第35話 手のひらの幸福 (4)




「ありがとうございました」


 私は付き添いの警察官と医師にお礼を言ってから診察室を出た。包帯でぐるぐるに巻かれた滑稽な自分の右手を見て、思わず笑いが漏れてしまう。いや、笑い事じゃない。完全に治るまで二週間はかかると言われたし、その間いろいろと不便な生活を強いられるのだ。利き手が使えない状態なので食事とかお風呂とか着替えとか片手でやらなきゃいけない。


(面倒だなぁ)


 でも、それだけで済んで良かったと思う。色々と不便で大変だけど、すぐに元通りになるのだから。重症を負ったり、最悪また死んでしまったら、それこそ色々な人達に顔向けできない。


「瑠美さん」

「あ……」


 受付を終えてロビーに向かうと、誰も居ないフロアに瑠美がポツンと一人だけ椅子に座って待っていてくれていた。私が診察を受けている間に警察署での事情聴取が終わっていたらしい。私は怪我をしていることと遅い時間なので事情聴取は後日とのこと。ストーカー改め島崎さんは迎えに来た保護者と一緒に家に帰ったそうだ。

 瑠美の隣の椅子に座って背もたれに身体を預けると、ギシッと軋む音が静かな空間に響く。


「全治二週間だって。大したことなくて、傷も残らないらしいよ」

「二週間って、それ重症じゃない」

「こんなの軽傷だよ。片手が使えないだけだから、全然大丈夫」

「……もう」


 私の言葉を聞いて瑠美は力なく微笑んだ。

 言葉少ない彼女の様子を不思議に思いながら、診察の内容を伝え終える。


「日向ちゃんの家に電話したんだけど、お母さんはお仕事でいないって小姫ちゃんに言われて。お仕事先に連絡したら、すぐに行くって言われたんだけど、迎えに来るのに少し時間がかかるんですって」

「そっか。お母さん、今忙しい時期だから」

「ごめんね、私のせいで」

「だから違うんだってば。自分で勝手にやったことだよ、全部」


 なにを言っても瑠美は自分を責めるだろう。

 なのでこの話は終わらせて、話題を変えなければ。

 話題……なにか明るい話題……うーむ。


「あ、そうだ」


 ポケットを探って、財布を彼女に渡す。


「すっかり忘れてた。忘れ物を届けようと思って、瑠美さんの家に向かう途中だったの」


 受け取った財布をじっと見つめてから、突然くしゃりと綺麗な顔を歪ませる。


「……私が、この財布を忘れたから…こんなことに。私が、忘れなければ、日向ちゃんは……」

「?…なんで、瑠美さんがそんな顔をするの? 大体、届けようと思ったのは私の意志だから関係ないよ」

「私が財布を忘れなければ日向ちゃんはあの場所に居なかったじゃない。原因を作ったのは私よ」


 話題のチョイスをミスったのか、またしても彼女は自分を責め始める。

 まったく、どうして私の周りの人達はこうして自分から責任を背負おうとするんだろう。

 きっと真面目で、優しすぎるから……なのかな。


「でもさ、瑠美さんが忘れ物をして、私が届けに行って、結果的に島埼さんは無事だったんだから」


 あの場所に私が居なければ、島崎さんは今頃どうなっていたかわからない。私があの場所に居なくても彼女が自力でどうにかしてたかもしれないし、最悪の事態になっていた可能性もある。

