第34話 手のひらの幸福 (3)



すっかり日が沈んで暗くなった夜道を、一人ぽつぽつと歩く。


「もう、家に着いてたらどうしよう」


結構長い間小姫と話していたので、家を出るのがすっかり遅くなってしまった。急いで追ってはみたけど、彼女の家の近くまで来ても姿を見つけることはできなかった。


「……家まで届けに行くしかないよね」


 正直に言うと、あの家……赤口家に行くのは避けたい。この時間だと確実にお父さんとお母さんは家にいるだろう。行きたくないわけじゃないけれど、やっぱり胸の内は複雑で、心のどこかでブレーキがかかってしまう。もう、割りきっているつもりだったけれど、そう簡単に心の整理はつかないものらしい。自分の気持ちなのに、自分の思うように出来ないのがもどかしくて、歯痒かった。

 けど、だからといってこのまま引き返すわけにはいかない。私の手元にあるこの財布を、あの子に届けなくてはいけないから。


「よし」


 気合を入れ己を奮い立たせ、過去に自分が住んでいた懐かしい家へと足を進めていく……つもりだったが、ここからすぐ近くにあるというのに、なかなか辿り着かない。歩いている時間が、とても長く感じる。もし、インターホンを鳴らしてお母さんが出てきたら…何と言えばいいだろうとかどんな顔をすればいいんだろうとか、ずっと考えていた。実際掛かった時間は数分かもしれないけど、私が体感している時間はそれの数倍だと思う。さっきから心臓がバクバクとうるさく鳴っているし、胃もキリキリと痛んでいる。私、こんな状態で、まともに話すことが出来るだろうか。


 でも、もう少しで家が見えてくるはずだ。私は緊張で汗ばんだ拳を握りなおし、溢れてきた唾を飲み込んでから歩みを進めた。

 あの角を曲がれば、ついに辿り着く……そんな時のことだった。


「……?」


 どこか切羽詰ったような人の声が、私の耳に届いた気がした。誰かに訴えるような、無我夢中で叫んでいるような、けれど小さな、そんな声。私にはその声が、助けを求めているような声に聞こえて、酷く気になってしまった。けれど周りを見渡してみても、人の気配なんてなかったから、私の気のせいかもしれない。極度の緊張のせいだと思うことにして、歩みを進めようとした。

 でも。


『助けっ……!! …っ!!』


「!?」


 今度ははっきりと聞こえた。気のせいなんかじゃない、助けを求める誰かの声。

 私はすぐに声の聞こえた方に行こうとしたが、意識せずピタリと足が止まってしまう。


『庇ってくれたのは嬉しいけど、でも、自分を省みない行動はしないで。お願い』


「……………」


 先日、必死な表情で訴えていたあの子の言葉が突然頭に響いた。あの時の彼女はきっと『私』のことを思い出して言ったに違いない。自分のことを省みず行動して、死んでいった姉のことを。


「……っ」


 行かなくちゃ。そう思っても過去の出来事を思い出してしまい、私の体は動けなくなっていた。簡単に首を突っ込んで“あの時”みたいに取り返しのつかないことになったら―――

 そう考えると怖くて足が竦んでしまい、動いてくれなかった。また失うのが怖い、悲しませるのが怖い。

 でも、だからといって無視して放っておくこともできない。


(臆病になっちゃったね……私)


 昔の自分なら、何も考えず走り出していたはずなのに。以前の自分を失って十六年。冷静な判断や慎重な行動を身につけることはできたけど、かわりに昔の無鉄砲な自分を失ってしまったのかもしれない。大人になるって、こういうことなんだろうか。

 関わらなければ、自分には何も起こらない……でもその代わりに別の人が犠牲になるんじゃないか。そう思うといてもたってもいられない。自分でも馬鹿だとは思う。決して褒められる行為じゃないって解っているけど。また同じことを繰り返してしまう可能性だってあるのに、それでもやっぱり私は。


(誰かが困っているのに見過ごすなんてことは、無理みたい)


