3. 嫌な事と契り

 ページ目を通すとメモらしきものが書いてある。大それた出来事をこなすミッションの割には、伝達事項とかも手書きのメモとか。マニュアルじゃないのかよ。

 本当は大したことでなくて、四宮シノア含め四宮シノアの所属する組織だかの1担当の案件だったりして。そうなるとますます協力したくなくなるな〜。と思いながら目を通す。


【対象者が薬を再三の説得にも応じず、薬を飲まなかった際の対応方法としては、担当、四宮シノアが生涯を通して対象者と人生を過ごすこととする。

 対象者が防止対象のキッカケとなる行動をする際には、最悪の場合、暴力行為も含めた選択肢の中で制止すること。

 一番の対応としては、伴侶として生涯を全うすることで平凡な人生を送らせることに注力し、強制ではない形でキッカケ防止の環境を作ることができる。】


 OK。

 これ採用しよう。

 四宮シノアが、これを見てなかったことにしたい理由がわかった。薬を飲ませて、ずっと眠らせるとは対極な方法だな。

 今度は、本当に世界を震撼させる大事件に取り込む正義の組織の選ばれた担当者が、己の人生を全うしてこなそうとする話になってくる。

 これは、そのターゲットである俺も全力で取り合っていかなければいけないな。しょうがない、これは世界のためなのだ。


「うぬ、しょうがない。このパターンでいくか」

 心の中では、踊り狂って喜んでいる自分を隠して、クールに俺は決めてそう言ってみる。


「いやいやいや、それは無理よ。ごめんなさい。仕事を全うしたい気持ちはあるのだけれども、本当にずっと一緒にいるのは生理的には無理なの」

 さきほど、この文章を読んだ時であろう時は、やっぱり読むのを止めてと言わんばかりの困った顔に手をやや伸ばしていた状態から、我に返ったのか。

 うって変わり、冷静かつ真剣な出で立ちや表情で腕をくみ仁王立ちとまではいかないが背筋をピンと伸ばして、あたかもそこに見えないバリアがあり、近づけさせないオーラを放ち、四宮シノアはそう言った。


 っておーい。

 俺に対しては世界のため未来のためとかいいながら、四宮さんはしっかり自分の気持ちのみを優先させてますね。そしてまた、さりげなくすさまじいことを言っていますよ。


「生理的に無理とか、四宮、このプロジェクトで選ばれた担当なんだろ。俺だって人なんだし、むしろ多分、比較的繊細なほうなんだけど。

 目の前にいる人の気持ちを考えた発言とかを少し考えてほしいんだが」


「あら、繊細だったの?ごめんなさい。的確かつ直接的に言わないとわからない人なのかと思ったわ。

 意識してストレートに伝えてきたつもりだったけど、周りくどく、優しく伝えてあげたほうがいいのかしら?

 でも伝わらないと意味がないのよ?伝わるのかしら?」

 笑っているけど、目は笑っていない。そんな表情で四宮シノアは求めたオーダーに対するコメントをしてきた。


 こいつ、からかってきているのか、本気でディスっているのかイマイチ掴めないんだよな。

 もちろん分かっている事は、これっぽちも俺に好かれようとは思っていないことは伝わる。


「あと、ちょっと待ってね。それはしなくてはいけない物事のように捉えて如月くんは話をしているけど、私の意思を無視して進むことは許されないわ」


 さきほどまでにほとんど俺の意思を無視して話を進めようとしていた奴の発言とは思えないな。

 そして告っていないけど振られる。みたいな話を昔何かで聞いたか見たことありましたが、その初体験をさせていただきました。

 ありがとう四宮シノア。俺はお前に告ってないけど振られたよ。


「だけど、どうするんだ。このままいくと未来はダメになるんだろう?

 四宮たちの見解では。

 それを食い止めるためには、俺が薬を飲んで死ぬまで夢想するか、四宮が生涯俺と一緒に過ごすかしか選択肢がないんじゃないのか?

