第八十七話 神の自己満足
音速と例えても違和感無いカルマンのダッシュは、瞬きをする間にサナの目の前まで迫ってくる。
カルマンの踏み込んだ地面は大きくへこんでいる。
彼はサナの目の前でピタッと止まり、ダッシュしたことによる風圧でサナの髪や耳、着物が大きくはためく。
「貴様の力、見せてみよっ!!」
彼は凶悪な笑顔を浮かべると、手刀を作り、その矛先をサナに向け串刺しにしようとする。
彼女の首部に一寸程にまでまで迫ったころ、突如彼の腕を何かが拘束する。
「......!」
見ると、地面から伸びてきた黒い物体が腕に絡みつき、彼の攻撃を妨げている。
木の根のような質感だ。
カルマンは引っ張るも、それが切れることはない。
「惜しかったわね......ギリギリで私の
サナは余裕のなさをアピールするが、僅かに笑みを浮かべる表情はとてもそういう風には見えない。
彼女は浮かべながら右手からプラズマ弾を発生させる。
カルマンは急いで不規則に絡んでいる
「くっ......」
そこでカルマンがとった手段は、自分自身の腕をちぎるというものだった。
彼はもう片方の腕の先を身動きが取れない原因となっている肩に突き刺すと、そのまま体を引っ張って無理やり切り離した。
同時にサナのプラズマが放たれるが、彼はそれを間一髪で避ける。
「あら......」
後で回復できるとはいえ、こうも容易く自分の体の一部を捨てるというのは、サナにも多少の衝撃は走ったらしい。
カルマンがは断面部をもう片方の腕で押さえており、痛みは感じているようだ。
だがそれも束の間、植物の成長を早送りで見ているかのように、みるみると腕が再生されていく。
「あやつ、異常とも言える回復力を持っているからこその回避術か......」
それを隅で奥歯を噛みしめながら傍観している浩。
完全に蚊帳の外状態なのが気に食わないのか、顔をしかめたままである。
しかし、彼の力では両者の戦いの中に入ることはできないのもまた事実......。
「......ワシも歳か、もっと若ければカルマンなどというエネミーにも勝てたわい」
彼が愚痴を漏らしている中、サナとカルマンは睨み合って対峙をしている。
この両者からは、それぞれ別次元とも言えるオーラが漂っている。
「痛くないの?」
「ふん、この程度のもの、大したことはない」
「貴方、エネミーの中でも相当強いでしょうね。その力、いったいどのようにして手に入れたのかしら?」
「知りたいか、ならば冥土の土産に教えてやろう」
カルマンはそうやって自身の過去について 語り始めた。
「我は元は人間であった。何も能力はなかったし、別に人間に恨みがあったわけではなかった。ある日我は交通事故で
「へぇ......」
「そして我は出会った、『神』にな」
「神じゃと......」
そう言葉を漏らしたのは浩である。
彼は神の存在は信じないタイプであったため、これは彼にとっては信じがたいことであった。
「何戯言を言っておるのだあやつは......」
しかし、それ以外にどうやってごく普通の人間からあんな禍々しい容姿をしたエネミーに変貌したのか。
「不本意じゃが、あやつの言葉を信じざるを得ないか......」
室内の片隅に位置している彼はそうやって静かに独り言を呟くが、距離が遠いので、それはカルマンらには聞こえていない。
「名は何と言ったか......『テスラ』と言っていたか、奴は自己満足のためにこの力、そして醜い身体を手に入れた」
「分かってるじゃない」
彼女はカルマンの話に割って入るように煽りを入れてくる。
それが果たしてカルマンの気に触れたのかはどうかは分からないが、彼は何も聞いていないかの如く話を進める。
「最初はこんな姿にした神が憎かった。我が一体何をしたというのだと......だが、この圧倒的な力を手にした我は少し時を経てある野望を持つようになった、『この力を使って東京を支配する』とな......」
彼は拳を強く握る。
その拳には、彼の欲望があふれ出ている。
「この力があれば我はなんでもできる、どんなに強い奴にも勝てる! 無論、貴様にもだ」
「それで、クローバーという組織を作って散々暴れまわったってわけね......神から授けてもらったその力を、自分の覇権のために使うなんて罰当たりだし、単純な思考回路ね。それに......」
サナは少し黙り込んだ後、ニヤッと笑って口を開く。
「......その程度の力しかもらっていないのね」
「何だと......!」
彼女の言葉に彼は歯ぎしりをさせる。
とうとう堪忍袋の緒が切れたか。
「貴様のその減らず口、黙らせてくれるわ!」
カルマンはそう叫ぶと、彼女の周りを囲むように上空から複数の魔法陣が現れる。
そしてそこからは、赤黒い逆十字架が召喚され、地面に突き刺さる。
「『キル・オブ・クライスト』! 貴様にこれが耐えられるか?」
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