 でも、結果的に彼女は助かった。それで、いいんじゃないんだろうか。


「うん、結果オーライだよ」

「よくないっ!!!!」

「っ!」


 辺りに響き渡る、瑠美の悲痛な叫び。彼女の表情は悲しみとか怒りとか、色々な感情が交じり合っていて、とにかく見ていて辛くなるようなものだった。


「よく、ないよっ! だって、そんなに酷い怪我してるじゃない…っ」

「いやこれはだから、見た目より随分軽い怪我だし、そんなに心配しなくても…」


 曖昧に笑いながら軽い調子でそう言うと、瑠美は鬼のような怖い形相で詰め寄ってきた。あまりにも迫力のある顔だったので、息を呑んでしまう。


「心配するに決まってるじゃない! どうしてそう自分のことに無頓着なの!? 他人ばっかり気にして…いつも自分は後回しで!!」

「え、あ、すみません」


 凄まじい勢いに圧倒されて、仰け反ってしまう。


「ほんと信じられない! なんで自分を大切にしないの? どうして馬鹿みたいに優しくしちゃうの?!」

「うーん」

「もう! ちゃんと聞いてるの!? !!」

「はっ、はい! 聞いてますぅ!」


 しまった、眠くなって適当な受け答えをしてたらお説教タイムが始まってしまった。困ったなぁ、お母さんが来るまでのんびり寝て待ってようと思ってたのに。


「今回は幸い怪我で済んだけど、もしかしたらまた死んじゃう可能性だってあるのよ!?」

「いや、それは自分でも十分解ってるんだよ? でも放っておけないし…」

「私だって解ってる! それでも、それでも言わずにはいられないのよ!!」

「は、はい。仰る通りで」

「だから姉さんは――――」

「ごめんね瑠美――――」



………

…………………。


「んん?」

「えっ?」


 お互いに顔を見合わせて、?マークを浮かべる。

 あれ、どうして。

 今、どうして瑠美は、私のことを――――



「姉、さん?」



 口を押えて、彼女はもう一度ゆっくり『私』を呼ぶ。

 自分で言った言葉が信じられないといった顔で、戸惑っていた。


「どうして、私、日向ちゃんのこと、姉さんって、呼んだの?」


 どうやら無意識に『私』を認識したらしい。

 さて、どうしよう。誤魔化して姉じゃないと言い張るか、素直に自分が姉だと伝えるか。まだはっきり私が姉だと認識していないみたいなので、容易にやり過ごせそうではある。


「姉さん」

「……うぐ」

「姉さんなの?」

「妹がいるので姉といえば姉です」

「やっぱり、姉さんなの?」


 えーと。

 やっぱりってことは、もうほとんど気付いてるのかな。

 私が赤口椿だったということを。


「性格、好きなもの、嫌いなもの、癖………日向ちゃんは何もかもが姉さんと似てた。ううん、同じだった。でもそれは偶然で、ただ似てるだけだって思ってた。だって名前も姿も違うし、姉さんは確かに十六年前に死んでいてこの世界に居るわけがないんだから。でもよく考えると、姉さんしか知らないはずのことを、なぜか日向ちゃんは知っていた」


 やっぱり本来の自分は隠しきれないよね。隠そうと思っても、無意識に表に出てしまう。元々、隠し事が苦手っていうのもあるけど。


「それでも、解らなかった。日向ちゃんが姉さんのわけがないし、それじゃあどうしてだろうってずっと考えてたの。そして今日……酔った私を迎えに来てくれた日向ちゃんは『姉さん』そのものだった。私の、知ってる姉さん、で……」


 目元に涙を浮かべて、喋る言葉の端々に小さな嗚咽が混じっていた。


「最初は酔ってるせいだと思った…夢だって思った」


 それから彼女は、“酔っていた時のことを全部覚えていて、ずっと起きていた”のだと教えてくれた。まさか酔っていた時のことを全部覚えていて、寝ていると思っていたのに実は起きてたなんて、思わなかった。瑠美は酔っても記憶は残るタイプらしい。私の部屋で起きてから態度がおかしいと思ってたけど、そういう事だったんだ。

