第6話 思わぬ刺客

 影郁による週に1度の勧誘を無事に回避した私は、普段と同じように深夜までゲームを楽しんだ。


 次の日、いつものように私は兄に起こされた。今日も普段通りの一日が始まる。朝ご飯を食べて、支度をして、学校に行く。で、授業が終わったら帰ってゲームをするんだ。


 まあ、今日は入学式の次の日だから授業はまだないんだけどね。身体測定とか、新入生向けのオリエンテーションとかをやるんじゃないのかな。まあ、こういうのも入学式と一緒。大人しくしていればいつの間にか終わっているものだ。


「いってきます」


 朝食を終え、学校に行く支度を終えた私はそう呟くと家を出た。



 学校に着いた私は、至って真面目に過ごし、身体測定などの、面倒臭いけど参加しなければならない行事のようなものを終えた。そうしたら、いつの間にか放課後になっていた。さあ、帰ろう。


 今日は何のゲームをしようか。久しぶりに生き物を育成するやつをやってみようか。そんなことを考えながら下駄箱で靴を取り出そうとした時、


城島しきしまさん、だよね?」


 背後で私の名前を呼ぶ声がした。誰だろう、と思って振り返ると、短めの髪を下の方で二つに結んでいる女の子が微笑みを浮かべていた。知らない子だ。とりあえず、聞かれたことに答えよう。


「は、はい……」

「私、藤原心希このみっていうんだけど」

「そ、そうですか……」

「同じクラスだよね?」

「えっ……?えっと……。お、覚えてない、です……」


 どうやらこの藤原さんは、私と同じクラスらしい。だが、私は同じクラスの人々と関わらないタイプの人間なので覚えていなかった。というか、なぜ私に話しかけてきたのだろう。


 というか、この藤原さんという人はパッと見だと明るい感じの子だ。毎日自室に引き籠ってゲームをしているような私と気が合うタイプではない。


「そっか。ところでさ、城島さんはこれから帰る感じ?」


 私は怪訝そうに頷いた。これはもしかして、一緒に帰ろうとか言われるフラグ!?


「じゃ、一緒に帰っても良い?」


 や、やっぱりー!フラグ回収キタ━(゚∀゚)━!!……って喜ぶところじゃない。なんで初対面の、しかも気が合わなさそうな女の子から一緒に帰ろうとか言われてるんだ。何この状況。


 しかし、断る理由が見つからない。なんか怪しそうなので止めときますとか言えない。誰とも関わらない派の私にもそれくらいの常識はある。


「い、いいです、けど……」

「ありがと!良かったー」


 藤原さんはにっこりと笑うと、自分の下駄箱からローファーを取り出した。


「じゃ、行こっか」

「は、はい……」



 こうして、なぜか私は藤原さんという人と一緒に帰ることになった。これは一体どういうことだろうか。どうしてこうなった。私の頭はそんな疑問で一杯になっていた。


 私の通う高校の正門の前は1本道になっている。それは高校の最寄り駅へと続く道になっている。私と藤原さんはその右側を並んで歩いていた。


「城島さんって下の名前、何ていうの?」

「か、花帆、です……」

「へえ。可愛いね」

「えっ、あっ、ありがとう……ございます……」


 正直、名前が可愛いとか言われても反応に困る。というか、先程から会話が続かない。藤原さんは色々と私のことを聞いてくれるのだが、私が「そうですね」とか「あっ、はい」みたいな受け答えしかしないので、どうしても話題が途絶えがちになってしまう。でも私にはそういう反応しかできない。


 会話が長く続かないため、何となく気まずい雰囲気になっているのは分かっている。もっと会話が続くように努力した方が良いのだろうか。でも、どうすれば良いのか分からない。


 そんなことを考えていると、また藤原さんが口を開いた。


「……城島さんは、藤原影郁っていう人、知ってるよね?」


 えっ?な、なな、なんで藤原さんがその名前を知っているの!?私は思わず立ち止まってしまった。藤原さんも歩くのを止め、満面の笑みを浮かべた。


「その人、私のお父さんなんだ」

「……!!」


 な、なんだと……!あっ……そういえば苗字が同じ……!!……待てよ。じゃあ、藤原さんが話しかけてきたのって……。自分に代わって魔術の修行をするように説得しろと影郁に頼まれたからなんじゃ……?


 私は直感でそのことに気が付いた。すぐに逃げなければ。


「す、すみませっ……!?」


 慌てて私は「すみません」と言ってその場を離れようとしたが、藤原さんの動きの方が一瞬だけ速かった。私は逃げる前に手首を掴まれてしまった。


「ごめん。逃がさないでってお父さんに言われてるの」


 藤原さんの声は先程より少しだけ低い。恐る恐る表情を窺うと、笑顔は消えていて、真面目な顔をして私のことを見つめていた。


 や、やっぱり……!影郁の奴、自分の娘を使うなんて……!ていうか娘がいたのかよ!しかも、なんで同じ学校で同じ学年で同じクラスなんだよ!!


 いきなりのことで動揺してしまったせいか、私は腕を動かして手を振りほどくという発想が思いつくことができなかった。それに、藤原さんの真剣な目が怖くて、身体が固まってしまったのだ。


「それに、私自身も城島さんとお話してみたいって思ってたの」


 私はお話したくない!一言も話したくない!私は心の中で叫んだが、当然それは藤原さんには聞こえない。


 どうやって抵抗したら良いのか分からずにいる私の様子を見ると、藤原さんは再び笑みを浮かべた。もちろん、私の手首をしっかりと掴んだまま。


「……じゃあ、ちょっとゆっくりお話できるところに行こうか?近くに私の知ってるラーメン屋さんがあるんだ」

「あ、あのっ……!」

「すぐ終わるから、ね?」


 そんな感じで藤原さんに手を引かれながら、私は学校の近くにあるラーメン屋に連れていかれたのであった。

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花びらの歌 茹でたレタス @yude_lettuce

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