5. 初めての体験

 突然の出来事に理解ができず、一度部屋のドアを締めて深呼吸して再度開けてみる。


 いるな。


 俺の彼女。


 いやいや。


 俺には彼女はいないし、いたことないし、そもそも勝手にあがってきて勝手に寝ているような奴は彼女にはしない。あ、でも、そんな彼女も可愛いか。


 ベッドに寝ている彼女の隣に腰掛けて、トントンと肩の辺りをたたく。


「う、うーん。おはよう」

 目をしぱしぱさせ、頭をグラグラさせながらゆっくりと上半身を起こしてくる。


「なんで、ここで寝てんだよ」


「うーん。。。カイを驚かそうと思って部屋で待ってたら眠くなっちゃって寝ちゃった。」


 かわいいなーこいつ。

「お前、何やってんだよ、まったく。どうしたんだ、こんな時間に?」


「うん、カイに会いたくなっちゃって、てへぺろ」

 ちょっとだけ何かを考えてから発言したその言葉は、ただただ可愛い返答だった。


「てへぺろって、もう古いだろ。とりあえず明日も早いし、泊まってってもいいけど、もう寝るぞ」


「やったー」

 今にも瞼が閉じそうな彼女は、目を閉じながら片手を上げて喜ぶ。すぐ眠れるからうれしいのか、一緒に寝れるのがうれしいのか。


「俺の部屋着に着替えるか?」


 っと。。。。。

 妄想乙。


 むしろ、ここまでの妄想力を掻き立たせてくれたこの子に感謝しよう。

 彼女いた事ないけど、彼女いた気持ちになれたよ。


 さんきゅーな。


 っで、ここからはリアルタイムだ。

 この子は一体何者で、そしてなぜ俺の部屋で寝ているのか?

 そして、なぜ可愛いのか?

 そして、もう俺の部屋で寝ているから俺の彼女ということでいいのだろうか?

 そんな想いを駆け巡らせながら、一応妄想と同じ行動を取ってみることにしてみた。


 ベッドに寝ている彼女の隣に腰掛けて、トントンと肩の辺りをたたく。

「は!!」

「寝てしまった」


 バッっとおきた、ボブヘアーで、トレーニングウェアのような体のラインが分かるちょっとエッチな格好をしていたそいつは、起きて顔を上げた位置がたまたま俺の顔の位置と近かったこともあり、目と目があってこう言った。


「きゃ」

「なんでこんな近くにいんの」

 顔を赤らめて言ってくる。


「この」

「変態ヤロー」

 言葉とともに浴びせられた俺への平手ビンタ。


 やはり現実の世界は妄想とは違うよな。ただ、夜、人の部屋に勝手に入り込んで寝ている奴を起こして平手ビンタされる現実もどうかと思う。


 痛みよりも何よりも先に家族に声とビンタ音が聞かれていないか気になった俺は、このわけのわからない女の口をふさぎ、覆いかぶさるようにベッドに倒れこむ。


「ん。。。ぐ。。。ん。。。。」


 右手で口を、左手で右腕を押さえ込みながら、すばやく腹の上に載る。左腕が自由な状態だが、かよわな女子の左腕で俺の右腹部を殴ろうともびくともしない。マウントポジションよりも密着した姿勢で小さい声で話しかける。


「おい、お前、この家は普通に家族がいるんだ。こんなところを万が一にも家族にでも見られたら、俺のいままで築いてきたイメージが一気に崩壊する。

 下手したらお前との意思の取れなさ具合から俺がむりやり連れてきたんじゃないかと思われて警察を呼ばれる可能性すらある。俺の家族は自分の家族であろうと、そういう対応する人達だ。だからまず、その状況を理解しろ。わかったか?わかったなら頷け」


 うんうん。と頷く、ボブヘアー嬢。名前が分からないので、一旦その命名で呼び続けよう。


「ふー、ふー」


 すこし息も苦しそうなので、少しだけ掌を広げて呼吸しやすくする。


「OK、OK。では、俺の質問にイエスなら頷いて、ノーなら首を横に触れ。わかったか?」


 口を押さえられた状態で、ボブヘアー嬢はうんうんと頷く。


「お前も未来からきたのか?」


 うんうんと頷く。


「四宮シノアと同じ目的か?」

 四宮の存在を知っているかどうかはわからなかったが、とりあえず聞いてみる。


 首を横に振る。


「お前は俺は抹殺しにきたのか?」


 首を横に振る。


 本当か?


 この質問に対して本当なのか嘘なのかを試す術はない。とりあえず、信じることにしてみるが、さすがに女子とはいえ、武器を保持されていたら、勝てない可能性もある。


「今から武器を持っていないか体を触るぞ」


「うー」


「ふー」


「ぶーー」


 触るな。って言いたいのだろう。ちょっと涙目になって歯向かってるように見えるが、これは決してセクハラではない。俺の身を守るためだ。


 そう自分にも言い聞かせて、抑えていた右腕をマウントしている内腿にはさみ、ついでに口を抑えていた左右の手をスイッチし、左腕も同じようの状態にし、自分の片腕を自由にした状態で、女性特有の危ないところはのタッチを避けたうえで、サイドを中心に組まなくタッチした。


 この状態を家族に見られたら。終わりだな。


 すべてが。


 本当に心の奥底からそう思った。


 武器はなく、後は叫ばれるリスクだけだが、警察を呼ばるぞ。という言葉事態は未来からきたのであれば避けたい事態だろう。


 そう思って、すこしづつ、抑えていた手を離す。


「こ、こ、この」

「変態ヤロー。。。」


 小さい声で、ボブヘアー嬢は、目に涙を浮かべてそう言った。

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