 何もしないで後悔なんてしたくない。

 躊躇して間に合わなかったなんて、そんなことになったら……死んでも嫌だから。


 私はしっかりと前を見据えて、声のした方へと勢いよく走り出す。来た道を少し戻って、通っていない細い道に入ると、人の影が見えた。フードを被った体格のいい男に掴まれている小柄な女の子を見つけて、私は何も考えずに2人の元へ走る。そして、今まさに振り下ろされようとしていたモノを少女の身体に届く前に掴んで止めた。間一髪、といったところだろうか。


「なっ………!?」

「……えっ、あ……ああ?」


 ポタポタと、自分の手から赤い液体が零れ、地面に滴り落ちていく。男と少女の気が逸れている隙を見計らって、素手で握り締めていた携帯用のナイフをもう片方の手で奪った。そして固まっている少女の手を引っ張ってから、唖然としている男から急いで距離をとる。考えなしに飛び出したけれど、おかげで不意を突けてどうにか上手くいったようだ。


「はぁ…っ、なんとかなった…かな?」


 緊張が緩んで息を吐く。傍にいる女の子を見ると、驚きで目を見開いていた。


「な、なんで…アンタが…ここに……」

「それはこっちの台詞だってば、ストーカーさん」


 そう、私が助けた少女は先日出会った瑠美のストーカーさんだった。どうしてこんな時間にこんな場所に…って思ったけれど、どうせまた瑠美をストーキングしていたんだろうなぁ。この子、あんなにきっぱり断られてもまだ諦めてなかったんだ。ええと名前はなんていったっけ…なんとか島さんだったっけ?


「あっ!! あの男が逃げるっ!」

「っ!」


 私たちが話している間に男は背を向けて慌てて走り出していた。今すぐ追えばもしかしたら捕まえる事が出来るかもしれない。自然と足に力が入り、走り出そうと動き出す。だが、服の裾を握る手に気付いて足を止めた。


「お、追わないの?」

「……うん」


 可哀想なぐらい顔を青くして、身体を恐怖で震わせている彼女を置いていくわけにもいかないし、それに深追いするのも危険だ。彼女の安全を確保できたのだから、十分。ここから先は本職の警察に任せた方がいいだろう。

 さっき私が奪ったナイフと、変質者の特徴を伝えれば捜査も進むかもしれない。


「大丈夫?」

「ん…うん…。って、それは私の台詞じゃないっ! 何よその血だらけの右手!!!」

「え? あー…ほんと」


 言われるまで気付かなかったので、指摘されてからようやく痛みを感じだした。この子を守ることに集中してたから怪我してることをすっかり忘れてた。よく見ると鋭利な刃を受け止めた私の右手は真っ赤に染まっており、とてもグロい状態なので直視したくない。結構深く切れているようなので血が止まらず、未だにだらだらと流れ出していた。ちょっと、やばいかもしれない。


「と、とにかく病院に! ああ、一応、応急手当を…そ、それに警察も呼ばないとっ」

「まあまあ落ち着いて」

「アンタはなんでそんなに落ち着いてるのよっ!?」

「死ぬほど恐い修羅場と痛い怪我を負った経験があるから、かな」

「アンタ一体何者なのよ……」

「ただの女子高生です」


 彼女はハンカチをポケットから取り出して、私の手にぐるぐると巻きつけてキュッと縛る。けれどすぐ血が染みてしまってハンカチは真っ赤に染まってしまった。一枚じゃ心許ないので、私は自分のハンカチを取り出して上から二重に巻いておく。


「なんで…こんな怪我までして助けてくれたのよ……私、この間アンタに酷いことばっかり言ったのに…っ」

「だって放っておけないでしょ人として」

「わ、私とアンタは顔見知り程度の関係でしょ!? むしろ敵よ、敵っ! それなのに身体張って助けるなんておかしいわよ!」

「うーん、確かにいい印象はないけど」

「でしょう!? なんで放っておかないのよ! 馬鹿じゃないの!?」


そりゃ瑠美は彼女のストーキング行為に迷惑していたし、私も結構色々言われたし、初対面の印象は最悪といってもいい。妹のストーカーだっていう人間を好きになれと言われても困るだろう。


