりとりはどういった着地で落ち着いたの?」

 三条カノンからは返答の前に探りの質問がやってくる。


 その質問から察するに、四宮シノアとの会話は把握していないのだろうか。

 探りを入れてこられている時点で駆け引きが発生するのを感じたので、不必要な情報開示をするのは避けよう。


「四宮とは、当面は四宮が俺の側にいるということで様子見ようというのが今日の話だな」

 薬のこととか、他の選択肢で伴侶とかそいうった話は一旦置いておく。


「四宮から渡された薬は飲まなかったの?」

 三条カノンは早速、薬の存在を自分から伝えてくる。薬のことは知っているのか。


「薬はさすがにないだろ。俺の今後の人生をすべて投げ出すのを受け入れた時だけだろ、あんなの」

 三条カノンのリアクション次第では、対応を大きく変える必要のある問いかけ。


「そうだよね。うーん。そーだよねー」

 三条カノンは、何かを自分に言い聞かせるように頷く。

 何か引っかかるような言い方ではあるが、その返答で助かったよ。


「やりとりを聞いてどうするんだ?四宮とのやりとり次第で、三条の対処方法がかわったりとかはないだろう?」

 四宮シノアの行動を探ろうとしてきている意図を知りたいところがだ、なんでなんで?等と聞いたところで素直に教えてくれるとも思わないので、三条カノン側の見解を早く知りたく、オーダーを早く言うよう促してみる。


「うん、変わらないけど、如月がどういう考えでどういう判断をしていきたいのかは知りたいし、知らないとまずいからさ」

 三条カノンは、笑顔で答えてくる。ちゃんと相手を知ろうとして話を進めていこうとするあたりは四宮シノアとは全然違う。いい奴なのかもしれない。


「私達の組織というか、私自身ももちろんその考えなんだけど」

 三条カノンはしっかり俺のを見て、そう自分の考えを改めて踏まえた上で言葉を発する。


「基本的には運命論や永劫回帰論を信じる考えを持っているので、如月を仮にタイムパラドックスボックスの発明のキッカケから遠ざけたとしても、世界の理はきっと変わらなくて、結局、他の誰かが同じことをするんじゃないか。って考えているのね」


 その考えはごもっともな気がする。そもそも俺に、そんなキッカケを作り出すだけの才能が現時点であるようには思えないし、俺一人がどうにかなったところで、すべてが解決できるような問題とも思えない。

 組織や国のトップがいなくなったところで、誰かがやるのは変わらないはずである。

 その変わった誰かが、元々やろうとしていた人より良い結果を出すかどうかは別の話にはなると思うが。


「だから私達、または私は、如月にこのまま普通に生活してもらって、来るべきタイミングで覚醒するのか、もしくは偶然の重なりでタイムパラドックスボックスの発明のキッカケに携わって欲しいと思っているの。

 大事なのは、そうなった時に、どういった使い方をするかだと思うんだよね。

 そもそも不思議なのが、キッカケを作った人物ってなっているじゃない?発明した人ではないんだよね。

 普通。っていっちゃいけないかもしれないけど、作った人に焦点を当てるべきなのに、なぜかキッカケを作った人に焦点を当てているのは、深い意味合いがあると思うの。

 でも、私たちは、現時点ではわかっていない。

 キッカケを作った、如月カイ、あなたを、内からか、外からか、存在からか、わからないけど、変えることに意味がある考え方になっていて、今の動きにつながっているの。

 だから、この案件というか、事案は、わからないことだらけなのよ。

 如月カイ、あなたはもちろんのことながら、ミッションをこなそうとしている私達も。

 なので、起きてくることは受け入れて、起きてきたことに対して、どう対応していくかを如月と一緒に考え、行動していくのが私達の考え」

 そう言って、三条カノンは、ベッドから下り、勉強机の椅子に座っている俺の前に近づき、笑顔で手を差し伸べてくる。


「現時点では、私達、私の考えに賛同してくれるってことでいいわよね?」

 三条カノンの言われたことそのままを受け入れるには、危ない気はしている。

 しかし、四宮シノアとは違って多少は上から目線ではあるものの、ある程度、こちら側で掌握しやすいのではないかと、打算的なことを考えてしまい、求めてきている握手を拒むデメリットはないと判断した。


「そうだな、今の時点では、三条の考えに同意するよ。俺の未来への俺の意思を信じてくれてるっていうことで捉えていいんだよな?」

 俺も手を差し出す。


「え、違うけど」


 え、違うの?


