7日目 夜 湊都の気持ち

「夜想?」


「僕だよ、八津芽」


「!? どうして!」


 湊都の声色が変わった。


「聞いたよ、君達は付き合っていないんだってね」


 バレたか。おそらくマホルさんが教えたんだろう。悪気無く。


「でも私にとって夜想は大事な人って事は変わらない!」


「そうか。だが『婚約者がいる良家のお嬢様が庶民の男の家に泊る』。こんな事が村中に知られたらどうするんだ? 村中から好奇の目で見られ、目立ってしょうがない。君とそこの男だけじゃない。家族も好奇の目でみられる」


 それは嫌だな。俺と湊都はともかく、家族までそんな目で見られるのは……。


「いいじゃない。泊まる事は事実なんだから」


「村中から何か言われても君は何も気にしないのか?」


「ええ。もちろん夜想もそう思っているわ。だってそうじゃなければ私を泊りに誘う訳ないもの。そうでしょ」


「あ、ああ」


 まさか「お前が殺されないようにする為」なんていえる訳ないからな。


「君は僕のような男と結婚するのは嫌なのか? 金もある。学歴もある。家柄も良し。文句はないと想うぞ」


 うわっ! 嫌な言い方。自慢かよ。


「もちろん。アンタとなんて絶対結婚しない。生物解剖が趣味の夫なんて私は持ちたくない」


 なんか賭針さん以外の人にも失礼な言い方だな。


「だったらどんな趣味を持った夫がいいんだ?」


「そうね……文学好きな人だったらいいわね」


「文学か。苦手な分野だ」


「残念ね。もし好きだったら考えても良かったけど」


「……」


 賭針さんは黙ってしまった。まさかの返答にショック受けているのか?


「いつまでそこにいるの? 夜想はともかく、アンタがいたらいつまで経っても上がれないじゃない」


「ちょ! 湊都!?」


 何言っているんだ!?


「君はこの男に裸を見せてもいいの?」


「アンタに見られるよりはマシよ」


「……そうか」


 賭針さんはそう言って風呂場から出て行き、玄関へ行った。


「賭針さん?」


 洗面所の扉を閉めて俺はその後を追った。帰るなら玄関の鍵もかけないといけないからな。


 賭針さんは立ちながら靴を履いた。


「ちょっと外に出てもらっていいかな。話したい事があるんだ」


「……いいですけど」


 俺も靴を履いて一緒に外に出た。


 玄関の戸を閉めるとさらに夜風が冷たく感じた。


 一体何を話すつもりだ?

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