第3話

「どーするの?」

 石段に座った俺をシューが見下ろす。

「んー…とりあえず、帰るか?」

「うん! 帰る!」

 俺もシューも、インドア派だ。家の畳が恋しい時間。

 まぁ、一時間程しか出てないが。

 立ち上がり、軽く伸びをする。春になったばかりの陽気が心地よい。


 しかし、右手側からの冷たい視線が、そんな世界を終わらせた。

 そこに立つのは、あの絶対零度の青年。少し長い黒髪をポニーテールのようにしており、青っぽい黒の目でシューを見つめている。

 シューが俺の服を掴んだ。とても強く、服が伸びてしまいそうだ。

 青年がこちらへ近づいて来る。規則的な足音。

 シューを抱き寄せ、いつでも逃げれるよう俺は構えた。いざとなったら大声で叫ぼう。そうしよう。

「…お前がH-13か。逃げ……いや、すでに遅いだろうな」

 エイチ……ジューサン? どういう事だ?

 とりあえず、その事はあとで聞こう。

「知り合いか?」

「違う。違う、けど……違うけど…」

 どうやら、いつものように交友関係について話してくれないようだ。

 シューは不安と絶望が半々の目で彼を見ている。彼は絶対零度の目をシューに向けている。

「…敵性反応。おにーさん。そいつ連れて逃げて」

 どういう事だ、と声にしようとした瞬間。


 風船が破裂する音。続いて、青年の服が裂ける視覚映像。その下から見えた右腕は、陶器の色をしていた。

「遅かった。しょうがない……撤退する」

 風のような速さで、彼は俺の腕を掴む。反対の手でシューを抱きかかえたらしく、俺の手から温かみが消えた。

「少し黙って。少し寝てろ」

 それが、最後の情報だった。

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