第9話 刀

 不遇の子供時代を過ごした者は

いろんなところに迷い込む。


余計なエネルギーを浪費する。


いろんな所に迷い込んで

落ち込んで這い上がることを繰り返す。


成功をめざせばめざすほど

矛盾が発生してくる。


その内に心をやられる。


少し良くなってきても、何かの障害が出てきて

心を壊されてしまう。


立ち直っても次の嵐がやってくる。


不遇者は、救われない。


成功体験者の中にはそんな環境でも

やり抜いた者がいるが

ごく少数である。


殆どは自滅する。


心と身体の働き具合が

どこかアンバランスなのだ。


迷い込んだ先で、はるか彼方の太陽を仰ぎ

ため息をつきながら、這い上がる。


そんな繰り返し人生であった。


そんな自分が父親と同じように刀を振る。


「おまえさんの先祖は、侍じゃわ

それもかなり強い!

上の方の人じゃ」


若い頃に占ってもらった時のおばさんの声が聞こえる。


自分は、泥酔して刀をふるような愚か者には

絶対にならん!!


その戒めは、今も守られている。


それがこの男の最初で最後の矜持である。


どの世界に迷い込んでも

自分には刀がある。


刀は自分を裏切らない。

自分も刀を裏切るまい。


いつもそう考えて生きて来た。

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