第八十四話 戯け

 カルマンの魔法陣から出た触手はスリニアの身体を貫通させる。

 いずれも人間の急所を的確に突いている。

 触手は血を塗りつけながら一斉に引っこ抜けていく。


 「エアハート......!」


 穴が三つ開いた彼女は浮遊した状態からフラフラと地面へと降りていく。

 死んだ......普通ならそう思うし、実際、一般人なら即死である。


 「フッ、あっけないな......」


 カルマンも彼女の死亡を確信。

 しかし、浩は大した動揺も見せない。


 「このたわけが、よく見るがよいぞ!」

 「何......?」


 完全にスリニアから目を逸らしていたカルマンは、再び彼女を見ると、思わず声を漏らす。


 「なんだ、あれは......」


 彼女の真っ赤な穴からは、黒い霧が発生する。

 そして、その創傷は十秒前後で完全に消えてしまった。

 彼女は天井から吊り上げられている様な状態から身体を起こすと、翠色の二つの珠をゆっくりとカルマンに見せる。

 早くも彼女を目覚めさせたのだ。


 「あなたを、殺します」


 さっきのような寝ぼけた声ではない、真剣な口調でそういい放つと、より大量の天獣尾を出す。

 そしてその触手達を襲い、一瞬で全ての触手を千切る。

 触手は即座に回復するが、スリニアの怒濤の速攻がそれを上回っていく。


 「......フン、なかなかやるではないか」


 カルマンはついに攻撃を断念し、触手を魔方陣から退かせる。

 彼は未だにマントを取らない。


 「では、これはどうだろうか」


 カルマンはそう言うと、再び魔方陣を出現させる。

 今度は、光の玉が魔方陣から浮き上がってくる。


 「エネルギー弾じゃの」

 「只のエネルギー弾ではない」


 カルマンは「行け」と命令すると、その生まれたての弾は意思を持ったかのように急に二人に向かってビームを放ってきた。


 「ふむ......」


 浩はしまい掛けた刀を抜き取って、ビールを弾く。

 一方のスリニアも、天獣尾で自身の周りを防ぎつつ、その弾を切りつけていく。

 しかし弾の移動スピードが速く、弾の一つがスリニアの一瞬の隙をついて背中に回り、脳天をビームで撃ち抜いた。


 「う......」


 彼女の額には穴が開き、一瞬身体の力が抜ける。

 しかし、直ぐにそれは埋まっていき、さっきの傷を無かったことにした。


 「リザレクション......エアハートは傷を即座に治し、例え致命傷を負っても蘇るぞ」


 これがスリニアをここに向かわせた理由である。

 幾度攻撃を受けても死ぬことはない上に、攻撃力に於いてもディフェンサーズ屈指である。

 このカルマンには十分対抗出来るし、損害が出ないと言うのが寿之の考えである。


 「ほう、なるほど......」


 未だにマントを巻いてる状態を維持しているカルマン。

 すると、浮遊しているスリニアの真下から魔方陣を発生させた。

 彼女は周りの光弾に気を取られている。


 「エアハート......!」


 浩が老人特有のかすれた声で叫ぶが遅かった。


 「?」


 スリニアが声に浩の方を振り向いたのと同時に、触手の先は彼女の両目を横切っていく。

 彼女の翠目に切り込みが入る。

 

 「目っ......!!」


 スリニアは目に手を当てて苦しんでいる隙を突き、カルマンは槍状の物体を四本、生成し、スリニアに向けて飛ばす。

 槍はスリニアの四肢に刺さると、勢いで彼女の身体は槍に持っていかれる。

 そして王室の壁に深く入り、彼女は叩きつけられるようにして拘束された。


 「これで動けまい。槍がめり込まれている以上、目以外は治しようも無いだろう」

 「ふむ、エアハートの行動を封じるとは......」



 カルマンは顔は分からないが一切声色を変えていない一方、浩は若干険しい表情を浮かべている。


 「あいつの処分は後で考えるが、まずは貴様から葬り去ってやろう」


 弾が浩の周りを囲んでいくなか、浩は深呼吸を一回すると、刀を鞘にしまいこんだ。

 そして目を閉じて、そこから石像のように固まった。


 「ん......なんだ、諦めたのか」


 謎の行動に一瞬困惑したカルマンだったが、投了したと解釈する。

 そして、「やれ」という声と共に、弾は浩に向かってビームを一斉に吐き出す。


 「......戯けが」


 浩が呟いた途端、光弾やビームはそれに恐れをなしたかのように空中で静止、そのまま動かない。

 同時に、彼の周りの空気が一瞬で変わったように感じられた。


 「何......!?」


 これにはカルマンも驚かずにはいられない。

 浩は杖を懐に納めると、コートの両裾から金属製のチェーン状のものが垂れ下がってきた。


 「はぁっ!!」


 彼は両腕を内側に回した後に、外側におもいっきり腕を放り出すと、両端に歯がついてあるチェーンは裾から飛び出し、腕をふった勢いでしなる。

 チェーンは暴れながら宙に止まっている弾へ次々と通り過ぎていく。

 全て斬り終わったとき、弾は絶命を宣言するように爆発する。


 「エアハートがいたから少々邪魔じゃったのだ。不死身とはいえ、傷つけるのも気に触れるからのう」


 チェーンを漂わせながら、さらに周りにエネルギー弾を発生させる。


 「じゃが、これで心置きなく老体を酷使できるわけじゃ。ワシの実力はここからじゃぞ、覚悟せい!」

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