 私は何も言うことが出来ず、彼女が言葉を口にするのをひたすら待つ。


「見守ってるって言ってくれた。ずっと私の姉でいるって……言ってくれた」

「……」

「夢でも良かった。けど今は、夢じゃないかもって、思ってる」


 瑠美は、はにかんだように笑った。

 いつもわたしの後をついてきて、転んで、泣いて、手を差し出せば眩しい笑顔を向けてきた、あの懐かしい笑顔が重なる。

 大きくなっても可愛らしい妹の笑顔に、何もかもがどうでも良くなった。


「姉さん」

「うん」

「姉さん、だよね」

「生まれ変わって別人になってるから、正確にはもう姉じゃないけどね。でも、赤口椿の記憶を持って生まれてきた私は、瑠美のことを大事な妹だって思ってる」

「うん……うん。それで、いいよ。姉さんが今を生きていてくれたら、それでいい」

「……そっか。ありがとう、それと本当にごめん」


 今まで黙っていたことと、瑠美を悲しませたこと。もしかしたらまた心に傷を負わせてしまうところだったのかもしれない。自分の行動に後悔はないけれど、心から心配してくれる人達のことを考えると、やはり苦しい。


「姉さんは、もっと自分の為に生きてよ……」

「自分勝手に生きてると思うけど」

「………やっぱり、中身は全然変わってないね。死んでも私たちのことを守ってくれるなんて、ほんと、どこまでお人好しなの?」


 眩しいものを見るかのように、目を細めて優しく微笑んでいる。

 私も同じように、瑠美を見た。


「瑠美は大きくなったね。見た目も、中身も、立派になって」

「……姉さん」


 自分より背の高い妹を見上げて、思いっきり手を伸ばす。

 ちょっと苦しいけど、大雑把に彼女の頭を数回だけ撫でた。


「もう、危ないことしないで。また居なくなるなんて嫌だよ。椿ちゃんも、今のご家族も、陽織さんも、悲しむよ」

「……大丈夫だよ、私は欲張りだから。今度こそ、一分一秒でも長く生き続けるつもりだよ」


 死ぬってことは、自分ひとりの問題じゃないってことを、嫌というほど思い知ったから。


、手を出して」

「う、うん?」


 言われたとおりに、怪我をしていない左の手を差し出す。すると瑠美は私の手のひらに何か文字を書き始めた。何と書いてるのか気になったので覗こうとすると、覗いちゃだめ!と怒られてしまったので大人しく待つことにする。


「できた。はい、お姉ちゃん飲み込んでね」

「りょーかい」


 自分の手のひらには何も乗っていないけれど、私は手のひらに書かれた見えない文字を食べるように飲み込んだ。もちろん味なんかしないし、感触だってない。


 これは、おまじないだから。

 私たち、2人だけのおまじない。


「なんて書いたの?」


 手のひらから伝わってきた指の感触で二文字ということは解ったけれど、正確な文字は解らなかった。瑠美は悪戯をする子供のような顔で、楽しそうに笑っている。どうやら答えを教えてくれる気はないらしい。


「姉さんが私に沢山くれたものだよ」

「?」

「ふふっ」


 首を傾げている私を見て、瑠身は一層笑みを深めた。

 なんだかとっても、くすぐったい。


 『私』のことを知られてどうなるかとヒヤヒヤしたけれど、こんなに嬉しそうな顔をしてくれるのなら隠さなくても良かったのかもしれない。ずっと知られることを恐れていたのに、こんなにあっけなく受け入れられるなんて、拍子抜けだった。無駄に考えすぎ……だったのかなぁ。

 

