2. 価値観の相違

「そうよ。過去改変はよろしくないから、如月くんにはこのまま生き続けて欲しいのが私たちの希望。

 ただ、そもそも人は運命にはたやすく抗えるものではないのよ。

 やってはいけないことだとわかっていても、結局やってしまったなんてことはいくらでもあるでしょ?だからといってずっと見張っていくわけにも行かないし」


 ずっと見張っている訳にはいかないというが、わざわざ別の世界軸だか時間軸だかからやってきたのに、伝えるだけ伝えて、はい、さよなら。よろしくね。っとなんだか行事連絡の連絡事項くらい軽いな。

 しかも、そのあと何するかなんて信用できないから君の人生を誰の手間もかけずにロックさせてね。と、なんだか大それた事件のような今までの説明からの対応が一気に雑になっている気がするのだが。

 君たち、掃除当番誰にやらせる?あーあいつにやらせよう。でも、ちゃんとやるかどうかわからないから催眠術でもかけてやらせちゃう?誰かがチェックするの面倒くさいしね〜。キャハハ。みたいなノリで話をすすめてませんか?

 突っ込みたいところ満載であるが、さすがにその時いきなり怪しい黒服集団とかが現れて俺を押さえ込んで、倒れたところを無理やりに口に薬を含ますような事まではしないとは思うので、状況としては、無理やりではなく合意ラインを目指してくるのであろう。と踏んでみた。


 よって、一旦反論せずにそのまま聞いてみる。


「それを防ぐためには、如月くんの寿命までしっかり生きてもらって、人生を全うしてもらうこと。ただし、夢の中でね」


 わー。

 すごいドヤ顔で四宮シノアは言い切った。


「あ、でも安心して。この薬は脳を活性化させられる催眠がかかっているので、日々起きて日常生活を送っているような日々を送れるわよ。

 それどころかリアルではなく結局自分の頭のなかでの想像されている世界だから、結構自分の思ったようにことが進むようにできている」


 何を一体安心するんだ。こいつら絶対頭の中、お花畑だろう。未来はこんな奴らしかいないからカオスになっているんじゃないか?

 多分、俺の発明がキッカケで世界がおかしくなったのは嘘だよ。多分君たちが頭おかしいからだよ。


「今の如月くんみたいに、自分の思い通りにいかない日々を送っている人には最高の薬よ」

 そういって四宮シノアは、自身が提案している内容になんの疑いもなく、むしろ笑顔で私、いいことしてあげてるでしょ。感謝してね。っと言わんばかりに薬を渡してくる。絶対自分の価値観を押し付けてくる奴だな。悪気なく。


 いるよな~。こういう奴。むしろ優秀な奴で、こういったのが多い気がする。

 優秀な奴っていろんなことを整理しながら物事を進められるから、きっと理論だってて、人の気持ちは後回しなんだろうな~。

 すべての優秀な人達、ごめんなさい。こいつのせいで、すべての優秀な人達への印象が今、すごく悪いです。


 しかもさりげなく、俺の存在そのものを否定した発言もさりげなくはいっているところがM心からすると最高だよ。

 あ、俺はS志望だけどね。そんなに四宮シノアが思っているほど、自分の思い通りにならない人生なんか送ってませんけど。

 むしろ、思うことすらしてないから、そうならないなんてことはねーよ。馬鹿ヤロー。っといってやりたいが言わない。

 なぜなら言ったらまた冷たい目をされて罵倒されそうだから。


「いやいや、四宮さん、あたかもすごいハッピーな提案をしているように聞こえますが、残念ながら俺にとっては全然いい話ではないよ。っというかむしろその話を前のめりで乗ってくる人いるのか?」

 一応、冷静な判断をしれくれたら嬉しいな。という淡い期待と共に返答をしてみる。


「あら、そう?如月くんみたいな人で、かつ先の未来で事件起こすことが確定している人には、すごいいい話だと思ったのもだけれども、我侭ね」

 四宮シノアの困った人ね。と言わんばかりの、リアクション。


 いや、全然我儘じゃねーだろ。

 人と人との交渉事って、双方の希望から提示した上で、双方の着地点を見出して、結論に持っていくもんだと思うんだが。


「ところでちょっとした質問なんだが、四宮、おまえが俺とおなじような状況になった時に、今と同じような提案をされたら、心の奥底から自分から希望してやってみたいと思うか?」


