第5話 迷い込んだ世界

 生きてた頃は、死んでもいいやとよく考えて

死んだらおばあちゃんや、お袋に又会えると

単純に考えたりしていた。


この世界に来てわかったが、それは正解ではなかった。

知ってる人には誰にも会えない。


なんでも、実際のあの世は、まだまだ先にあるらしく

自分達はその入り口に収容されているだけの存在らしい。


 あの世に旅立つ日はやがてやって来た。


 実感の乏しい足なのに、歩いていると

やけに足の裏が痛む。


突き刺すような痛みに耐えながら、暗がりを歩く。


 やがて河原のような所に出た。

ものすごい人、人、人。


 皆うつろな目をして、猫背である。


生きていた頃の服装のまま痩せこけて

まるで、ゾンビ!そう、ゾンビの群れ。


大集団で歩く。


ただただ、前の人について歩くだけである。


遠くに何か山のような塊が感じられるが

何か、よく見えない。


時々上空をセスナのような飛行物体が通り過ぎる。


「あれはな、我々のように歩かなくても済む

 特別な人間よ」

誰かがそう呟いたのが聞こえた。


生きていた間に徳を積み、人間社会に貢献した者は

あのようにして一気にあの世に運び込まれる。

歩かなくても良いのだ。


ああ、死んでも尚、差別を受けるのか・・・・。


何やらやり切れない思いが身体を駆巡る。


しかし、生きてた頃も別に楽しい人生でもなかったし

生活していく苦労は並大抵ではなかった。


 まあ、痛いことは痛いが、皆と同じように歩いていたら

その内どこかに着くんだろう。なるようななる。

どうせ死んだんだから、2度は死なない。


「おい、おい、お前だ、お前、背中を見せろ!」

前の方から飛んできた警察官のような雰囲気の男が

乱暴に背中を触る。

「やっぱりなあ、おかしいと思ったんだ。

 識別番号相違だ!ケタが間違ってる」


何のことやらさっぱりわからない。


 何でも自分の識別番号は、9038111らしい。

連行されるべき者の番号は、0903811だそうだ。

よく似ているが、09038111は、女性番号らしい。

要するに間違われていたのだ。

「ええっ!間違い?」

そう思った瞬間に意識がなくなった。


漆黒の闇の中を猛スピードで走りぬけた・・・・。


 気がつくと、砂浜であった。

小さなカニが、目の前を横切る。


こちらに何の思いもないのに、必死でハサミを交差させながら

自分の前を横切っている。






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