第4話

 最初に入ったのは白い天井。

 あと、四股につけられた重厚な枷。「中世の拷問辞典」的な本に出てきそうだ。

「あー起きたか。先謝ります。サーセン」

 この声。先程の絶対零度の青年か。

 半身を起こし隣を見る。髪を下ろした彼は女性のようで、思わず見惚れてしまうくらい美しい。可愛い、ではなく、美しい。

「H-13…シュバルツが捕まった。あとオレ達、監禁されてます」

 その言葉を聞いた後、静寂が訪れる。

 自分が息を呑んだ音が鮮明に聞こえた。


「……嘘、だろう?」

 裏返った声。

 そりゃあ、嘘だと言いたくなる。恭介さんがいない今、あいつを守らないといけないのは俺なのだから。

 無力で、無能ではあるが……俺がその役割なのに。

 青年はどこかから出したヘアピンで枷を外していた。冷静な声が漏れている。

「本当…で、す……すいません。オレ…よし……ただの人形師なんで」

「人形、師?」

「えぇ……シュバルツ含むH'sは…オレの…とーちゃんの作品です…死にましたけ、ど、っと。外れた!」

 彼の手首、足首は赤くなっていた。痛そうである。

 俺に近づいてくる。思わず下がろうとするが、彼は「逃げないでください」と言い、俺の手枷をいじり出した。

「えーと。おにーさん、あいつらについて…どこまで知ってる? あ、これはシュバルツ……おにーさん曰くシュー…達について、ね」

 聞かれて戸惑う。

 面白いくらい何も知らないのだ、俺は。

 多分、恭介さんは知っていたんだろう。恭介さんとの思い出の大半は、未だに分からない言葉だ。暗号のような、詩のような。

「…ま、いいや。説明して…やるよ。よし。あとは足だけか」

 慣れた様子である。鍵開けに、ではなく、この状況監禁に。

 髪をかき上げながら話し続ける。

「H'sってのは…自動人形のシリーズですね。作者はウチのとーちゃんと、ガキん頃の兄貴……ま、すでに二人とも死にましたけど。で、あれが普通の自動人形…カラクリ人形って言われてますが。それとは違うんです。

 カラクリ人形は、ゼンマイやら歯車やらを使うんですが……H'sは、球体人形そのまんまです」

「そ、それは…おかしいだろう?」

 球体人形は、自分で動けないじゃないか。

 そう言うと彼は楽しそうに笑い、足枷を放り投げた。どうやら終わったらしい。

「おかしい、ねぇ。良かった。おにーさん正常な人だ。あ、オレはアゼミ。話は逃げながらにでも」

 そうだ、逃げないと。


 手を貸してもらい立ち上がる。白い壁とも、白い天井とも、白い床とも、これでおさらば。

 青年、アゼミくんの手は、目と同じくらい冷たかった。

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