第2話

 高級住宅が建ち並ぶ住宅街の隅。そのポツンと建った廃墟のような神社に足を踏み入れた。

 長い石の階段を、隣のシューを気にしつつ登り切る。急な段差だからか、手を繋いだままでは少々登りにくいらしい。

 そっと手を離すと、不思議そうに俺を見つめる。そのまま見続けていたら、嬉しそうに笑って駆け出した。

「シュー、危ないぞぉ……全く」

 なんで、あんなに早く階段を上れるのか。

 俺は階段が嫌いだ。ちょっとした衝撃ですぐ落ちそうになる。しかし、トラウマになりそうなものは一つもなかった。俺の記憶が正しければ。

「虎鉄! 急がないと怒られるんじゃないの?」

「………ちょっと待って」

 はぁ。嫌な場所、嫌な状況だ。


 #*#*#*


 鳥居をくぐると、賽銭箱に背の低い男性が腰を下ろしていた。死んだ魚のような目で眼鏡を拭いている。

「…大丈夫な、人?」

 小声の問いかけに肩をすくめる。まず、人であるか否かが不安だ。

 白と黒が半々程の髪の毛。病的に白い肌。使い古された白衣が、いかにも怪しい人であると物語っていた。


 どうやらこちらに気づいたようだ。

 賽銭箱から下り、マイペースにこちらへ歩いてくる。シューが俺の後ろに隠れて、不安そうに顔を出す。

「貴様…ではなく、貴方がイツさんの友人、ですか?」

 か細い声だ。今にも倒れそうな人の声、と表現すべきか。

「正確には、イツさんの友人の甥です」

「興味ない…ではなく、そうですか」

 この人、大丈夫か?

 シューがクイクイと俺の服を引っ張る。

「ねぇ、イツさんって?」

「あー……恭介さんの友人。間違っても俺の友人じゃない」

「へぇ…」

 しかし、壱さんは俺の事を友人だと言う。迷惑な話だ。あんな変態野郎が友人なわけないだろう。

 男性は眼鏡をかけ直し、白衣の胸ポケットから黄ばんだルーズリーフを取り出す。コーヒーをこぼしたような染みがついていた。

「…これを届けろ、と。怪奇についてと、恭介という人物の失踪について、です」

 万年筆のような、細いペンで書かれたのだろう。大和撫子が書きそうな細く繊細な字が、その紙を埋めていた。

「あと、よく分か…りませんが、シュバルツによろしくと」

 紙から男性に視線を移すが、彼は仕事は終わったというように石段を下りていく。

 俺も階段を駆け下りたが、すでに男性はいなくなっていた。

 あと、俺は階段を上るのは無理でも、下りるのはいけるようだ。なぜだ。

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