 それか、他にも選択肢があるのか?あるのであれば、もちろんそれも知った上で、どういう形でいくのかを決めていってもいいぞ」


 俺的には、もちろん生涯一緒プランが無難ではある。なんだかんだ言って四宮シノアは容姿端麗だしな。

 ただ、正直やりとりしていて、友達絶対いないのが分かる。

 人を蔑む言動のオンパレードだが、人間は慣れっていうから、こいつの毒舌もきっと長く一緒にいれば、美味になってくるんじゃないかと信じたい。


「ちょっと待ってて。改めて、対応メモを読んでみるわ。他にもあるかもしれないし」

 四宮シノアはなんとか別のいい方法がないのかともう一度読み直してみる。


「しかし四宮よ。お前、この一大ミッションの選ばれた担当なんだろ。そんなによく知らないけど、勉強の成績もよさそうだしな。なんでそんなにこの件に関する事前情報が雑なんだよ」


 そもそも手書きのメモだしな。おつかいか?


「当たり前でしょ。タイムパラドックスボックスの使い方に意識を向けすぎてただけよ。

 あと、最初の案でそのままいくと思っていたから、深く考えていないかったわ」


 しれっとそういう四宮シノアの発言を聞いて俺氏思う。こいつ、実はポンコツなんじゃないか?

 大したページ数ではないそのメモ帳をなんどもなんども見直している四宮シノアをみて、あーないんだな。

 他の選択肢がっと気づいてしまったが、本人が受け入れるまで待ち続けよう。しょうがない。


「なかったわ」

 ふー。っと、うつむきながら、諦めと絶望を表現するにふさわしい態度を示しながら、四宮シノアは、ぼそっと言った。


 俺の側に一生いる。という選択肢に絶望しているんだよね?君は。その対象者を目の前にして。


「それであれば仕方がないんじゃないか。ここまでの話の展開が、すべてにおいて急だったので、自分の意思表示はしていなかったと思うので、改めてすると、俺は協力はするつもりだ」

 

「そうなの?では」

 そう言って、安堵な表情を浮かべてカバンの中から、例の薬と取り出そうとするのをみて


「ちょっと待て。最後まで俺の話を聞け」

 そこは全力で止める。怪訝そうな表情はみなかったことにしよう。


 せっかちだな。っというか思い込みが激しいのか。

 今日このタイミングのみでの四宮シノアとの絡みではあるが、濃厚な時間を過ごさせてもらえたおかげで見えてきたものがある。

 とにかく自分の感覚に頼りきっている。

 だから、冷静な判断や見解が人をディスることになり、思い込みから右往左往になりがちな環境になったりとしていて、一番の問題は、そこに本人が気付いていないことだ。

 これは結構ナイーブな部分なので、俺が今ここで本人に言ってやることではない気がする。

 言ったところで100倍くらいにして否定されてしまいそうなのが、怖い。ってのもあるけど。


「正直、俺は、社会にも学校にも人にもあまり興味はない。

 自分が何をしたいのかもわからないし、夢中になれるものもない。

 このままでいくと将来、世の中にこういったことをしてやりたい。という気持ちになることも多分ないだろう。

 極力社会の歯車にならず、かつ中心にもならずに無難に生きていきたい俺の行動原則のつもりだ。

 だからと言って、別に人の足を引っ張りたいわけでもないし、迷惑をかけたいわけもでもない。

 情熱という存在があるとするのであれば、その持ってき方がわからないだけだ。

 なので、今後、俺がちょっと興味本位で進めた何かがキッカケで世界がおかしくなってしまうというのであらば、それは俺の求めているものとは違うからなんとかしたいと思っている。

 協力してくる人たちがいて、俺の判断や行動ひとつで協力してくれる人達の役に立ち、ひいては世の中のためになるかもしれないというのであれば、そこは出来る限りの事は協力したい」

 

