第16話資金調達に出発
愛菜、いや七海が俺たちの仲間に加わってから一週間が経った。
「ベッドじゃなきゃ嫌ですわ!」「布団が汚くて臭いですわ!」「暗いの怖いですわ……オレンジ色の電球はありませんの?」「ぬいぐるみがほしいですわ」「朝日を浴びたいですわ」「カップラーメンなんて低俗なもの食べたくないですわ!フレンチトーストとか作れませんの?」「カップラーメンおいしいですわ」「暇ですわ」「洗濯機ってどうやって使うんですの?」「お風呂に入りたいですわ」「暇ですわ」――。
最初のころはずっと文句を言っていたが、一週間も経つとこの環境にも慣れてきたのか今はボロボロのソファーにぐだーっと横になっている。
「おなかすきましたわー」
短いスカートを履きながら脚をバタつかせている七海。パンツが見えてしまっているが、俺も少し慣れてきたのかあまり何か思うこともなくなった。きっと妹がいる奴もこういう気持ちなのだろう。それでも目を逸らしてしまうが。
「もう昼時だからな。上の部屋から何か持ってくるよ」
「お願いしますわー」
寝転がりながら手をフリフリして俺を見送る七海。さすがお嬢様と言った感じで、自分から動くことはまずない。まぁ別にいいのだが。
上の部屋に行き、カップラーメンが入っている棚を開ける。
「……ん?」
棚の中にどれだけ腕を突っ込んでみても手には何も当たらない。まさかと思い覗いてみたが、やはり棚の中には何も入っていなかった。つい最近まではまだ数があったはずだが……。
「カップラーメンがないんだけど何か知ってる人いるか?」
「あー、それならわたくしが昨日食べちゃいましたわよー」
下の部屋に戻り訊いてみると、七海が悪気もなく言ってきた。
「おいマジか……もうないんだけど」
「昨日の夜小腹がすいてしまいまして……」
小腹がすくって……今俺たちはサバイバル生活をしているようなものなんだぞ……。なるべく最低限の食事で生活していきたいんだが……。
「日花里、何かカップラーメン以外に食べ物はないか?」
「うーん、缶詰とかあったかなー」
ふわふわと浮きながら答える日花里。まぁ中学生が家の食料状況を全て把握できてるわけないか。
「そんな悲壮な顔しなくてもただ買いに行けばいいじゃないですの」
「そう簡単に言うなよ。俺たちはいわば指名手配犯なんだぞ」
「それにお金もないしねー」
七海の提案を二人がかりで潰そうとしたが、七海はきょとんとした顔で平然と答えた。
「お金ならありますわよ?」
「え?」
「だってわたくし、カード持ってますもの。カードさえ使えれば何でも買えますし、お金も引き出せますわ」
……なるほど。その手があったか。買いに行くなんて考えてもいなかった。
「でもおそらくクレジット機能は停止されていると思いますわ。キャッシュもどこで引き出されたかばれてしまいそうですし……」
「いや、キャッシュ機能は使いようだな。逆にどこで引き出したか知られた方が警察を欺ける。遠い場所に行けばそれだけでこの場所が警察の捜査区域から外れるだろうからな」
「でもそんな作戦お父様には通用しないと思いますわよ」
「それでもいいんだ。結局向こうは俺たちの居場所を絞り切れないからな」
遅かれ早かれ食料調達は必ず行き着く問題だ。なら動いてみるしかない。
「よし、じゃあ行ってみるか」
「そうですわね!久しぶりに外の空気も吸いたいですわ!」
「聡志も七海もなんかやる気だねー」
やる気があるんじゃない。ただただ昨日から何も食べていなくて腹が減っているだけだ。もっとも七海は久しぶりに外に行けることがうれしいようだが。
逃げ切るにしても捕まるにしても、とりあえず生きなければいけない。そのためには飯を食わなきゃならないんだ。
生きるために必死になる。それは当たり前の行動だ。
だが日花里を前にしてそれを口に出すことはできなかった。
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