世紀末です!革命しましょう!

@ninba

エピローグ 新しい世界の終わりと始まり

「今すぐ報道各社へ連絡を入れろ!!!一刻を争う事態なのだ!!!この国の全国民の命が危険に晒されているんだぞ!!!」

「わ、分かりました!今すぐ緊急会見の準備をさせます!・・・大統領!たった今官邸のアンチパルス砲の準備が整いました!今すぐ展開します!アメリカのパルス砲の到達までは残り10分、現在はパルス砲の規模の確認を急いでいます!」

「分かった!会見は2分後に行う!それまでにその調査結果を私に伝えてくれ!」

 私はすぐに会見のための準備を始める。おそらくパルス砲は現在日本へ向かっていることだろう。国民のため、一分の無駄も許されない。

「・・・お、おい・・・嘘だろ・・・。」

「・・・おい!どうした!結果が出たのか!」

「だ、大統領・・・こ、この規模のパルス砲はおそらく阻止することが不可能です・・・。地球上には存在しえないレベルのエネルギー量だと、調査結果が出ました・・・。」

「何だと!?だ、駄目だ!そんなことは国民に発表できない!とにかく、一刻も早く避難しろと緊急勧告を出す!助かるかどうかなんて二の次だ!」

 そう言って私は、会見場へ速足で向かった。

 

 ───5年前、すなわち西暦2305年、我が国日本は、外交や利権争いの問題の複雑化により、アメリカ合衆国・・・もとい、アメリカ連合との3度目の戦争状態へ陥った。長期化することは無いとの見解が多かったものの、この戦争は年を重ねるごとに激化し、列強各国をも巻き込んでいくものとなり、ついには第4次世界大戦と呼ばれる規模の大戦争となってしまった。

 日本は先進兵器と技術を続々と実践投入していき、ほとんどの作戦で完全勝利を収め、完膚なきまでにアメリカ連合国軍を打ち負かしていた。

 ・・・そして、ついさっき、昨日の予告通りアメリカ連合による緊急会見が開かれた。多くの人々はアメリカの降伏に関する何かだと考えていたことだろう。現に、日本国民は昨日からすっかりお祭りモードとなっていた。

 しかし、その緊急会見の内容は、誰もが予想だにしなかった、シンプルかつ明瞭なものであった。

 ”ついさっき、日本へ我が連合が誇る最高威力の電子パルス砲を撃った。制御は不可能である。”


                   *

 

【・・・日本国民の皆様、日本国大統領のハリス・清二です。これより、皆様に緊急避難勧告を発令します。周知の通り、アメリカ政府が放った電子パルス砲が、すぐに日本へ到達します。国民は今すぐバリアのある安全な場所へ避難してください。繰り返します…】


「・・・秀麗しゅうれい!!!今すぐ避難するぞ!!!ここが軍基地とはいえ、安全だとは言い切れない!!!今すぐ地下シェルターへ行こう!!!」

「・・・はぁ、無駄ですよ、髑髏どくろ。秘密裏に行われていたアメリカの宇宙開発事業を知っていますか?彼らはきっとそこで、人知を超えた強力なエネルギーなどでも発見したんです。そうでもなければ」

「いいから!!!お前に死なれたら困るんだよ!俺の妻になるんだろ???ほら!早く行くぞ!今から走っていけばすぐだ!」

「な・・・あなたの妻になるだなんて一言も言ってませんから。このゲス男、世界が終わる前にここで死にますか?」

「痛い痛い!分かった分かった!俺が悪かった!んじゃもう早くシェルターへ行こう!いくら俺らの身体能力が卓越してるとはいえ、本当に死んじまうぞ?嫌だろ?じゃあ、ダッシュだ!」

「あの男・・・。」髑髏の後を追う形で、私も思い切り駆けだした。

 遥か上空には、一本の太い光の柱が地上へ降りかかろうとしている。あれが例のパルス砲だろう。相当な高度にあるが、既に目視が可能な距離にある。

「おい!秀麗!お前、今日、いつもより遅くないか?もっと飛ばせるだろ?流石にあれはヤバい。パルス砲ってだけでも触れたら危ないって聞くのに、あんな極太・・・下手したら近寄っただけでも死ぬんじゃ?」

