第八十三話 ペソの王座を継ぐ者
この真夜中の廃城はいつになく騒がしい。
銃声や爆発、悲鳴や断末魔が飛び交っていて、まさに阿鼻叫喚の宴会だ。
......しかし、ある場所だけ、壁に設置されているロウソクの火が直立するほどの静寂に包まれていた。
城の王室の前である、そこは大きな扉が待ち構えている。
扉の向こうには、クローバーの『ボス』が君臣している。
と、その扉への道を繋いでいる廊下から、つえを突く音が聞こえてくる。
一人は、黒いコートのようなものを着た老人。
もう一人は、浮遊している小さい女性。
「ふむ......最初はこの老いぼれの耳にすら響くぐらい喧しかったが、今はちっとも聞こえんのう......」
老人の浩は真っ白な顎髭をゆっくりと触る。
本当に、今別所で騒乱が起きているのが信じられない位の静けさだ。
あの道の向こうにいるクローバーの頭領の雰囲気が、あらゆる生物を遠ざけているのか。
「ふわぁ......」
しかし同行している女、スリニアは聞く様子もなく欠伸をする。
彼らが通りすぎたロウソクは、ゆらゆらと妖しく揺れる。
「しかし全く、アストルの奴はいつもこう大事な時に遅れとるわ。これに慣れたワシも、もはや異常じゃな」
「でも、寝坊だったら、あの人の気持ちがわかる気がしますぅ......」
ディフェンサーズNo.1、サナ・アストルは遅刻である。
この大事な戦いの時に、しかもこれが常習なのだから、ある意味恐ろしい女である。
「......遅刻と言えば、レヴェリッジもそうじゃったらしいの」
ペソ一派討伐の時には、ミカが遅れてやって来たが、あれはリムジンで移動していたため、交通渋滞に引っ掛かってしまったとか。
「リムジンなどという豪華なもので行っとるからじゃ」
少しして、その大きな扉が目の前に立ち塞がった。
その扉はペソ戦のせいか、所々傷ついており、それがより早大な雰囲気を引き立たせている。
「おぉ......」
スリニアはそれに感嘆してる。
「ほう、ここにあのボスはいるらしいの」
浩はその扉を見つめると、拳を作った右手をゆっくりと、扉の前へと差し出す。
「開くのじゃ......!」
念力使いの彼はそう言うと、その右手を一気に開く。
扉は彼に呼応し、
その扉が開ききった時、その向こうには、王室が広がっていた。
廊下もそうだったが、瓦礫が落ちている等、ペソ戦の傷跡が残っている。
それでも、あの荘厳な雰囲気は健在である。
「ふむ......」
そしてその王座には、一体のエネミーが座っている。
少し大きめの人とほぼ変わらない身長で、彼にとってかつてペソが君臨していた王座は大きすぎるように見える。
身体全体をはマントで包み込まれており、顔もフードで覆われおり見えない。
「......たった二人で挑んでくるとは」
「後でもう一人来るがのう」
彼がが問うと、浩は一切の動揺をせず答える。
「俺の名はカルマン。クローバーのトップにして、最強のエネミー......」
そのエネミー、カルマンはその王座から立ち上がる。
「貴様らがクローバーに挑んできた勇気だけは感心してやろう。そして、ここでクローバーの糧となって死ぬがよい」
威圧感が他のエネミーと比べて尋常ではない。
が、スリニアはまだ開眼せず、浩はカルマンを睨む。
「......そんな達者な事をいっておるがのう、お主、臆病じゃの」
「どういう事だ......?」
「そのマントを外し、顔を見せるのじゃ。見せぬのは臆病者の証拠じゃぞ」
「力付くでやって見せるがよい」
カルマンはそう言うと、彼の回りに魔方陣が出現する。
そこからは、見るもおぞましい触手の様なものが出現する。
「まずは小手調べだ」
その触手は一気に二人の方へと伸びていく。
浩はすぐに杖に仕込んであった刀を抜くと、襲ってくる触手を次々と切り裂いていく。
「ふぁ」
スリニアも、天獣尾を背中から発生させると、それは複数の刃物へと変化。
それを振り回し対抗する。
しかし、触手は断面から瞬時に回復し、再び襲ってくる。
「なるほど、これが小手調べということじゃの」
一方のカルマンは、その場から一歩も動いていない。
ただ二人の戦闘風景を眺めているだけだ。
「この物体気持ち悪いです......」
スリニアはこの触手を不気味がる。
そして、この攻撃をやめさせようとしたのか、天獣尾を使ってカルマン本体への攻撃を強行する。
しかし、愚策だったようだ、カルマンの目の前に、触手の壁が築かれる。
天獣尾はその壁を貫こうとするが、触手の壁が厚く貫通しきれない。
「ぬぬ......」
彼女が怯んでいる隙に、別の触手がスリニアを襲う。
「あっ」
スリニアはそれを避けれず、2,3本の触手がスリニアの身体を突き刺してきた。
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