2「屋上」

「──という訳で、借りてきたよ?」

 屋上へ続く階段の前で待っていた二人のところに、愛紀が到着する。

「それではレッツゴーといきますか♪」

「ごめん。二人でお願い」

「え、どうして? オカルト好きだったら率先して行くべきじゃない?」

「部長に、私は行くなって」

 カギを借りるのと引き換えに、それを条件として出されていた。何故、と聞いても答えてくれず、それ以外の条件にして欲しいと頼んでも駄目としか言わない。渋々それを呑んで、ここにカギを持ってきたのだ。

「どうしても?」

「うん、そうみたい」

「じゃあ、しょうがないか。雫ちゃん、一緒に行こっ♪」

「あ、はい」

 二人は階段を上り、屋上と館内を仕切る扉へ。ドアノブの所にカギを差し込み、右回りに一回転させる。するとカチッと音がして、カギは開いた。

「じゃあいくよ、雫ちゃん♪」

「あ、はい……」

「いっせっせの──せい!」

 重い鉄製の扉を開けると、目の前には一面に水たまりが広がっている。そして空からは日の光が射し込み、キラキラと輝きを増していた。

「さてさて、調べてみるとしますか♪」

 恵美は樹脂でコーティングされた緑色の屋上を、靴下が濡れないようにそーっと歩いていく。上履きのままだったがこの学校はスリッパであるため、慎重に進めば水は染み込まず問題はない。

 しばらく歩くと給水塔があった。直方体状で銀色、ステンレス製であり、点検用の梯子も付いている。

「ここに死体があったってホラーは読んだことあるけど……、まあ一応確かめてみるだけ」

 恵美は梯子をつかんで体を持ち上げ、上りはじめる。雨上がり、スリッパ、しかも腐食防止の塗装が施されているため時々足を踏み外しそうになりつつ、それでも上まで上がりきる。

「というわけで点検口はと──やっぱりカギはかかってるか」

 南京錠でしっかりと施錠され、そのままの状態で動かせる気配はない。つまりこの中に何かがある可能性は低いし、あったとしても確かめるすべがない。それを確認し、恵美は再び下へ降りようとする。がその最終段で足を滑らせ、

「いったー。てかスカート濡れちゃったし……」

 屋上面に尻餅をつく。しかも運悪く、そこには深めの水たまりがあった。慌てて立ち上がるが

「うわ、染み込んでる……。後で乾かさないと」

 もう手遅れだった。スカートの生地はもちろんのこと、その下の下着まで濡れている。このままじゃ帰りの電車に乗れないかも、と独りの少女は思った。

 恵美は一般教室棟の上を西へ西へと歩いていく。ただ緑の床面が広がる空間、その端は転落防止用か手すりが設けられている。その一番端、恵美や愛紀達のクラスがある位置に、

「あ、こっちに来てたんだ」

 雫はぼんやりと立っていた。

「あ、そこでストップです」

「え、何かあるの?」

「はい。でもその前に、」

 雫は首を少し傾け、聞く。

「この学校の七不思議、全部知ってます?」

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