第11話 再会就職

 「おっちゃん!俺や、俺や お久し振り!」

コンビニのレジで声を掛けて来たのは英であった。

「おうおう、英さんかあ、ほんま、久し振りやあ」

「おっちゃん、あれから全然歌いに来んので心配しとったんよ」

「そうか そうか ありがとね」

「元気そうやな」

コンビニの隅の休憩コーナーで話が弾む。

その結果

 英の仕事を手伝う事になった。

人間どこでどのような展開に遭遇するか

ほんとにわからんものだ。


あの時急におむすびが食べたくならなければ

再会はなかったのである。

あの店での1曲の歌が縁となった。


 英の仕事は夜の勤務である。

と言っても水商売ではない。

深夜の搬送、遺体の搬送。

寝台車の運転手である。


その助手が急に辞めて困っていた英が

偶然バッタリ将次に再会したという次第だ。


白衣を着て助手席に座り、病院に向かう。

検視の終わったご遺体を葬儀社とか

自宅に送る仕事だ。


深夜1時とか2時は車の交通量もめっきり減って

スイスイ走れる。

昼間とは全く異なる世界だ。


「将さん、慣れるまでは辛抱してな。

 やめんといてな」

運転しながら英が話すのを静かに聴いて

うなずく将次であった。


・・自分にはお似合いの仕事や・・。

将次はそう思った。


誰もがやりたがらない仕事であるが

この世での務めを終えたご遺体を

この世での最後の場所にお送りするのは

悪くない。


「英くん、俺、頑張ってみるわ」

「そうや、そうや、がんば!がんば!」

器用に運転しながら英が励ましてくれる。


 向こう岸にネオン街が見える。

川の向こうの華やかさ

こちら岸の静けさ。

両極端の街を寝台車が駆け抜けて行く。

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