第百二話 アシュララ! その2

 時は少し過ぎて、例の公園に足を止めていた。

 アイラの言っていた通り、普通のよりもかなり面積を取っている噴水が、断続的に水を噴いている。

 太陽が真上から降り始めた時間帯なのと、平日なので人通りは少なめ。


 「まだかな......」


 その噴水横のベンチで、黄緑のパーカーで顔を隠し、ジーンズを履いているアシュリーは緊張しながらもララの到着を待っている。

 肩にはショルダーバッグを背負っおり、そこには現金彼は落ち着いて入2,3万を入れている。

 彼は落ち着いてはられず、しばしば目をキョロキョロと動かしている。

 その格好では怪しがられてもおかしくはないのだが、幸いさっき書いた通り人は少ない。


 「......ふぅー......」


 今度は下を向き、手を組みながら深呼吸をする。


 「はぁ......何もここまで緊張しなくても......」


 彼は自分にそういい聞かせる。

 ララと会話を交わすと言うのは、以前にも度々あったのだが、若干恥ずかしさは出るものの、緊張などしたこと無かった。

 恐らく、『デート』という言葉に惑わされているのかも知れないが......。


 「えっと、アシュリー......?」


 頭上から声が降り注いで来たので、フードを取って上を見上げる。

 太陽の光を遮っていたのは、金色に輝く髪を、前だけを残してポニーテールにして纏めた少女。

 純粋な瞳の視線を彼に注がせている。


 「あ、ララ......」

 「良かった、人違いじゃなくて!」


 ララは無邪気な笑顔を浮かべる。

 遂に待ちわびていた人がご登場である。

 アシュリーの鼓動は、緊張とは別の意味で高鳴る。


 「ごめん、待ってたかしら?」

 「え? いやそんなに......まだ約束の時間までには余裕あるし」


 ふと公園に設置されている時計を見ると、確かに時間まで3分ほどある。

 するとララがアシュリーの手を握り、彼を引き、立ち上がらせる。


 「!」


 胸が束の間だが苦しくなるのと共に、顔が急に熱くなるのを感じた。


 「そう、じゃあ早速どこにいこう?」

 「......え? どこにしよう」


 ぼーっとしていて反応が遅れてしまった。

 そして考えてみれば、事前にどこに行こうかなんて考えていなかった。

 そういえばデートの仕方なんて全く分からない。

 そもそもララが本当に『デート』の感覚で来ているのかも分からないが。


 「うーん......取り敢えず、近くのカフェ?」

 「いいね! そうしよう!」


 ララは何の反論もせずアシュリーの提案を受け入れた。


 「私その場所知ってるわ、さあ行こう!」

 「わっ」


 そして彼女は握ったままのアシュリー手を引いてその場所へと移動する。



 ※ ※ ※


 「ん~、美味!」


 ララは美味しそうにイチゴパフェを口に入れる。

 アシュリーはそれをクレープを片手に眺める。

 カフェのテラスなので、多少の風が吹くが、それがアシュリーの熱を少しずつ取り除いていく。

 彼もそのクレープをひとかじり。


 「んー、おいしい」


 口の中にフワッと広がるクリームと一緒に、ララと同じくイチゴが舌に触れる。

 そがまた甘く、彼が食べた中でも1、2を争う位置だろう。


 (まあ、1,100円だったからむしろこれくらいじゃないとボッタクリだ)


 「にしても、アイラも良く分からない事考えつくわよねぇ、何で私とアシュリーで楽しめなんて......」

 「さ、さあ......」


 ララの言い方的に、この付き合いの意味を知らないらしい。

 それでも感付く位はするはずだが、単純な彼女は恐らくそんなこと思ってもいないだろう。

 

 ララはアシュリーに対しては親しく接してはいるが、少なくとも恋愛感情は抱いていないだろう。

 実際、ララはまるでただの友達かのように振る舞っている。

 というか、どんな人物にも仲良くしようとするから、これが彼女の人に対する普通の接し方と言っても良いだろう。


 「なあ、ララ」

 「え?」

 「クレープ一口食べるか?」


 彼は彼女への接近を試みるべく、クレープを彼女に差し出す。


 「いいの? わーい!」


 彼女は純粋に喜ぶと、遠慮なくそれを受け取り、クリームがたっぷり入った所を一回かじる。


 「おいしー♡」


 ララはニコニコとした表情でクレープの味を噛み締める。

 アシュリーもよい気分である。


 「ありがとー」

 「喜んで貰えてなにより」


 アシュリーはララの持っているクレープを再び握り、自分もそれを食べようと開きかけた口が止まる。


 「あ」


 彼はここで重大な事に気付いた。

 もしこのクレープを頬張れば、ある事が成立してしまうのだ。


 (もしかして、か、間接キス......?)


 アシュリーは暫くはララの食べた跡を避けていたが、やはり完食するにはその部分を喉に通さなければならない。

 アシュリーは少し考え込むが、もうここは思いきって口に入れることにした。

 閉じかかった口を再び開き、彼女が口に付けた部分を入れ、食べる。


 (ん、すごいクリームの量......)


 白くとろけたクリームが口の中を占拠する。

 で、間接キスは成立したのだが、アシュリーは悪い気はしなかった。

 それに、クリームのせいかもしれないが、より甘く感じた。


 その後は服を買ったり、色々とララと付き合い、もう夕方にまでなった。


 「ふー、疲れた」

 「そうだね」


 二人は今日最初にあった公園に戻っていた。

 大きな噴水から噴き出している水は、綺麗に夕日を映している。


 「じゃあね!」


 ララは遊びきったような笑顔をだし、去り際にアシュリーに手をふる。

 アシュリーも微笑みながら手を振る。


 「......ふぅ」


 こうして、アイラに強制的にやらされたも同然のデートは終わった。

 疲れたけど楽しかった、これがアシュリーの感想である。

 これで仲が少しでも接近したら幸いだと思った。

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