「ただし、出来る限りのことだ」


 そう、ここが重要だ。

 前置きはしっかりさせておきたいのは、自分を押し殺してまで、世のため、人のためにやることは絶対によくない。

 まずは自分が納得すること、そして自分が幸せと思えること。

 その上で他の身近な人や身近な人の身近な人、もはや俺にとっては他人中の他人だが、そこまでの利害や幸せを考えていくとよい。

 自分を犠牲にするのはよくない。俺は、スーパーヒーローではないし、志望でもない。幸せ感じたい一般庶民属性であることは変わらない。


「その出来る限りの事の中に、残念ながら夢想プランは俺の中にはない。

 もうひとつのその、四宮が一生俺の側にいて、俺を監視するプランは全然問題ないが、四宮が嫌なのも理解はしたくはないが、受け入れよう。

 ただ、申し訳ないが、そうなると俺としてはどうしようもない。というのが本音のところだ。

 選択肢が二つしかないなら、その中でのベストでなくてもベターを判断するしかないと思う。

 そのメモには、伴侶になって。とあるが別にならなくてもいいんじゃないか。常に監視していればそれだけでいいだろう。

 俺だって、いるかどうかわからないが、俺のことを好きなってくれる子を伴侶にしたい。

 義務感で一緒に居られる関係が良い関係とは思えないしな。

 だからとりあえず、棚上げではないけど、伴侶になるという選択肢は絶対ない。と判断した上で、そばにいる方法。というか監視していく方法を一緒に考えていく形で進めるのはどうだ?

 その形であれば常にフラットであるから、いつでも他のやり方にも軌道修正できるしな。結論を急ぐべきではない。と思う」


 四宮シノアは俺の最後のたたみかけるようなマシンガントークをしっかり聞き入れてくれたのか、顎に手をかけて、しっかり考えてるような振る舞いをした。 

「そうね。一旦そのスタンスで進めてみましょうか。それでも私の中では、気が滅入りそうな日々が想像できるけど」

 監視することに対して、気が滅入ると言っているのだろう。


 あのね、でもね、俺は監視される側なんだよ。俺も滅入るよ。

 もちろん、ここまでの展開の持ってき方をすべて破綻させてしまうかもしれないこの言葉は絶対に言わない。


 突然のお誘いでドキドキしていたあの気持ちからどん底におとされ、俺にとって、全然ハッピーでない提案をされたところから、今の着地に関しては、まーまー悪くはないだろう。

 全力で持っていたプレゼンテーションに俺も少しだけ、達成感を得られた。


「今日は一旦、ここでお開きにしよう。細かいルールやなんだかんだは明日以降、少しづつ決めていければと思うわかったわ。それでは、細かいことはまた明日にでも」

 そう言って、四宮シノアは踵を返し、ここではないどこかに向かおうとスタスタあるいていく。


 っと思いきや、振り返る。


「これから如月くんはすくなくとも、平行世界における中心人物なの。

 これからどんどんいろいろオファーだったり強制だったりを受けることになると思うわ。

 でも、忘れないでね。今日聞いた話からわかる通り、如月くん自身は、自分が未来にインパクトを与える存在になる可能性が濃厚なの。

 それは不幸を招くかもしれなくて、私達、いえ私は、如月くんには、間違った道を歩んでほしくないの。

 それは本当の本当なの。だから、仕事ではあるけれど、私は如月くんの意思にそって協力するつもり。

 どこまでいっても味方のつもりでいるから。だからそのことだけは忘れないでね」

 そういって、スタスタと歩いていってしまった。


 その表情はなんだか憂げに見えたのは、俺の勘違いなのかだろうか。

 四宮シノアにとって、このミッションの使命感がどれだけのものなのかはわからないが、ただ優秀で選ばれたから担当した。ってだけではないのかもしれないな。

 しかしながらに、いろいろこんだけボロクソに言われて、最後の最後にどこまでいっても味方だからとか言われると。


 キュンとするよな。これがツンデレってやつなのか。ツン99のデレ1だけどな。


 なんだかんだで良いやつだったのかもしれないな。と思いながら、俺もいろいろ考えや今後の言動を整理していこうと思いながら、家路に向かった。

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