第3話 地獄の1丁目
確かに死んだと思った。
奈落の底に引きずりこまれて・・・。
真っ暗な井戸の底のような所で気がついた。
周りに人の気配を感じるが、近づいて来る様子はない。
少なくとも5,6人が自分を見ている。
左の腰骨の居合刀を探るが、無い・・・。
不安である。丸腰である。
視力が弱い故、闇には強いと思っていたがそうでもない。
不安に押しつぶされそうだ。
「どこから来なすった?」
ドスの効いた男の声が耳元で聞こえた。
何だ、すぐ傍にいるんじゃないか。
「何処からと言われても・・・・」
「そうじゃろう、みな来た時は、そう言う」
「はあ?」
「まあ、しばらくは慣れるまでジッとしてるんだな」
「ここは、何処?」
「ここは、地獄の1丁目 生きている頃、聞いたことないか?」
「はあ?」
「本物の地獄の手前の、まあ言ってみれば、待合所みたいな所よ」
「俺は、死んだのか?」
「そうさ、死んだからここへ来たのさ」
「俺は」
「やめとけ、いろいろ考えるのは。虚しいだけだ」
「・・・・・・」
「慣れるのが大事じゃ。なれにゃいかん」
「・・・・・」
「一度死んだら二度とは死なん。まあ腹を据えて自分自身を見直す事や」
薄ぼんやりと見える男の顔は、精悍である。
どこかであったことのある顔だが思い出せない。
とりあえず危害を加えられる恐れはなさそうである。
あと5人ほどの人が居るようだが無言である。
とりあえず隅を探す。壁を求める。
闇の中を手探りで壁を探し、背中に壁を感じる所でもたれた。
記憶をたどろうとするが、うまく思い出せない。
・・・死んだら、こんな所にくるんや・・・・。
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