ふたつの小さなイクラの勇気

さんたろう

第1話

小学4年生の僕。


今日は家族で回転寿司に来ている。

僕は何回も来てるので、食べるお寿司も決まってるし、板前さんへの注文だってしたこともある。


僕はイクラが大好きだ。


最初と最後の1皿(だいたい6皿目)はイクラって決まってる。


エビやサーモンも食べるけど、サビヌキって板前さんに言わなきゃいけないし、少しむずかしい注文になるので、いつもお父さんが注文したのをワサビをとってもらって、少しツンとするのをガマンしながら食べている。


席に座って回ってくるお寿司をぼーっとみながら5分くらいすると、誰かが「イクラください」と板前さんに注文する声がした。


今だ。


「すいません。僕もイクラください。」


少し浮かせたお尻をドヤ顔で戻す。

今日はわりと早く注文できた。


「この子ったらいつも人の注文に乗っかるばかりね」

とお母さんは笑いながらお父さんに言う。


お父さんはマグロを食べながら笑ってる。


すると、回転レールの中にいる板前さんの向こう側に同じクラスの女の子が家族で座っているのを見つけた。


普段おしゃべりをする方ではないおとなしい女の子。

お父さんから自分で注文してごらんと教えてもらっているようだけど、恥ずかしがっててなかなか言えないみたい。


この前体育の授業のあとに校庭でなくした、紅白帽子。

授業のあとの休み時間に見つけて僕に届けてくれたのはあの子だった。


なんだ、お寿司の注文もできないのか。


僕はもう今日はすでに6枚食べてるのに、生まれて初めて自分から板前さんに注文をした。


「すいません。あのっ。イクラください。」


僕は(きっとさっきよりドヤ顔で)浮かせたお尻を戻しながら、女の子の方をチラッと見た。


すると、女の子もお尻を浮かせて板前さんの方をじっと見つめて、イクラのような真っ赤な顔をしてこう言った。


「あっ。あのー。ワタシもイクラください。」


イクラのような赤い顔と目が合った。


やっぱり僕は、イクラが好きだ。

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