5「部長」
「それで、恵美ちゃんは大丈夫なの?」
愛紀は心配な顔で田沼に尋ねる。
「まあ一応。彼女は幽霊になってこの学校を彷徨ってるはずだけど、特に人を呪ったりすることはないらしい。こんな雨の日に時々現れて、会話に入ってくる位かな」
「じゃあ恵美ちゃんの所に行ってもいい?」
田沼は首を横に振る。
「それはダメ」
「何で? 心配じゃないの?」
「校長に疑われたくないから、かな」
「校長が何で疑うの?」
「話に出てくるその『彼』こそ、現校長なんだ。僕はそのネタを掴んで勧誘チラシの件をお咎めなしにしてもらった。当然口外禁止っていう条件でね。もし君があの場所に行ったら彼は色々と疑ってくるだろうし、君にとって不都合な方向に話を持っていくかもしれない。それが嫌なんだ」
「でも、恵美ちゃんが……」
「けど、行かないで、欲しい」
「どうして止めるの!」
「だって君を、愛しているから」
「……へ?」
突然の告白に、恵美は怯んだ。
「出来ればこの件に関わって欲しくなかった。でも関わってしまい、君がそれを望む以上、サポートはしたかった」
「だから、カギを貸してくれたっていうの?」
「ああ、その通りだとも」
今度は首を縦に振る。
「そんなこといきなり言われたって……」
「返事はすぐでなくていいから」
恵美は少し考え、
「……うん、わかった。だったら行っていい?」
と誤魔化すが、
「ダメ」
と一蹴される。
「……じゃあもし返事をここで返せたら、行ってもいい?」
「ダメ」
「行っちゃ、駄目?」
「ダメ」
どうしてもダメと言われ、恵美は少し戦法を変えることに。
「じゃあどうすればいいの?」
「ただここで、待ってて欲しい」
天文部部長はただ、少女がここに留まることを望む。
「田沼くんが行ってくれたりしないの?」
「ごめん、校長がこちらの動きに気付いて屋上に向かってるから」
「……大丈夫なの?」
恵美には嫌な予感がしていた。
「こちらの計算通りなら、ね」
一方田沼は、自分の想定通りストーリーが進行することを、期待していた。
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