第4話作戦に忠実
「で、作戦の詳細なんだけど」
カップラーメンにお湯を淹れ終えると、日花里はニコニコしながら近寄ってきた。
「まず向かうのは璃咲邸の近く。ここから歩いて三十分くらいなんだけど、そこで学校から帰宅中の璃咲愛菜ちゃんを誘拐して、この家まで連れてくるの!」
「またずいぶんと大雑把な作戦だな……」
「そこら辺はリサーチ済みだから大丈夫!璃咲邸の近くには茂みの多い公園があるんだ。昔まだ生きていた頃に行ったことがあるんだけど、滅多に人も通らないしいい誘拐スポットだよ」
誘拐スポットってまた物騒な……。だがまだ穴はある。
「問題はそこに行くことと帰ることだろ?あんまり派手には動けないんだから誘拐した状態でこの家に戻ってくるなんてほぼ無理だと思うけど」
指摘すると、日花里は待ってましたと言わんばかりの顔でニヤつく。
「もちろん普通に行ったらほぼゲームオーバーだろうね。じゃあここで問題です!今わたしたちがいるのはどこでしょうか!?」
日花里の高すぎるテンションについていけない俺がいるが、こうでもしないとやっていけないのだろう。そのテンションに乗ることはできないが、付き合うことにする。
「えーと……家?」
「ち、がーーーーう!ここは地下でしょ!?」
日花里のご所望の返答ではなかったようだが、不思議と嬉しそうだ。
「日陰者のわたしたちが地上を使うなんて無理!だったら、地下を最大限に使わせてもらおう!」
そう言うと、日花里は勢いよく本棚をビシッと指さした。これを取れということなのだろう。
その本は表紙も背表紙もないがやけに分厚い。開いてみると、どうやらこの鴫目市(しぎめし)の地図のようだが、少し内容がおかしい。
「これは……下水道の地図?」
「そう!その通り!」
日花里は今までで一番うれしそうな顔をして今度は俺を指さした。
「わたしたちはこれから下水道を通って移動します!」
下水道……案外悪くないかもしれない。何より人に見つからないで移動できるのがでかい。ただ案としてはいいが、現実味があるわけではない。
「それなら問題点が何個かある。まずマンホールを開けるのって確か専用の器具が必要なんだよ。それに下水道内の酸素濃度とかも気になるし、何より下水道から出る時に内側からマンホールを開けることはできないだろ?」
現実を見た発言をしたつもりだったが、日花里の笑みは崩れない。それどころか勝ち誇った顔をしていて少し腹が立つ。
「そこら辺も問題なし。鴫目市のマンホールはけっこう古いものらしくてバールとかで開けられるらしいよ。だから内側からも力任せで開けられるんだって。酸素濃度もこの部屋にある送風機で換気すれば百パーセント安全とは言えないけど何とかなるでしょ。この近くにあるマンホールもこの家の裏の外から死角になる場所にあるし、警察に見つかる心配もあんまりないしね」
「……どこでそんな知識を?」
「この部屋にあるメモ帳に書いてあった!」
下水道の地図に送風機にマンホールの詳細。昔ここに住んでいた人の職種がそういったものならいいが、おそらくそういう目的での使用はしていなかったのだろう。……怖い怖い。
「ってことで、さっそく作戦開始!がんばろうね、聡志!」
「……ああ」
『聡志』という聞きなれない名前に、一瞬返答が遅れてしまう。
そうだ。今の俺は『積木哲也』ではない。
日花里のために、『真城聡志』になったんだった。
「がんばろうな、日花里」
「うんっ!」
まだ中学生なのに、死んでまで復讐に囚われている日花里。せめてその笑顔だけは守らなければならない。そう思った。
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