「いや、やってみようとは思わないわね」


 やらないのかよ。四宮シノアなのか、四宮シノア達なのかよく分からないが、人の気になって。って考えが完全に欠如していやがる。

 私、今日買い物行きたいんだよね〜。あなたも行きたいでしょ。私が行きたいんだから。ね。だからいこうね。え。私が買い物行きたい気持ちじゃない時に誘われたらいくか?って。そんなの行かないに決まっているじゃない。何言ってるの?っというやりとりのようだ。


「でも私達が提示できる最善のプランはこれなのよね」


 まーやりとりからするにそうだろうね。安直さんだもんね。

 四宮シノア改めて安直シノアさんに解明したほうがいいんじゃないか。

 そうしたらやりとりしてて人を困らせることはないよ。あーきっとそういう家系なんだろうな。って思ってもらえるから。


「世界のために、未来のために、はたまた世界中の人のために、そしてなんだかんだ自分のために、もう一回冷静に考えてみて」

 四宮シノア改め安直シノアは、なんの迷いも疑いもなく提案してくれた。


 しかし、本当に、提案でよかった。これで無理やりだったら、それに刃向かって勝てるほどの自信も俺にはないし、相当悔やまれる状況になっていたと思うのだが。

 きっと勉強とかそっちの方面では頭いいんだろうけど、根本的にちょっとネジがズレてしまっている四宮シノアさんが担当でそれだけはよかったよ。

 四宮シノアは俺の納得をもってミッションを遂行するのは、やりとりからわかった。別に強制ならお粗末な説明とはしないだろうからな。


 だがしかし、なんだろうこの気持ち。

 この話を前提が、如月くんの人生はろくなことがないから、この道が一番無難だよ。っと言われているような気がする。

 四宮シノア含め、その組織という人達にどういった人間として見られているいるかがよく分かった。


 っというかどんな環境にいる人にだって、この提案はまずいだろ。

 思えば思うほど、目頭が熱くなるぜ。今にも俺は泣きそうな気持ちを押し殺してとりあえず抵抗を続ける。


「四宮のその組織の人達が俺や世界にとっての最善の道を提案してくれているのはよくわかった。

 だけどな、どんなにリアルな世界がしんどくてダルくても、自分の思い描いている未来を作り出すためにみんな努力しているんじゃないのか?俺が特別な事件を起こかもしれない人間だからといって、俺のその可能性も否定しないでくれよ」


 そういうと、四宮は目をぱちくりさせて、溜め息交じりに。っというか溜め息を思いっきりした。


「ふー。そうね、如月くんのリアルの世界も、もしかしたらすごく可能性と希望に満ち溢れた世界になるかもしれないわね。

 誰であってもその可能性を否定しちゃ駄目だよね」

 四宮シノアは、完全に俺を蔑んだような瞳でみながら、心にもないことを言ってくれた。


 ありがとう。

 心の奥底からお前は俺の可能性を否定してますね。

 はい。


「だから、四宮にとっては、最善じゃないかもしれないけど、寿命まで眠り続けるパターンではない方法を教えてくれよ。

 もちろんどんな感じであろうとも、時間軸や世界軸をいじってしまうようなことは俺もしたいとは思わない。

 そもそも本当にキッカケとはいえ、俺がそれをできるのか。って今でも思っているけれども、四宮がいうように、人間の感情や気持ちほどいい加減なもものがないのはわかってるから信じてくれとは言わない」


 反論しては、言い合いになってしまう。あくまでも諭すように諭すように。諭しているのが気づかれてしまうと、ネゴシエートは破綻してしまうので、あくまでもお願いをするような形で攻めていく。

