3


「先生、マジ勘弁して」


 と音を上げたのはレンだった。音を上げる前にリックは倒れ、ジョーに至っては模擬剣が杖代わりである。


「鬼教官と評価されている以上、張り切って稽古を重ねないとな」


 ニヤリと笑った。


「いや、ちが、先生! それはリックが――」


「同意した声が最低二人は聞こえたが?」


 ささっと、周囲が遠のく。同期の少年兵達が距離を置いた。


「お前ら裏切り者!!」


 レンが叫ぶ。


「なんだレン、まだ余裕あるじゃないか? 追加で模擬戦行くか?」


「ひぃぃぃ?」


「ジョーは休憩してろ、すぐ次だ」


「えーー」


「なんだ元気そうだな、安心した。フルメニューでいくぞ」


「えーーーー?!」


「それから」


 と周囲を見渡して、カエデは小さく笑んだ。


「みんな、まだ余力ありそうで安心した。基本メニュー10セットやっておけ。その後模擬戦各自行くぞ」


「鬼ーーーーーーーー!」


 心痛な叫びがシンクロするのがまた心地良い。


 と、そこに二人の女性が稽古場に顔を出す。少年兵達は一斉に最敬礼をした。

 一人はカエデの姉であるカナデ。黒髪を後ろで無造作に束ねているが、どこかしら品がある。帯剣していない事から、か弱き乙女と勘違いされているが、彼女はカエデ以上に恐ろしい事を少年兵達は知っていた。彼女は武器が不要なのだ。否――その徒手空拳こそが最大の武器と言える。生半可な武器なら叩き割る、そんな実力をもっていた。


「やってるねぇ。お姉ちゃんもまぜて」


 にぱっと笑うが、少年兵の誰もが勘弁してくれ、と思う。カエデはまだいい。彼は少年兵の成長を心から願っている。でもカナデの方は、純粋に戦闘狂なのだ。1週間ベッドとお友達になるのは勘弁して欲しいというのが、少年兵共通の想いだった。熟練の騎士ですら避けて通る乙女、それがカナデだった。


 そしてもう一人こそ、少年兵が最敬礼する理由――公国第三公女セレスが小さく微笑んでいた。



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