ボクとお寿司とどっちが好き?

ボクとお寿司とどっちが好き?

 回転寿司のレールを眺めながら、彼女が突然呟いた。


「ボクとお寿司とどっちが好き?」

「言ってる意味が分からん」


「えっと」

 彼女はわざとらしく困り顔をする。


「ボク、一人称」

 自分の顔を指さす。


「お寿司、食品」

 回るレーンを指さす。


「オーケー?」


 違う、そうじゃない。


「なんでその二つを比べなきゃならんのだ」


「例えば、の話だよ。そう、例えばボクを選んだらお寿司を一生食べられない」

 レーンに向けて、指でバッテン。

「お寿司なら?」

「ボクを一生食べられない」

 バッテンを控えめな胸元に。

「そこ、食べる食べないでいいの!?」

「じゃ、食べたくないの?」


「……」「……」


 沈黙。二秒、三秒。

 四秒で耐えきれず視線を逸らす。


「話を戻すぞ」

「意気地なし」

「あ? なんて?」

「よし、じゃあもう少し具体的に行こうか」

「スルー?」


「ボクと河童巻き、どっちが好き?」

「ランク低いな!? 1皿108円!?」

「マグロは無理かな、と思って」

「そこは自信持てよ」

「相手は黒いダイヤだ。油断はできない」

「油断するしないの問題!?」

「キミの前では油断しないようにしてるんだけど」


 彼女が拗ねたように口を尖らせる。


「っ……!」

「それとも、ちょっとぐらい油断してた方がいい?」


 拗ねたような表情のまま、上目遣い。潤んだ瞳と目が合う。


「あのさあ! さっきから何、からかってんの!?」


 我慢できずに声を上げる。顔の熱さが自分で分かる。


「ちゃんと言葉にしてほしいんだよ。キミの意気地のなさは知ってるけど」

 ため息ひとつ。

「付き合い始めてから、一度も……、好きって言われてないから」


 もにょもにょ呟かれる。ああ、わかった。完敗だ。


「ああ、えっと……。それじゃ、その」

 大きく深呼吸。

「河童巻きより、マグロより、……世界中のどんな寿司より、お前が好きだ!」


 言い終えた俺の前に、マグロの乗った皿が差し出される。そういえばさっき注文してたな。

 店員の生温かい笑顔が見えた。


 やべえ、超恥ずかしい。

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ボクとお寿司とどっちが好き? @yakiniku_tabetai

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