第7話

 いた。

 シューがいた。

 だが、シューに向かい合って座る女性がとても不気味で…またしても俺は動けなかった。


「シュバルツ。あの人は?」

 優しい声。母性に溢れた女性、というのは、彼女のような人を示すのだろう。

「ヴァイスには関係ない!」

 声を荒げ、シューが叫ぶ。どうやら、両手両足を縛られているらしい。

「じゃあ…お姉ちゃんが奪っちゃっても良いかしら?」

「ダメ! あいつはあたしのものだから!」

 妖艶な笑み。

 シューの言葉を無視して、女性は俺に近づいてくる。

 扉は閉められ、動く事はないようだ。

 全く。良い加減、不運である。


「あなた、名前は?」

「シュー、帰ろう」

 問いを無視する。残念。答える義理はないんだ。

 女性の横を通り過ぎる。

「…そいつなんかより__」

「そーだ。お前、冷蔵庫のアイス食っただろ? あれ美味かったか? 感想、聞きたい」

 シューの目に見開かれる。良かった。大丈夫だな。

「あとさ…お前、筑前煮とシチューどっちが好き? 今日の夕飯はお前が好きなものにするから」

 背後から、馬鹿でも分かる殺気が漂う。おいおい。すぐ怒る女は対象外なんだ。

「やっぱシチューだよなぁ。普通のガキは筑前煮なんかそこまで好きじゃねぇらしいし」

 肩をすくめる。

「ま、帰ろう。俺は八時間以上寝ないとヤバいから、さ」

 どこかから出た謎のバット。

 左肩に当たったが、まぁ大丈夫だ。

 平然と。淡々と。どうやら、シューを縛ってるのはただの縄らしい。すぐに外れそうだ。

「こ、こ、こ、虎鉄! 血、血がっ」

「んーカレーも良いなぁ。あと、親子丼も」

 一つ目。

「し、死んじゃうよ!」

「大丈夫。こんなのじゃ死なない」

 二つ目。

 背骨に激痛が走った気がした。

「だって、だって!」

「俺は不運すぎて逆に幸運な人間だぜ」

 三つ目。

 足が離れた気がする。多分。

「よし。終わり」

 全部外れた。


 自分の体を見る。どこかを切ったのか、視界が紅かった。

 立ち上がれない。どうやら足が折れてるらしい。

「なんで…なんで私を無視するの!?」

 そういえば、いたなぁこの人。

 振り返ると、顔を真っ赤にした女性が立っていた。

「やっと見てくれた! やっと、私を__」

「すいません。俺の恋路を邪魔しないでください」

 シューに手伝ってもらい立ち上がる。左足が変な方向に折れていた。

「こ、ここここ、恋路!? な、なに言って…」

「文字通りですが? 俺、年上の女性に興味がわかないので。では」

 あー帰れるかな?


 引きずるように歩いていく。途中、逃げ切ったアゼミくんに不審な顔をされた。なぜだろうか。

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