3「七不思議」

「あ、田沼くん」

「厨子さん、ちょっといいかな?」

 愛紀は階段に座り込み、ただ二人の帰りを待つばかりだったが、そこに「天文部部長」こと田沼 勝美たぬま かつみが訪ね、そして愛紀は右腕を掴まれた。

「え、どういうこと?」

 愛紀は驚く。彼がこんな人気のない所まで来て、どこかに連れていこうとしていることだけは何とか理解できたが。

「ちょっと聞いて欲しいことがあるんだ」

「ここで聞くよ?」

 愛紀は警戒心をあらわにして、素っ気無く言う。

「階段だと音が響くし、ここじゃない所でお願いしたいんだけど」

「そっか。なら私の教室で」

 主導権を取られたら何をされるか解らない。そんな考えで一杯になっている少女の頭の中。

「いや、できればそこも避けて欲しい。──ここならちょうどいいから」

 そう言って、田沼は階段の横にある倉庫のカギを開ける。

「え、こんな所でって、何をするつも──まさか、カギを貸してもらった見返りに」

「いや、本当にちょっと話をしたいだけ。──厨子さんを屋上に行かせなかった理由含めて」

「分かった。でも本当に何かあったら、人呼ぶからね?」

「了解。何をするとかないけどね」

 二人は倉庫へ入る。そこには寝袋や天体望遠鏡など、天文部らしいものが棚に置かれていた。

「あれ、ここが天文部の倉庫ってこと?」

「そうだよ。いつもここから出し入れしてる」

「なら、なんで一般教室棟の屋上で観測会をやらないの? わざわざ特殊教室棟まで行く必要はないと思うけど」

「それを含めて、話したいと思う。──まずこの学校には七不思議があるってこと、知ってるよね」

「さっきしーちゃんから聞いたばかりだけど」

「厨子さんはオカルト好きだからとっくの昔に知ってると思ってた」

「いいから続けて?」

 愛紀は睨み付けるように田沼を見る。

「その七不思議、全部知ってる?」

「えっと、さっきしーちゃんに教えてもらったのは『視聴覚教室に出る幽霊』と『木に引っ掛かっているYシャツの謎』、『花が咲かない桜の木』、それと『しずくって名前の子はこの学校に入れない』」

「とすると、四つか。あとの三つはあまり有名じゃないかな?」

「知ってるの?」

「知ってるよ」

「なら、教えて。──あ、七つ全部知ったらマズい?」

「いやいや、この学校の七不思議は七つ全部知った所で何もない。けど、七つしかない」

「へぇ、珍しい」

 大概、七不思議というものは七つ以上あるものだ。そして七つ以上あるからこそ、七つ全部知ったら不幸なことが起こると語られる。そう、愛紀は考えていた。

「五つ目は、『校長室の床下に地下室がある』っていう、まあ全然怖くも何ともないもの。でも六つ目と七つ目は違う。六つ目、『三年八組の教室は昔、倉庫だった』」

「八組って、私のクラス?」

「そう、厨子さんの教室。その理由が、四つ目の七不思議に関わってくるんだけど、それは後で。最後の七つ目、それは『この七不思議は作り話ではなく、全て本当のことである』」

「……え?」

「Yシャツはもちろんだけど、残りの噂も全部本当のこと。視聴覚室に幽霊は出るし、校長室の下に地下室はあるし、花が咲かない桜の木も実際に確認されている」

「じゃあ行方不明っていうあれも、学校に入れないあれも──」

「もちろん」

「じゃあもしかして──」

「そう、新谷さんと一緒にいるという子は、この学校にはいないはずなのさ。最低でも今年度の、この学校にはね」

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