第六十七話 世界凍結
「ふうううううん!!」
キグの装甲はパリパリと卵を割るような音を立てながら剥がれていく。
そして、少しだけだが、上半身が膨らんでいった。
「......」
曉は剥がれきるのを待っている。
と、頭の装甲も剥がれ、全て剥がれきった上半身は、茶色くて、カブトムシの腹のような質感をしている。
腹筋は割れており、胸はには短い毛が生え揃っている。
顔はスキンヘッドで、口は口裂け女程ではないが大きく、目は白が大半を埋めている。
「ふぅ......どうだ、これで俺の能力を100%発揮できる!!」
キグはフンッと鼻息を出す。
曉はそれに軽蔑の視線を当てる。
「なんだ、その目は......?」
「この恐ろしい姿は、お嬢様には見せれませんね」
と、罵る。
キグは眉間にしわを寄せるが、直ぐにニヤッと歯を見せる。
「......そういう口を叩けるのも今のうちだ!!」
と言うと、キグは大量の節足を動かして動き始めた。
「速い」
さっきよりも明らかにスピードが上がっている。
彼は壁や天井を高速で這い回りながら曉の周りを囲っていく。
そして、あっという間にキグは曉を囲ってしまった。
「ヒョーウ! 地獄を味わえ!!」
キグは舌をだし、下衆顔を見せつけると、脚の先からまた針を飛ばす。
曉はやはりそれをかわす。
「棘の出る場所なんて直ぐに分かりますよ」
普通なら恐怖に怯えるのだろうが、それでも曉は冷静だ。
彼は気砲を出し、キグの脚の先を切ろうと試みる。
と、その時だ。
暁右の右側から棘が迫ってきた。
しかも、本来出るはずである脚の先からではない。
「!!」
曉は直ぐに気づき右腕でそれを受け止めた。
顔との距離は紙一重であった。
「何と......!」
これが当たれば文句なしの即死である。
曉も流石に目を見開く。
「これならどうだぁ!!」
するとキグは、脚の表面から次々と棘を生やしてきた。
しかもそれが、前後左右と天井の五方向に。
さっきの棘もそれだろう。
「喰らえっ!」
キグが叫ぶと、棘が次々と曉に向けて発射してきた。
「小賢しいですね」
と言いつつ、曉その棘の雨を次々と避けて行った。
そして彼は隙を見つけて何とかその包囲網を抜ける。
「ザルですよ」
曉は余裕の表情を見せている。
その表情が崩れたのは、顔の前に棘が迫ったぐらいである。
しかしキグも負けていない。
彼は猛スピードで再び包囲網を作ったのだ。
「イヒヒ、逃げられないぜ......!」
と、再び雨を降らし、今度は口から光線も吐いてきた。
光線が床にあたると、床は当たった部分が焼け焦げた。
「ほんと、執拗ですね」
「ふん、なに強がってやがる!!」
と、キグが勝ち誇っているような笑顔を見せる。
その後も、曉が包囲網を抜けてはキグがまた作るといういたちごっこが続き、この廊下の壁や床は棘まみれになった。
「イヒヒ......」
キグはまた包囲網を作る。
「悪足掻きはするもんじゃねえな。さっきお前が言ってたじゃあねえか!?」
と、キグは曉を嘲る。
もう自分が勝ったと確信したかのような笑顔である。
「......フフッ」
だが暁は怖がるどころか吹き出す。
「......何がおかしい」
「いやいや、あなた、悪足掻きの意味をご存知ですか?」
と言うと、両手から気砲をチャージし始めた。
すると、彼はその両手を地面に叩きつける。
「範囲気砲、発射」
チャージされた白色のエネルギーは解放され、一気に暁の周りへと広がっていく。
「グワアアア!?」
窓ガラスが一斉に割れていき、キグは脚の一部が千切れ、包囲網が崩れて行った。
「『してもしかたのないことをあせってあれこれと試みること』、これが悪足掻きです。悪足掻きをしているのはむしろ......」
暁はしゃがんだ状態から立ち上がる。
「あなたのほうですよ、キグさん」
と、キグを軽蔑交じりで睨む。
「く、くそ......」
キグは千切れた脚の断面から緑の血を出しながら後退する。
「おーい、曉ー!」
曉が止めを刺しにかかろうとしたとき、キグの奥から女の子の声がした。
そこには、曉に向かって手を振っているメアリーがいる。
「妹様......!」
「......グフフ」
キグの険しい顔が一気に悪どい顔に変わった。
「何と言う運のよさだああああ!! ヒャッハー!!!」
彼はそう叫びながら脚の断面から出る血を飛び散らせながらメアリーへと向かっていく。
「こいつ......!!」
曉が彼の行動を止めるべく、気砲を連射するが、キグは壁や天井を使いうまく避ける。
「こいつを人質にして逃げるうううううう!!」
「ふえ?」
メアリーが固まっている中、キグが勢いよく彼女に手を伸ばした。
そして、彼女を掬い上げるように拳を握った。
「ウヒヒヒ......安心しろ、抵抗しなけりゃ殺しはしねえ」
と、彼はニヤニヤとしながら右腕を見る。
すると、そこに彼女はいなかった。
代わりに、掌や腕にナイフが複数、突き刺さっている。
「ああ......?」
「今のは、セクハラか何か?」
メアリーはキグの後ろに来ていた。
彼女は両手に投げナイフを数個持ち、彼に軽蔑の眼差しを当てている。
「いつの間にそこにいやがる......!」
キグは脚から棘を生やし、メアリーに突き刺そうとする。
すると、メアリーは不敵に笑った。
『
刹那、彼女はその場から前兆もなく消え、同時に彼の脚がバラバラに切り刻まれていった。
「人質にした相手が悪かったね!」
今度はキグの真正面で、ニヤッとキグを嘲笑う。
「お、おのれ~......」
キグは歯軋りをした後、口を開け、光線を放とうとする。
すると、メアリーはナイフを二本、キグの目に向かって投げた。
ナイフは見事にキグの目に突き刺さった。
「うがあ、目、目がああ!!?」
キグは光線をキャンセルし、顔を押さえながらもがき苦しむ。
そこへ曉が左腕をキグの背中に当てる。
「あが......」
キグの動きは止まり、口をガタガタと震えさせる。
「妹様の世界凍結は、自分意外の物の
「な、なあ、助けてくれよ......許してくれよ......」
キグは声を震えさせながら訴えるが、この天人執事はミカに刃向かうものには非情である。
「悪党の命乞いは聞こえませんね......」
と、憎しみがたっぷり詰まったような低い声で言うと、左腕から気砲を発した。
「ブゲロッ!!」
気砲はキグの胸を裂き、天井に当たった。
キグは口を大きく開けたままどすんと倒れた。
「妹様、怪我はありませんか?」
翼をしまい、天獣手をもとに戻し、メアリーに様子を伺う。
「うん、大丈夫」
そう言うと、彼女はキグの腕にめり込んでいるナイフを抜き始める。
「妹様、もう一つの集団は倒したのですか?」
「うん、雑魚だったけど」
彼女はナイフを抜き終えると、
「じゃあ曉、片づけはよろしく!」
と、言って歩き去る。
「かしこまりました」
と、暁は一礼し、早速キグらの後始末を始めた。
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