「でも、本当に信じられない。日向ちゃんが、姉さんの生まれ変わりだったなんて」


 全身を探るように眺められて、なんだか落ち着かない。改めてそんなに見ても変わったところなんてないし、意味ないと思うんだけど。


「姉さん私より背が低いね」

「……うっ、それはそうでしょ。私の方が何歳も年下なんだから」

「昔とは逆だね」


 昔の瑠美よりは背が高いと思うんだけどね。今は誰が見ても瑠美のほうが姉で、私のほうが妹に見えるに違いない。……むむ、仕方ないとはいえなんか悔しい。


「見た目なんてどうでもいいよ。誰がどう思っていようと、私にとって、日向ちゃんは姉さんだから」

「瑠美……」


 私のことを姉と認めて、姉と呼んでくれることが嬉しくて涙腺が緩むのを感じる。

十六年もの間私の死を悲しんでくれていたのに、今もこうして普通に生きている私を責めることなく受け入れてくれた。

 ……こんなにも、私は周りに恵まれている。

 なんて贅沢者なんだろう。


「あの、ね」

「なに?」

「不審に思われるから今まで通り日向ちゃんって呼ぶけど……二人のときは、姉さんって呼んでもいい?」

「それは、もちろんいいけど」

「日向ちゃんは姉さんだけど、日向ちゃんだし。……小姫ちゃんっていうちゃんとした妹もいるって解ってるんだけど」

「私は小姫も瑠美も、二人とも大事な妹だって思ってるから」

「う、うん……ありがとう、姉さん」


 照れくさそうに頬を染めて、微笑んでいる。

 私も似たような顔をしているに違いない。


「小姫ちゃん、心配してるかな」

「どうかな。あまり想像がつかないけど」


 むず痒い空気を払うように、もう一人の妹のことを考える。

 あの子はきっと心配してくれているだろう。そして帰って来た私を見れば、すぐにでも憎まれ口を叩いてくるに違いない。わがままで、生意気で、素直じゃないけれど、根はとても優しい子だから。


「ねえ、姉さん」

「ん?」


 どうしたんだろうかと首を傾げると、彼女はしばらく黙ったまま私を見つめていた。

 それからゆっくりと息を吸い込んで、私を驚かせるには十分な表情を向ける。


 それは、昔と変わらない、花の咲くような満面の笑顔。



「姉さんはね、私の自慢のお姉ちゃんだよ」



 そう伝えると、瑠美は満足したのかご機嫌な様子で席を立った。

 けれど私はだらしなく口を開けてその場に座ったままで。


 ……視界がぼやけているのは、きっと気のせいだろう。

 喉がチリチリとするのも、きっと気のせい。


「姉さーん?」


 瑠美が呼んでる。

 昔はよく、涙声で呼ばれていたっけ。

 待たせると、どんどん機嫌が悪くなっていって大変だった。

 あの頃と今では、何もかも変わってしまったけれど。

 あの頃と変わらないものだって、確かにある。


 濡れた目元を腕でごしごしと拭う。

 立ち上がって、妹の顔を見た。


「ありがとう、姉さん。昔も今も、ずっと大好きだよ」


 私も。

 ずっと大好きだよ。


 変わらない想いをようやく言葉にして。

 大きくなった妹を、小さな私は精一杯抱きしめた。







 次の日。

 週末なのでいつものように倉坂家に遊びに行くと、来た早々陽織に捕まってしまい部屋に連れ込まれた。無表情の彼女と一対一で向かい合って、座る。陽織は椅子に。私は自主的に床に座って背筋を伸ばし、正座をした。彼女はいつもと変わらない顔をしているけれど、明らかに怒っている雰囲気を纏っていて、緊張を肌で感じてしまう。

 やばい。も、もう昨日の事が伝わってたんだ…。もしかして陽織と瑠美の間には私のことを逐一報告しなきゃいけない義務か何かあるんじゃないだろうか。情報の伝達が素早くて、恐いんですけど。


「日向」

「はい」


 彼女が私の名前を呼ぶだけで、身体が震える。いつもより少し低い声が、彼女の今の心境を表しているようだった。陽織は私の顔を真っ直ぐ見ているけど、私は陽織を真っ直ぐに見ることはできない。少し顔を伏せて、彼女が言葉を発するのを今か今かと待ち続けていた。


