駄作。あるいは仮の絶望
宇曽井 誠
始まりに見るのは黒と白
第1話
祖父に貰った趣味に合わない指輪が、キラリと光った__気がする。
俺はため息を吐くと、右手の人差し指にそれをはめてみる。小さな花が彫られた女性的な金の指輪であるため、ゴツい俺の手には面白いくらい似合っていなかった。
「へぇ。
肩を叩かれ背後を見ると、藤色の左目が視界に写る。
恥ずかしいので指輪を外そうとしたが、その前に手を取られてしまう。
「こうやったらさぁ、あれじゃね? あれ。えーと……中世の騎士がお姫様の手にキスするやつ」
「や、やめろよ! お、おおおお、お、お、俺は男だぞ!?」
「しーらね」
柔らかい唇が俺の手に触れる。
怒りに身を任せ殴りかかろうとするが、スルリと恭介さんは逃げてしまった。
今は懐かしい、古きよき思い出___
#*#*#*
振り返って安心する。
離れた手を繋ぎ直して、俺はシューと人ごみをかき分けた。
小さく温かい手だ。いつも、俺より温かい。まさしく人間カイロ__いや、彼女は人間ではなかった。
「虎鉄、虎鉄。あたしははぐれたりしないよ?」
「俺が心配なだけだ」
人間ではない、と知っていても、その行動自体は十にも満たない少女そのものだ。目を離したすきに消えてしまいそうで不安になる。
まるで、あの日の恭介さんみたいに。
「…虎鉄? 大丈夫?」
手を握られる力が強くなる。いつの間にか俺の前にいたシューが、黒い瞳で俺を見上げていた。
いけない。俺も一応は大人なんだ……心配させてはいけない。そう、いけない。
笑みを作って大丈夫と答える。シューは向日葵のような笑顔を浮かべて、俺から手を離した。どんどん先に進んでいく。
「シュー、危ないから手を離すな……あっ、すいません…シュー!」
シューを抱き上げて道の端に避ける。さっき肩がぶつかった青年……なんだ、あいつは。絶対零度という言葉は彼のために作られたのでは、と思いたくなるくらい、雰囲気が冷たかった。
背筋に虫酸が走っている。心臓が分かりやすい程自己主張をしている。
「…虎鉄?」
「い、いや、大丈夫…大丈夫だから、安心しろ」
声が震えている。
シューを地面に下ろし、手を繋ぐ。
深呼吸を何度しても、俺の心から恐怖の二文字はなかなか消えなかった。
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