「・・・分かりました。もっと飛ばしてみます。」

 地面を蹴りだす速さを上げる。私の速さは、調子が良い時で時速1600km。正直どんなコンディションでも、100km圏内にあるシェルターなんて、目と鼻の先だ。

 ・・・ほら、数分走っただけで、もうシェルターが見えてきた。

「すいません!二人入ります!行くぞ、秀麗!」

 大混雑のシェルターの入り口を、人々を飛び越え通り抜ける。

「うわ、中も大混雑じゃねえか!いいか秀麗!迷子になるなよ?」

「大丈夫ですから。私としてはあなたの方が何百倍も心配ですね。迷子になっても泣かないでくださいよ?いつもみたいに、ママーって」

「この野郎、言うようになったじゃねえか・・・ってなんだ!」

 

 ・・・突如、けたたましい轟音と振動と共に、シェルターの電源が全て落ちた。老若男女の怒号や泣き声、悲鳴が鳴り響く。

「なんですか!?まさかパルス砲が・・・。」

「おいおい、いよいよまずいんじゃないのか!?こんな狭いんじゃ本当になす術がないぜ?パルス砲なんて食らったら、俺たち人間じゃ一コロだ!ここのバリアでアメリカのパルス砲が防げるかどうか・・・!」

「そんな・・・まさか私たちはこんなところで・・・。」

『予備電源を作動します・・・強い電子パルスを検知!強い電子パルスを検知!今すぐ避難してください!繰り返します・・・』

「なっ、言ってるそばから・・・もうだめかもしれないな秀麗、もしここまでパルス砲が到達してきたなら、俺たちでは何も太刀打ちできない!・・・はぁ、一回はお前とデートに行きたかったなぁ。」

「・・・またそんなこと言って。どれだけあなたはのんきなんですか。私に言わせれば、今この状況はデートだと思います。週末、ではなく終末になりますが・・・。」

 さきほどから、頭の奥で徐々に頭痛と耳鳴りが響いている。

 ・・・頭痛と耳鳴りは毎秒強くなっているように感じた。これは確実にパルス砲の影響を受けているに違いない。

「面白いジョークありがと・・・秀麗、段々頭痛が激しくなってきたな・・・。大丈夫か?」

「大丈夫では、無くなってきました・・・もうクラクラして、目が回りそうです・・・」

「・・・かなり痛みが強くなってる。本当に数秒前とは桁違いの痛みだ・・・俺もう立ってることがやっとなんだが・・・。」

 髑髏を内心心配しつつ、ふと気づくと、シェルターの至る所で泣き声と呻き声が聞こえる。どうやらもうみんな各々の無力さを悟っているらしい。少しずつ気を失っている人も出てきているようだ。

「秀麗・・・すまない、こんなところでお前を死なせるなんて・・・。俺がもし戦場に出て、奴らを潰すことが出来たなら・・・。」

「止めてください・・・そんなたらればで話しても何も解決になりませんよ・・・。うぅ、頭が・・・。」

 頭痛と耳鳴りのボルテージは意識を失う寸前まで来ていた。気付くと、シェルターにいる約半数はもうすでに倒れている。本当に私たちはここで終わるのだろうか。

 いつのまにか、頬に数筋の涙を流していた髑髏と目が合う。

 ・・・まったく、こんなところで死んでしまうなんて、私にとっては完全に不覚でした。もっと軍で活躍して、調子に乗ってる髑髏に痛い目見せてやりたかったです。でもそれも、どうやら叶わぬ夢のようですね。

 私もいつのまにか、目から涙があふれ出していた。

さようなら、髑髏。結局、今こうしてここにいるように、私はあなたのそばにいることが何よりも好きだったようです。

「・・・ありがとうございます」「・・・ありがとう」

 最後の力を振り絞って、感謝の言葉を伝える。ふふ、どうやら髑髏も同じ考えだったようですね。

 突如、私の視界から光が消える。

 

 ──数分後、シェルターには、ピクリともしない、数多あまたの肉塊が転がっていた。

 



 


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