第八十八話 キル・オブ・クライスト

 不吉な雰囲気を漂わせている12本の逆十字は、サナの周りを囲むように地面に立てられている。

 十字架の交わっている所には、小さく星がかかれてある。


 「逆十字......悪魔の象徴のやつね」


 彼女はそれを見渡していると、その逆十字の位置をなぞるような巨大な赤い魔方陣がサナの下に現れる。

 

 「フ......ただの小細工だと思わない方がいいぞ」


 彼は鋭い歯を剥き出しにして笑うと、赤い魔方陣は眩しく光出す。

 と同時に、逆十字の一つにかかれてある星の印も輝きだし、その印からビームが発射された。


 「!」


 その存在に気付いたサナはそれを頬すれすれで回避する。

 黄色い髪が数本、宙を彷徨っていく。


 「さて、貴様は一体何秒耐えることが出来るだろうか?」


 他の十字からもサナ目掛けて容赦なく撃っていく。


 「魔方陣内のエリアに入っているものは通常の場所で行動するよりも体力を消費する。足を止めたときが貴様の最後だ」

 「へぇ......じゃあ、その十字を壊せば......」


 サナは闇手を出現、それを逆十字に飛ばす。

 しかし、十字かの寸手まで迫った時、闇手は壁のようなものに遮られ、直後に炭のように朽ちて行った。


 「無駄だ、円の境には逆十字によって結界が展開されている、それに触れたら一瞬で消しクズとなる。逆十字は結界の外に配置されている。貴様は最早、死を待つだけの狐も同然!」


 カルマンは自信満々といった様子。

 はたから見ればサナの絶体絶命なのだが......。


 「......エアハートよ、あやつは果たして窮地に陥ってるのじゃろうか?」

 「うーん、そうには見えないですねぇ......」

 「やはりの、わしもじゃ」


 サナの実力をしっかりと理解している二人は、むしろ状況は逆だと捉えている。

 実際、彼の説明が本当なら体力を消費するはずなのに、息切れどころか、汗一つかいていないのだ。

 表情も、焦りのの文字も浮かんでいない。


 「よっと」


 サナは相変わらずリズムをとるようにして尽くビームを避けていく。


 「なんだ......あいつ、全く疲れていない......?」


 カルマンはようやく異変に気づいたときだ。

 サナは紅い魔法陣の中心に立ち、


 「茶番はもういいかしら?」


 とセリフを言うと、手にエネルギー弾を発生させる。


 「何をする気だ、結界を壊すのは不可能だぞ!」


 彼女はカルマンの忠告も無視して弾を叩きつける。

 弾は光を発し、彼女も巻き込まれながら炸裂する。

 地面はひびが入り、大きく崩壊、土台くを失った逆十字はバランスを崩し、次々と倒れていく。


 「何......!?」


 しかも、ガラスをたたき割ったような音も聞こえる。

 十字が壊滅したのに伴い、結界が破られてしまったのだ。

 

 「何故だ......キル・オブ・クライストが破られるなど......」


 この事は想定外だったのだろうか、カルマンは狼狽えていると、瓦礫の粉塵から徐々にサナの姿が見れてくる。


 「......土台はしっかりと固めないとね」


 彼女はニコッと笑う。

 一瞬、明るい笑顔に見えなくもないが、そこからは殺意か、狂気の様なものが感じられる。

 爆発に身を包んだにも関わらず、そこに一切の傷が無い。


 「やはり破りおったか。しかし、まさか地面を叩き割って障壁の元となっている十字を倒すとは......」


 浩はサナがあの技を攻略することは見越してはいたが、あの方法で破るとは考えていなかった。


 「基礎地面さえ壊してしまえば後は勝手に崩壊する。どんなに外が頑丈な建造物でもそれを支える柱が脆ければすぐに倒壊する......のと同じですかねぇ......?」

 「奴なら力で無理やり突破すると思っておったが、ここに来て頭脳を使いよったか」


 カルマンはそろそろ苛立ちが顔に現れ始めた一方、サナは余裕の表情を浮かべて、まだまだ行けるといった感じ。


 「くそ......これだけやってもまだ無傷とは......これほど強いやつは初めてだ」

 「それはどうも......で、貴方の攻撃はこれだけなのかしら?」

 「ぬ......!!」


 彼は歯をむき出しにし、今度は怒りで顔を険しくすると、突如として高い天井にヒビが入り、崩壊し始める。


 「ん?」


 彼女の真上から瓦礫と何やらもう一つ、物体が落ちてきたので彼女はその場を急いで離れる。

 瓦礫と共に落下してきたのは、怒りに燃えた白龍であった。

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