第3話
「びっくりした! かなり、姿が変わっているんだもん! 昔は可愛かったけど、今は美人って感じな? でも、昔の面影があったから僕はすぐに分かったよ!」
「そ、そんな……美人でもないよ……。しょ、祥吾くんは……昔と何一つ変わらないね……」
そう全く変わっていない。身長も声も中身も……。
もう私の同級生は、皆、声変わりやいわゆる反抗期も終わってもうすぐ社会的にも大人になるという年頃だ。
なのに、彼はあのときの、私の脳内に思い浮かぶ姿を保っていた。
「ねぇ? 祥吾くん、なんで君は……」
私が最後までいう前に手で静止する。
「言いたいことは分かるよ。誰だって聞きたくなることだからね……。
そんなに遠慮しながら聞かなくてもいいよ」
彼は立ち上がり、空を見上げながら語った。
「家族旅行中に隕石がぶつかって、僕だけ宇宙船から放り出されたんだ。
そしてこの星にたどり着いた。
そのとき僕は死んでいたのだけれど、生き返ることができたんだ」
「どうして……?」
「この星が命をくれたんだよ。この星には意思があり、感情がある。
人間と同じさ。地球にだって意思はある。僕たちが感じ取れないだけなんだよ。
この星は寂しがり屋でね。他の惑星ともかけ離れているし、人間という子どもを飼いならして楽しそうにしている地球にその姿をまざまざと見せつけられて、人間と一緒にいたいと思うようになったんだ。
そんなとき僕がこの星に来た。
こいつは心から喜んだ。しかし、僕が死んでいることを知って悲しんでくれた。
そんな僕にこいつは命をくれたんだ。
自分の命を……。
だから、僕がこいつから離れてしまうと、僕はもちろんこいつも死んでしまう」
「それって地球に帰れないってこと?」
私の問いかけに彼は「うん」と頷く。
「だから君とも二度と会えないって思ってた。
ずっと会いたかったけど、僕の頭に残っている君の面影を眺めているだけで満足してたんだ。
でも、実際に君と会うことができた。
こんなに嬉しいことはない」
彼は私を見下ろした、目に涙を浮かばせて。
「私も……祥吾くんが死んじゃったと思って泣いた。二度と会えないと思って大泣きした……。
でも、こうやって会えて嬉しいよ。
生きているって知って嬉しいよ」
「そうなんだ……」
彼は私に抱き着いた。昔と同じように耳元で囁いた。
「好きだ……」
あのときと同じように私の心臓が高鳴った。
再会したから余計に震えている。
「ありがとう……嬉しいよ」
初恋の子と両想いだったんだ。
嬉しいに決まっている。
でも、でも……。
「ありがとう……。でも、私は今他に好きな人がいるんだ……」
「え……?」
しばしの沈黙。時間がいつもより遅く感じた。
彼は自分の心臓の部分を手で押さえて、俯いた。
ショックだっただろう。
嘘でもついたらよかったのかな?
昔は好きだったという事実を伝えようかな?
でも、嘘ついたって見破られるだろうし、今は何を言ったって彼の耳に届かないかもな……。
彼の落ち込みをどうしようかと悩んでいると、笑い声が聞こえた。
顔を上げると、彼は天に向かって笑っていた。
「そうか……。それは良かった……」
「良かった? なんで?」
「だって、君を守ってくれる人ができたってことじゃないか。
昔は僕が守ろうとしたけど、離れてしまって守ることができなくなってしまった。
でも、君には、今、僕の代わりに守ってくれる人がいる。
僕にとってそんなに喜ばしいことはない」
彼は私に背を向けてそう言った。
「実はね……。この星はもうすぐなくなっちゃうんだ。
寿命ってやつだね。
もうすぐ本当に君と会えなくなる。
僕だって死ぬのは怖いよ。一度死んだからって慣れるものじゃない。
だけど、本来死んでいる僕は十年以上長く生き長らえることができた。
この星は僕に幸福をもたらしてくれたんだ。
だから、もしかしたら君がこの星に来たのも、この星が僕の気持ちを知って、君をめぐり合わせるために仕組んだのかもね……。
それだったら、君にとって本当に迷惑な話だよね。
ここに呼んじゃってごめんね。
……好きになってごめんね」
彼は泣き笑いの表情で言った。
その表情は昔と何一つ変わらずきれいだった。
整った顔立ちの彼の表情はどれもきれいに思えるが、このときの表情は特に儚く美しかった……。
「そんなことないよ! 私もあなたに会えてよかった! あなたは私の初恋の人なの!
ドロケイのときだって、私を守ってくれた!
あなたが消えても、私の心には永遠にいる。
だから……、だから……」
「もういいよ……」
私の溢れる涙を拭って彼は言った。
「ありがとう。僕のことを励ましてくれて……。
それだけで僕は嬉しいよ」
彼は空に向かって指をさした。
「ほら迎えが来たよ」
見上げると、地球から救助船が来ていた。
さっきまで早く来ないかなと願っていたのに、今は来るタイミングが早いように感じた。
「じゃあね、愛してるよ」
視線を下げると彼の姿はどこにもなかった。
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