6. 立場による見解と初めて宣言

 手を離し、叫ぶ様子がないと分かった俺は、ボブヘアー嬢の上から離れ、ベッドから離れ、勉強机の椅子に座る。

 ボブヘアー嬢のメンタルが落ち着くまで、何も声を掛けることは止めようと思い、スマホを触って時間を潰す事にした。


 本人の無用心がたたり、こんな事態を巻き起こした意識をできれば本人に持ってほしい。

 なんだかこういう言い方をしてしまうと、ものすごい俺が悪いやつな気もする。

 だがしかし、俺だったから良かったものの。と自分で自分に言い聞かせておく。

 俺としては、未確認物体がいきなり現れたので、最善の行動を取ったまでだ。

 ただ、とてもつなく居た堪れない気持ちになっているのは、きっとボブヘアー嬢のおびえ方の映像が頭に残ってしまったからなのだろう。


 なんだか、いろいろ、すまん。心の中で謝っておこう。

 今、言葉で謝ると、色々と口撃を受けてしまいそうなので。

 このシチュエーションが四宮シノアでなくて本当によかったと思う。

 完全にその後、弱みに握られ、俺は四宮シノアの一生奴隷になってしまっていたかもしれない。


 そもそも、四宮であれば、人の家の部屋に勝手に入り込んで、待っている間に眠くなってしまったから寝てしまった。

 なんて事は間違いなくありえないだろう。


 ボブヘアー嬢、天然なのか、アホの子なのか。

 ボブヘアー嬢は、泣きそうになった顔を見られるのが嫌だったんだろう。

 ベッドの上で、座りながら顔をうつむき、とにかく深呼吸をひたすらしていた。


 しかしながら、俺も思い切ったことをしたなーと心の中では自分を少し褒めてみた。

もちろん客観的にみたら相当危ない変態行為なのかもしれないけど、緊急事態の対応方法としては悪くないのではないか。

 反射神経としてとった行動としては、今後巻き込まれるかもしれないいろんな事態を想定したときに、なんだか乗り切れそうな気持ちに慣れるわずかな自信と興奮に気持ちが高ぶっていた。


 もちろん、興奮といっても、性的な興奮ではない。性的な興奮だったら、俺は危ないやつだ。

 まーでも完全になかったか。っと言われるとそういった思考にならないように意識したというのが正解ではあるが。


 気持ちを落ち着かせてきたであろうタイミングを見計らって声をかけてみる。


「まずは自己紹介からしようか。俺の名前は、如月カイ、知っているとは思うが、一応自分の口から紹介させてもらう。お前の名前を教えてくれ」

「・・・三条、三条カノン」

 しばしの間が空き、とはいえ1,2秒だが、ボブヘアー嬢改め、三条カノンはベッドの上で俺に見えないように顔を俯かせていたが、こちらを向きそう答えた。

 この1,2秒が、俺にはすごく長く感じた。

 まだ押し倒して泣かせてしまった罪悪感が俺の中にあるのだろう。

 この罪悪感ときまずさ、早くなくなってくれ。もうちょっとアイアンハートな俺になってくれ。


「三条。俺は、今日、四宮シノアという女からいろいろ聞かせてもらったよ。

 そうはいってもかなり曖昧な情報も多くて、意味不明な内容も多かったけど。

 タイムパラドックスボックスによる、世界のカオス、タイムパラドックスボックスと俺の関係、俺に対して色々な人や組織や勢力が色々な対応策を持ってこの世界軸、時間軸に来ていること。三条は、俺をどうしたいんだ?」


「その前にどうして部屋にいるんだ?」

 根本的な質問も聞き忘れていた。


「順序立てて返答していく」

 アホな子だとは思っていたが、会話のキャッチボールができそうなくだりで入ってくれたので助かる。


「まずは、四宮シノアの存在。私は知っているわ。正確にいうとさきほど知った。というのが正しい表現」

「さきほど知ったということは、俺に接触したからわかったと捉えていいのか?」

 確信を付く質問をしてみる。


「そうね、ご名答。見た目と違って、頭は悪くなさそうね」

 三条カノンから、そのすごい上から目線回答をドヤ顔でされる。


 ぐぬ。

 四宮といい、三条といい、なんでこいつらは上から目線なんだろうか。

 彼女達が優秀な立場にいるからなのか、そもそも性格の問題なのか。謙虚さを持ってくれ。


「すくなくともこの世界軸、時間軸に来ているエージェント達は、全員ではないかもしれないけど、大凡ターゲットは如月のはずだよ。

 だけど、そもそもこのカオスな状態においては、どれだけの数がいるのかを把握できている人はいないと思う。

 なので、何かしらのアクションで目立ってしまう時が、自分の存在を周りに知らしめる時とイコールになってしまう。

 だから、タイミングはすごい大事。四宮の場合は、転校生として入り込んでいるので、その時点でほとんど、知らしめているようなものだけどね。王道なパターンで攻めようと思っていたので、そんなに気にしていなかったのかもしれない」