「え、違うのかよ?」

 心の声をそのまま出してしまった。昔のコント番組とかだったら、ずっこけるところだったぞ。

 そして、差し出した手は、引っ込める変な運動で終わる。


「言ったでしょ。あくまで一緒にいることで、その時その時に一緒に考えて一緒に行動することに意味があるの。

 如月がその時に、私達や私の考えと相反した行動をし続けるのであれば関係は破綻するよ。

 もちろんそうならないように信頼関係を築いていくつもりだけど、如月の考えになんでもかんでも合わせるってことではないよ」

 三条カノンは、わかってるでしょ。と言わんばかりに、握手を求める手を更に突き出してくる。


 まーそれはそうか。俺の考えを尊重してくれるような受け捉え方してしまったのは、俺の勘違いですよね。はい。すいません。言っていることやアプローチの仕方が違うだけで、本質的なところは四宮シノアと同じなのかもしれない。


「わかったよ。とりあえずは、話あってはくれるけど、間違っていると判断したら全力で止められる。ってことでいいんだな」

 俺は、差し出し、戻した手をまた差し出す。この動きだけで見るとちょっとコントだな。


 「そうそう。わかってくれてうれしい」

 ニコニコしながら握手した手をブンブンブンを振り回し、離す。なんだか小学生みたいだな。


 掌握できるといった考えは改めよう、行動が純粋そうに見えて子供のように見えるだけで、考えはそれなりに固まっているような気もするので、一挙手一投足意識したほうがいい。


「ところで、三条の組織というのは、どういうのなんだ?」

 四宮シノアからもそういった話を聞き出せなかったし。そもそも四宮シノアとはあまり会話が成り立つ気がしない。俺がひたすら弄られる。その点、三条カノンは、会話が成り立つような気がするので、気になったことは気軽に聞ける。


「それは、ごめん。言えないの」

 撃沈。エージェントってのは、距離感が非常に難しいな。


「わかった」

 考えている事を悟られないようにしておかないと。

 ただ、まーずっと側にいるって話だし、いつか知れる機会はあるだろう。

 三条カノンのいうとおり、焦らずに関係を構築していけばいい。

 それは四宮シノアも一緒だな。


 ん??あれ、ちょっと待てよ。ずっと一緒にいる?


「三条、お前はずっと一緒に俺といる。っていうけど嫌じゃないのか?」

 数時間前まで、どこぞの四宮シノアには、生理的に受け付けないだの、私の意思がどうだの言われていたトラウマを思い出し、恐る恐る聞いて見る。


「全然、嫌じゃないよ。この世界軸、時間軸に来る時にある程度、人物資料には目を通しているし、無害な人物という認識はしているからね。だからこそ、部屋にも気軽に侵入したものあるんだけど。さっき襲われたのが、想定外というのはそういうこと」

 三条カノンは、また俺をじとっと睨む。


 なるほどな、ずっと一緒にいるといっても四宮に比べると軽いノリなのか。

 司令内容ももしかしたら担当の属性もしっかり見た上でされているのかもしれない。

 四宮シノアに三条カノンと同じような、側にいて関係値を構築して一緒に行動しなさい。と指示されても、あきらかなぼっち属性の四宮シノアにはどう対応していいかわからないと判断しての伴侶指示だったのかもしれない。

 それしても、友達になれないから恋人になれ。と指示しているようなもので、それはそれで改めて考えるとすごい話だ。

 よくある恋人が別れる時に、友達に戻ろう。とか友達にはもう戻れない。とか元々友達ではなかったんだし、今更友達とか無理でしょ。

 とかとかとか、そういったことが巷での情報ではよくあるなと思った。

 ま、どうでもいいけど。


「わかった、わかった。悪かったよ」

 俺は、襲ってしまった事件を謝るとしたらこのタイミングと判断した。


「言い方がなー」

 三条カノンも本気で怒っている訳では無いと分からせてくれる言い返し方である。 


「ただ、てっきりずっと一緒にいるって話だから、生涯を遂げて一緒になる。って意味で捉えていたよ。そのために、部屋に入ってきたのかと」

 ここで、会話のイニシアチブを取られるのはよくない。俺はそう言うと、三条カノンは、また顔を赤めて言う。


 「そんなわけないでしょ。本当、変態ヤローね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る