第四十九話 フラグ

 1区 ディフェンサーズ本部 会長室


 数人の銃を持った護衛に守られながら会長席に座るのは、月詠寿之つくよみひさゆき

 このディフェンサーズの設立者、月詠万平つくよみまんぺいの息子である。

 彼は、じっと座りながらP市の調査結果を待っている。

 すると、ドアをノックする音がした。


 「入れ」


 寿之がそういうと、麗美がドアを開ける。

 

 「会長......」


 麗美はドアを閉めると、会長の前に姿勢を揃えて立つ。

 彼女は彼の荘厳な雰囲気に気圧されながらも、口を開く。


 「調査の結果を報告いたします」

 「言え」


 寿之は低い声で静かに言う。


 「P市南部の廃墟にて、クローバーの構成員数十名および幹部2人を目撃いたしました。内、構成員一人はその場で討ち、その後幹部2人による攻撃で要が負傷し、現在病院にて療養中です」

 「そうか、2人ともよく無事だったな」


 と、寿之は麗美や要の生還を称える。


 「なるほど......やつらの拠点であることには間違いないな」


 すると、寿之はメガネの位置を整え、机に両肘をつけた。


 「P市南部にいるクローバーを殲滅させる。『P市南部攻略作戦』だ......」


 ※ ※ ※


 翌日。


 「あーあ、また大規模作戦か......」


 アマツはその作戦についての資料を見て、体が重たくなる。

 『クローバー殲滅戦』が行われたのは、つい二週間前のことだ。

 なのに、もう3日後に次の戦いに出ないといけないのかと思う度に、溜息をつく。

 

 「勘弁してくれよ、まだ疲れが取れてないのに......」


 彼はそう嘆く。

 彼はさっき、その作戦についての集会が6区の支部にて開かれた集会に出席した。

 その作戦の内容は『P市南部の解放』である。ディフェンサーズの戦力は、No.13、No.12、No.11、No.6、No.5、No.2、上級戦士43名、下級戦士254名、総勢303名と、前代未聞の大規模な構成である。


 さらに、その間、都市部の防衛が手薄になるので、特に9区の『エネミー地下収容所』の警戒を強める必要がある。

 この施設はディフェンサーズが運営しており、名前の通り、エネミーを地下に収容する施設で、エネミーの研究や、言葉が話せるエネミーは、暴力的手段で尋問をする。

 この大きな戦力をP市に向けている最中にこの施設が攻撃され、収容されているエネミーを放出されては、人類に大きな損害が出るため、施設内にディフェンサーズを投入し、警備させることにした。

 ここでは、No.16、No.8、No.7、上級戦士19名、下級戦士34名、総勢56名がこの警備を務める。


 「はぁ、しかし、不幸中の幸いというやつか」


 アマツが遂行する任務は、P市南部攻略作戦ではなく、地下収容所警備の方である

 うまくいけば一切戦わず、疲労が溜まらずに終わる可能性だってある。


 「というか、そもそもあそこを警備する必要はないんじゃないか?」


 アマツは疑問に思う。

 なぜなら、収容所の職員、特に尋問官は、どれも好戦的で戦闘力が高く、所長自身も、門番である恭介に匹敵するほどの能力があるとされている。

 いくら重要な施設でも、そこから戦力を増強するというのはさすがにやりすぎじゃないのかという気がする。


 (いやしかし、戦力が多いことに越したことはない......よな)


 アマツは自問自答して納得した。

 そして、机に資料をポイッと放ると、その机の前にドカっと座り込む。


 「おー、明日は何も起きないといいけどなぁ......」


 と、アマツは収容所が襲撃されるようなことがないように願う。


 ......しかし、これがいわゆる『フラグ』というのであろうか。

 アマツの願いは清々しいくらいに砕け散っていくのであった。

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