第5話下水道に侵入

「よし、準備完了だな」

 真城家の裏。大量のドラム缶やゴミに囲まれていて外からは普通には見えない場所に一番近いマンホールはあった。マンホールを近くに捨てられていたバールでこじ開け、部屋に置いてあった送風機を家から伸ばし、マンホールの中に風を送る。これで多少は下水道内も安全になったはずだ。

 マンホールを開けた下には底が見えないハシゴが設置されており、ここを伝えば下水道に下りれるのだろう。

「じゃあ先下りて様子見てくるね。何かあったらすぐ言うから」

 そう言うと日花里はハシゴを使わずマンホールの下にふわふわと落ちていき、あっという間に見えなくなった。

 しばらく待ったが声は何もない。これは問題なしということなのだろう。

 バールをこれまた捨てられていた布製の竹刀袋に入れて下水道に入る。ハシゴに上っているせいで足元が不安定だが、なんとかマンホールを閉めてからハシゴを下りることができた。さっきまで底が見えなかったが、それはただ暗かったからだけのようですぐに日花里の姿が見えてくる。

「案外簡単に侵入できるものなんだな、下水道って」

 ハシゴを完全に下り、地に足をつける。足元に泥が絡みつく感触がして気持ち悪い。

「行くぞ、日花里」

 暗闇の中でも幽霊だからか日花里の姿だけはくっきりと見えている。声をかけるが、日花里はうずくまったまま動こうとしない。

「どうした?ケガした……ってわけじゃないよな、幽霊だし」

 正面に回ると、日花里は鼻を抑えて涙目をしていた。

「うぅ……くちゃい……」

 どうやらただ臭いにやられていただけらしい。

「幽霊も臭いはわかるんだな」

「そりゃ音も聞こえるんだから臭いだってわかるよ……まぁ我慢できるけど」

 日花里がようやく立ち上がったので懐中電灯を点ける。すると下水道の中がはっきりと見えるようになった。

 下水道内は一見薄汚れた普通の地下道のようにも思えるが底には汚らしい色をした水が溜まっている。そこら中にカビが生えており、ゴキブリやネズミ、色々な害獣が目に入った。

 こうして見えるようになると一気に色々な刺激を感じるようになる。日花里も言っていたが、まず何より臭い。そしてゴミ箱の中が楽園に感じるほど汚い。全てがそれに尽きる。

 でも日花里の言う通り我慢するしかない。これが一番安全な方法なのだから。

「いつまでも文句言っててもしょうがないよね。ナビゲートよろしく、聡志」

 下水道の地図を照らし、道を確かめる。

「道も複雑じゃないしこれならすぐたどり着けるな。こっちだ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る