 彼らなのか四宮シノアかには。強制する体裁はなさそうなので。


「だけど、もうちょっと俺の人権も守ってもらえる提案を頼む」


 しかし、なぜ、俺はこんなお願いをしているのだろう?お願いしてて虚しくなるな。

 俺は未来に何かやらかしそうですよ。というのは百歩譲って飲み込んだとしても、リアルな未来はきっといい人生送らないよ。っと宣言されて、そこをなんとか。なんとかもうちょっと情状酌量の余地をください。とお願いしている俺。

 さっきから俺の心はブレイクしまくって、再生不能領域までいきそうだよ。


「そうね。このパターンで喜んでもらえると思っていたから、他のプランの考えが私はほとんどなかったのだけれども、大丈夫。一応他のパターンももらってきているので、ちょっとまってね。本当にいいのね?」

 四宮シノアは学生かばんに薬を入れ、生徒手帳らしきものを取り出し、ページをパラパラめくっている。


 なぜそこで確認する?悩ましいことであるように見られているのが、もうなんだかなーって気持ちだよ。俺は。

 黙っているとかわいいんだけどな。

 しゃべっていると本人は無自覚に俺の存在否定しかしてこないから、かわいさが完全に消えうせるよ。

 人って不思議だよね。今は、全然かわいくみえないよ、四宮シノアさん。


 本をパラパラめくっていると、四宮シノアは急に固まりだす。なんどもなんどもそのページを見入って、目をパチクリとすさまじい高速瞬きをしながら、ふーっと一息深呼吸して答える。


「残念ね、他のプランはなさそう」


 いやいやいや。絶対嘘だろお前。

 なんでそんな嘘つくの?なんで俺に悲しい思いをさせたいの?俺の権利をもっと真剣に考えてあげて。


「嘘つけ、四宮、そのページに何か書いてあるんだろ。最善でなかろうがなんだろうが、プランとしてある以上、それを俺は見る権利がある」

 そう言うと共に、すばやく生徒手帳らしきものを上から摘んでとりあげる。


「な!何してんの?返しなさい」


 またもやキレ気味で。っというかキレて俺に圧力をかけてくるが、ここでひよっているわけもいかない。

 俺も人生がかかっているんだ。君達が対応しようとしている目の前にいる対象は、尊い存在なんだぜ。

 書いてあるその次の内容がいい内容とは全然思えないけど、俺の人生の生き方を託すのは不安すぎるので、完全に納得するまでは抵抗しつづけさせてもらう。


 そういうことで、申し訳ないが、全力で逃げる。


 全力で逃げようとする俺に

「ちょ、本当待って。如月くん、あなた、ターゲットになっているのだから軽率な行動は控えて。特にこういったやりとりしていたり、私の存在が分かってしまうような資料を持っていたりとするときは、私から離れないで」


 私から離れないで。という言葉がシチュエーションと声色が違うだけできっとものすごくかわいく聞こえるんだろうな。

 現実派は注意されているだけだが。そして、四宮シノアにとって、この場所は特別な場所なのかもしれない。


 ここはなんかの特別な【場所】なのだろうか。俺にはただの家の帰り道の住宅街の道端にしか見えないのだが。そんなに俺は危ない奴らに追われているのか?


 残念ながら、俺からすると四宮シノアも結構危ない奴に含まれているんだが。もしかしたら四宮自身も、俺にとっては、世界だか未来を救うために一緒に行動するべき対象ではないのかもしれない。

 突っ込みたいことは満載であったが、とりあえず、俺の目的はもちろん逃げることではなく、四宮シノアが情報を見たにもかかわらず、ないと嘘ついたこの情報を取得することであるので、情報を取得することに邪魔をされないのであれば逃げる必要はない。


 素直に従おう。


「悪いな、俺も人生かかっているんで」

 そういって、四宮シノアの生徒手帳らしきものの、ページに目を通す。

 幸いに指をしおり代わりにはさんで走って逃げたので、そのページはすぐ見つかる。ページを見る前に、改めて四宮シノアを見ると、あー。みないで。っという顔をしながらも、なんとか自分の中で折り合いをを付けようとしているような姿だった。

 困った顔して、口あけて、ぽかんと右手を軽く伸ばしていますけどね。悔やんでる感半端ないな。その姿も正直まーまー可愛いが。


 そして、そんなに嫌な選択肢なのか。そうは思いながらも目を通す。

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