「わ、私を庇ってそんな傷まで負って……なんでなのよ…なんなのよ…。アンタ、頭おかしいわよ」


負傷してまで助けたのに酷い言われようだった。恩を着せるために助けたわけじゃないから、何と言われようがどうでもいいんだけど。


「貴女が傷ついたら、瑠美は悲しむ」

「…………なによ、それ」

「理由はそれで十分でしょ」


 私が傷ついても、瑠美は悲しんでしまうだろう。

 だから、私が彼女を助けたのは自己満足。彼女のためにやったことじゃなくて、自分の為にやったことだ。ただ、瑠美の悲しむ顔を見たくなかっただけ。


「もしかして最近この辺りで出没してる変質者って、今の男だったのかな?」

「多分そうじゃない? …あの男、急に後ろから抱き付いてきて……凄く驚いたわ」


 襲われた時のことを思い出したのか、自分の身体を抱きしめて身震いをする。


「私があんまりにも騒ぐから、ナイフ取り出して黙らせようとしたみたい」

「なんにせよ無事で良かった」

「良かった、じゃない!! アンタは無事じゃないでしょうが! いい加減、病院にいくわよっ!」

「ぎゃー! 引っ張ったら傷が! 傷がぁああたたたたたー!!」

「うっ、ご、ごめん」


 掴んだ手をパッと離して、申し訳なさそうな顔をする。

 ……この子、口は悪いけど、もしかしたら結構いい子なのかもしれない。ストーカーだけど。


「そうだ。この怪我のこと、瑠美には黙ってて欲しいんだけど」


 この前、自分を省みない行動をするなと釘を刺されたばかりだったので、怒られそうだもん。


「………………いいけど」

「ありがとう」

「アンタさ、先生とはどういう関係なのよ」


 じとっとした探るような目で睨まれる。えぇ、なんでこんなに敵視されちゃうんだろう。


「前に言ったと思うけど。そうだなぁ、とりあえずストーカーさんが心配するような関係じゃないよ? 瑠美は私にとって妹だし」

「は、はぁ? 妹? え、そういうプレイってこと? やだ、アンタって変態?」

「ストーカーに変態って言われた!!」


 自分だって変態じゃん! ストーカーじゃん! なんでそんな侮蔑の眼差しを向けるんですか! 失礼ですよ!


「やっぱアンタ敵だわ。私と先生の敵…いや、世界の敵」

「私が何したっての!?」


 何も悪いことしてないのになんか重罪人みたいな評価されちゃってるよ!?


「だいたいストーカーさんも……って、ストーカー……?」


 ふと何かが引っ掛かる。瑠美のストーカーをしている彼女が、どうしてここにいるんだろう。すぐ近くに瑠美の家があるから、帰りを待ち伏せていた? それとも瑠美を尾行してここにいた?


「ねえ、ストーカーさんは、ここで瑠美を待ってたの?」

「私はその、先生にこの間のこと謝ろうと思って、先生の家の近くでずっと待ってたんだけど」

「じゃあ瑠美はまだ家に帰ってない?」

「そうみたいね」


 嫌な予感がして、ぞくりと背筋が寒くなる。まだこの周辺を徘徊しているかもしれない変質者。家に帰ると言ってまだ帰っていない瑠美。運悪くこの二つが重なってしまったら、何が起こる? そんなの、考えるまでもない。


「っ!!」


 踵を返して走り出す。私がここまで通ってきた道とは違う方向を選んで、全力疾走だ。


「あ、ちょっとどこ行くのよ!?」

「瑠美が心配だから探す!」

「はあ!? アンタはやく病院に行きなさいよ!」


 彼女は怒りながら駆ける私の後を追ってくる。さすがストーカー、追うことは得意なのか、なかなか足が速い。


「瑠美は家に帰るって言ってた! 酒気はだいぶ抜けてたけど、お酒飲んでたから多分、酔い覚ましに遠回りして帰ってるんだと思う! で、さっきの変質者が逃げてまだそんなに時間が経ってないから、この付近にいるかもしれない!!」