「……私が何を言いたいのか、貴女は解ってるんでしょう?」

「なんとなく」


 包帯の巻かれた手を見つめられる。

 そして呆れた顔で、大きく溜め息を吐いた。


「貴女の人生なんだから、貴女の好きに生きるのは当然だわ。私が、口出ししていいことじゃない」

「………………」

「もう、お節介ってレベルじゃないわね。たちの悪い病気だわ。運が悪ければ命にも関わるし、治りそうもない難病」


 お手上げだと言わんばかりに、手をひらひらと振って、再びため息を吐く。


「私が言いたいことは、瑠美ちゃんがほとんど言ってくれたみたいだから言わないけれど」


 本当はもっとたくさん、言いたい事があるだろうに。

 私のことを責めてくれて良いのに、怒鳴ってくれていいのに、彼女は冷静なフリをする。残酷なほどに彼女は優しい。


 陽織は椅子から立ち上がって私の傍にしゃがみ、目線を合わせた。

 怪我した手に、優しく自分の手を重ねてくる。


「お願いだから、もう二度と、いなくならないで…………馬鹿」


 その切羽詰ったような……小さな掠れ声が、強く胸に響いた。

怒鳴られたり、憎まれたり、嫌われたりすることなんかより………何よりも、彼女の言葉と悲しげなその表情が、堪えた。


「ごめん」


 彼女が、死を人一倍恐れてるって、知っていたはずなのに。


「陽織、ごめん」


 彼女を悲しませたことが、どうしようもなく苦しい。


「……謝らなくていいわよ、もう」


 私が顔を伏せていると、陽織が優しい声をかけてくれた。

 そして怪我している手を恐る恐る擦ってくれる。


「……手、痛む?」

「いや全然平気」


 本当はチクチクと今も痛んでいる。でも、悲しそうな顔をしている陽織を見ていたから、痛みのことなんて忘れていた。手の怪我よりも彼女を悲しませている事のほうがよっぽど痛い。


 コンコン、と控えめなノックの音が聞こえて、部屋のドアがほんの少しだけ開かれる。その隙間からちょこんと顔を出したのは、椿だった。


「あの、お話は終わりましたか?」

「どうかしたの?」

「ご飯の準備が出来たので、呼びに来ました」

「そう。話は大体終わったから、すぐに行くわ」

「えっと……あの、早く来て下さいね?」

「うん、ありがと椿。手伝えなくてごめんね」


 椿は照れるように微笑んでから、そっとドアを閉めて戻っていった。


「……あの子。日向のことが心配だったみたいね」

「え?」

「私が貴女をこっ酷く叱ると思っていたんでしょうね。わざわざあの子が私達を呼びに来たのも、話を切り上げさせる為だわ」


 な、なるほど。陽織のお説教を延々と聞かされる私を不憫に思って助けてくれたんだ。実際はそんなに怒られていないんだけど、気持ちはとても嬉しい。


「椿って優しくていい子だよね。えへへ」

「…はぁ、まったくもう。椿は日向に甘いんだから。あの子も貴女のこと凄く心配してたのよ」

「うぅっ!」


 そう言われてしまうと申し訳なくて何も言えない。

 私が押し黙っていると、陽織は静かに立ち上がってから部屋のドアの方に近づいた。ドアノブに手をかけて、顔だけ振り返る。


「きっと今日はあなたの好きな料理が並んでるんじゃないかしら」

「わ、それは楽しみ~」


 これから食べる料理のことを考えていると、陽織は呆れた顔をして本日何度目になるかわからない溜息を吐いた。彼女は先に部屋を出て行こうとしたので、その背中に向けて私は言い忘れていた言葉をさりげなく投げかける。面と向かって言うのは、なんとなく恥ずかしかった言葉を。


「大丈夫だよ。これからも、傍にいるから」

「っ……馬鹿」


 彼女らしい、それでいて優しい声色で呟いてから、陽織は振り返ることなく慌てて部屋を出て行った。耳が赤くなっていたのが見えたので、もしかしたら照れていたのかもしれない。普段の冷静な彼女とのギャップが可愛くて、愛しくて、心の奥が不思議と熱くなる。


(幸せだなぁ)


 私は誰も居ない部屋でしばらくの間、身に余る幸福を噛み締めていた。

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