 三条カノンの説明は、四宮シノアから得られていない情報が多分に含まれている。

 今の時点では四宮シノアより三条カノンとのやりとりは価値が高いと判断できる。また、四宮シノアの一連の動きには、一応それなりに理由があった訳だ。


「次に。四宮から聞いた、如月の認識は間違っていないよ。

 それでも曖昧な情報が多いと感じかもしれないのは、きっと各自が認識している情報が違ったりしているからだと思う。

 同じ世界軸の同じ時間軸にいる同じ組織であったとしても担当によって知っている情報量が違うことも、もちろんあるしね。

 だから私からの説明も、多分如月がピンとくるものでもないと思う」

 俺の表情を見ながら、理解度合いを確認しながら三条カノンは説明を続ける。

 優秀だな。理解度具合によっては、情報開示が制限されるかもしれないので、表情の読み取られ具合を気をつけなければ。


 しかし、分からないことだらけにも関わらず、関係する人達もまた一つ一つづつの情報のピースしか持っていないとなると事は結構複雑だ。


「次ね。部屋にいる理由は、私はまだ如月と接点がないから、確実に二人きりになれる空間を狙って部屋に侵入させてもらったの。

 過去改変に関しては、色々な理論があるけれども、私達の組織は、むやみな過去改変を望まない。

 だから四宮がそうしていたように、本来であれば同じ学校の同じクラスの転校生のような形で知り合いになる環境を手順を作ってから、接触を図るの。

 過去改変をむやみにしたくない人達は、そのようなアプローチ方法が多いはず。

 本当は、私も転校生手順で考えていたんだけど、手配が間に合わなくて、四宮が今日、如月に接触したのを知ってしまったので、私としても出し抜かれてしまうわけにもいかないから、一発逆転を狙うにはどうしたらいいかを考えて、直接部屋に侵入することにしたの」

 三条カノンは、だから、しょうがなかったのよ。と言わんばかりの表情であるが、もうちょっとやり方なかったのかよ。と突っ込んでしまいたい気持ちは今の所、心の片隅にしまっておこう。


「いきなり部屋に侵入してくるのは、過去改変に大きな変化を与えないのか?」

 この接触の仕方はどう考えてもアウトな気がするが。


「もちろん、非日常的なことだから可能性としては、高いよ。ただ、四宮のことや、これからの起ころうとしていることを知っている状態でのアプローチであれば、そこまで話がこじれることもないかなと思っての行動」


 判断は個人に委ねられているのか。考えてみたら、四宮シノアも手引きのようなものを見ていたので、そう簡単に未来の所属組織とは、コンタクトとれないのかもしれない。


「寝ていたのも計算なのか?」

「ううん。それは本当に眠くなっちゃったの」

 おいおい。三条は天然なのかもしれない。

 悪い言い方をするとアホの子。知識が多かったり見解ができたりするのと、地頭がいいのは、また別の話だしな。


 そういえば、四宮も思い込みから、俺の対処方法の選択肢を考えてなかった抜け具合もあったしな。

 周りに集まってくるエージェントとやらはこんなのが多いのか。

 それはそれで、今後そういった奴等と、絡みが多くなると思うと、頭痛くなってくる。。。。。


「襲われたのは、想定の範囲外だったけど」

 目を細めて、俺を訝しってくる三条。


「いや、そ、それは、四宮から必ずしも俺に穏便な対応してくるところばかりではない。という話を聞いていたからな」

 やりとりからするに、気持ちも落ち着いてきているのか、冗談ぽく言えるようになったのはありがたかった。


「自分の身を守るための最善の判断をしたつもりではあったけど、襲うような雰囲気に持って行ってしまったことは後悔している。

 おまえの初めてをごめんな」

 俺は、そう言って、ちょっとドヤ顔で誤ってみた。 


「ちょ!!そういう意味深な発言をするのをやめて。は、初めてじゃないし」

 顔を一気に赤らめて、あたふたあたふたとする三条。


「ほー、初めてではないのか。俺は初めてだったけどな」

 この流れは面白い。もうちょっと揶揄ってやろう。


「だ、だから、そういう誤解を招くような言い回しをやめろ」

 手をバタバタ振り、テンパった状態の三条。


「なにが、誤解なんだ?。何と何を誤解しているんだ?教えてくれ」

 多分、俺の顔はドヤ顔、ニヤニヤな気がする。やはり俺はSだ。


「うーーーー。如月はやっぱり、変態ヤローだ」

 ベッドの上で、枕を抱きしめながら、顔を赤めていて恥ずかしがっている三条カノンは、やや可愛かった。


 やはり少々アホの子だ。やりとりしていて楽しいが。もちろん物事を大目に見てくれるところには感謝しておかないとな。


「悪い、悪い」

 すこし穏やかなやりとりをさせてもらって、リラックスしたところで


「それでもう一つの。むしろここが一番大事な箇所である、三条は俺にどういう対処をしたいんだ?」

 ここからが、今後の三条カノンと俺の関係性を決定づける場面。


「うん、そうだね」

 三条も真面目な趣で話に入ろうとした。

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