「なっ、そんな、美人で可愛い先生が一人でふらふら歩いてたら確実に狙われるじゃない!」

「そういうこと!」

「ふっざけんじゃないわよおおおお! 私の先生に手ぇ出したらぶっ飛ばしてやるぅううう!!」

「怖い怖い」


 さりげなく私のって言ってるけど、まだ諦めてないんだなぁ。瑠美のことを大事に思っているのは間違いないみたいだから、そこは認めよう。けど危ないから帰れと言っても聞いてくれないよね。

 ひとまず危険度を下げるために走りながら警察に連絡する。ストーカーさんが変質者に襲われたことと、まだこの辺にいるかもしれないこと、そして一人の女性が狙われる可能性があること。すぐにこっちに向かってくれるらしいので、その言葉を聞いて通話を切った。大人しく待っていなさいと言われた気がするけど、気のせいだろう。さ、早く瑠美を見つけなきゃ。

 二手に分かれて探すわけにもいかないから、どっちに進むか意見を出し合いつつ協力して探していく。

 するとストーカーさんが急に立ち止まり、目を凝らしてある一点を指さす。


「あそこよ!」

「えっ、どこ!?」


 彼女が指差した先は街灯がなく真っ暗で何も見えない。だが、かすかに女性の声がしたので、間違いないのだろう。弾かれるように地面を蹴り、人の気配がする場所へ直進する。近づいて見えてきたのは、揉みあう男女の姿。残念ながら、悪い予感は当たってしまった。でも、予感を信じたからこそ、私は今ここにいるのだ。


「瑠美!!!!」

「ひなっ…た…ちゃん!?」


 驚愕に目を見開いたのは瑠美だけではなく、彼女を組み伏せようとしていた変質者もだ。相手の怯んだ眼を見て覚悟を決め、全力疾走してそのまま自分の身体を変質者へぶつける。衝撃に耐えられず男は倒れて転がり、私も勢いを殺しきれず同じように転がった。


「ひなたちゃん!!」

「ちょっと、駄目です先生!」

「はなしてっ島埼さん!」


 こっちに駆け寄りそうになる瑠美を、ストーカーさんが必死に引き留めてくれてる。オッケー、ナイスフォロー。そのまま押さえておいてください。さり気なく全身で抱きしめていることには目を瞑っておきましょう。

 変質者が慌てて起き上がって逃げ出そうとしたので、私は急いで起き上がり、彼の腕を掴んで足を払う。すると相手はまた倒れて、苦し気な声を上げた。すかさず抵抗されないよう腕を押さえて起き上がれなくする為に上へ乗る。さっきは逃がしたけど今度は逃がすものか。私の大事な妹を襲った罪はしっかり償って貰わなきゃ、この怒りは収まらない。


「くそっ、放せッおらぁ!」

「うわっ!?」


 男は強引に私を振り払い、立ち上がる。やはり、体格と力の差では勝てないか。柔道をやっていたけど、達人の域まで極めたわけじゃない。所詮、子供の悪あがきだ。

 変質者はゆらゆらと覚束ない足取りで私の前まで来て、楽しそうに口を歪める。勝機を見出したのか、逃げることを止めたらしい。自分が優位に立ったことで、自信を持てたようだ。やだなぁこのパターン。


「もういいから、日向ちゃん逃げて!」

「やだ」

「日向ちゃん!! お願いだから!」

「いやだよ」

「やめてよ! 私、こんなこと頼んでない! 望んでない! もう嫌なの! 大切な人が、傷ついたり居なくなったりするのはもうたくさんなの!!!!」


 彼女の慟哭が、胸に響いて苦しい。

 解ってるよ。後で後悔することも痛いほど、解ってる。それでも私は大切な人を守るよ。何度でも。


「ごめんね」

「なん、で……!!」


 誰かを傷つけても、苦しませても、自分を犠牲にしてでも守りたいものがある。ただそれだけのこと。

 いつか後悔しても、わたしはまた同じことを繰り返すだろう。

 間違っていると頭では理解しているんだけど、身体が勝手に動いちゃうんだからしょうがない。


「でもまぁ、こう何度も危ない目に遭ってると、対策せざるを得ないわけで……くらえ!」

「なっ!?」


 ポケットから秘密道具を取り出し相手に向けると、変質者は驚いて目を閉じ、身を固めた。

 いや、ちゃんと見ようよ。勝手に驚いてくれて助かるけどさ。


「奥義! 防犯ブザー!!」


 格好つけて携帯のストラップについていた防犯ブザーをポチッと押すと、静まった敷地に大きな音が響き渡った。この防犯ブザーはつい先日、陽織から「貴女はいつも厄介ごとに巻き込まれにいくから肌身離さず持っていなさい」と渡されたものだ。想像以上に大きな音で驚いたが、これなら人のいる場所へ音が届くだろう。ありがとう陽織。渡されたときは子供じゃないんだからと抗議したけど、さっそく役に立ってしまいました。


「ッ!?!?」

「近所迷惑になるのは申し訳ないけど、これなら人も集まってくるかなぁって。警察にも通報してるから、この音を聞いてきっとすぐに来ると思うよ」


 変質者の顔がさっと青褪める。あ、この人また逃げ出す気だなぁって思ったけど、男の背後に警察官の姿を見つけたので今度は手を出さないでおく。案の定、変質者は逃げたけれどすぐに複数の警官に取り押さえられて連行されていった。残った数名の警察官が私たちの方へやってきていろいろ聞かれたと思ったら、こんどは警察署で事情聴取があるらしい。しかし私は手に怪我を負っていたので、まずは病院へ搬送されるようだ。救急車を手配すると言われたが、手が痛むだけですこぶる元気なので遠慮した。


「日向ちゃん、その手の怪我……!」


 ハンカチを二重に巻いていたけど、血が滲んで赤く染まっていた。

 痛々しそうに負傷した手を見ている瑠美に、大丈夫だよと無邪気に笑う。


「これはね、その、全然関係なくて。走って転んだ時に凄い切れ味の石に当たっちゃって切ったもので……」

「変質者に襲われた私を勝手に助けて勝手に怪我したんですよこの人」

「何で言っちゃうのぉ!?」


 真顔であっさりと白状された! 黙っててくれるんじゃなかったんですか!

 瑠美は俯いていて顔がよく見えないからどんな表情をしているのかわからない。これから何を言われるんだろうかと身構えていると、彼女は私から視線を逸らしてストーカーさんの方を向いた。


「島埼さんは大丈夫? 貴女は、怪我してない?」

「は、はいっ」

「……無事で、良かった」

「ありがとう…ございます…」


 私と2人だった時の冷たい態度ではなく、嬉しそうに頬を染め素直に返事をするストーカーさん。

 しかし淡々としている瑠美の態度に拍子抜けしてしまう。なんか、こう、もっと心配されるか怒られるかを予想していただけに肩透かしをくらってしまった。いや、べつにいいけどね? 気にしてないのなら、その方がいい。

 それにしてもこの町って治安悪すぎない? 前はもっと穏やかなところだったのに、この町に引っ越してきて不審者に何回遭遇したことか。運が悪いというより、自分の行いが悪いせいかな。


「日向ちゃん?」

「あ、ごめん」


 ボーっとしている間に2人はもう歩き出していて、少し離れた位置に居た。

 ストーカーさんが傍に来て、怪我した手のほうをじっと見つめている。


「手、痛むの?」

「ううん。大丈夫だよ、ただ考え事してただけだから」


 どうやら手が痛んで動けないと思われたらしい。

 どこか心配そうな目を向けられたので、笑って平気だと言ったら少し安心みたいだった。


「よし行こう、ストーカーさん!」

「ちょっとアンタ、その呼び方やめてよね。私は島埼由歌って名前があるんだから」

「はいはい、島埼さん。じゃあそっちもアンタじゃなくて日向って呼んでよね」

「はあ? 何で私がアンタのいうこと聞かなくちゃいけないのよ」

「えー」

「……2人とも、警察の人達が待ってるから」

「「はーい♪」」


 私達は笑顔で睨みあいながら、瑠美と一緒にパトカーの場所へと歩いていった。

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