第4話 天敵の襲来
入学式は何事もなく終わった。こういう行事は黙ってじっとしていれば、いつの間にか終了しているものだ。ちなみに、私は誰とも関わらない派だから同じクラスになった人々とは一言も話をしていない。友達付き合いとか苦手だし。ぼっちの方が気が楽。
ああ、でも、そういえば誰かに話しかけられたような気がする。誰だっけ?……ああ、そうだ。窓際の席にいた男子。初対面だったから名前は知らない。確かホームルームが終って帰ろうとした時に来たんだよね。
「ねえ、君さ……」
「……え、ええっ?」
「いや、何でもない」
こんな感じの短い会話をした後、その男子は人混みに紛れて教室を出て行った。男子に話しかけられることなんか滅多にないから、びっくりした。というか、私に何の用があったんだろう。
まあ、別にどうでもいいでしょ。何でもないって言ってたし。そんなことより早く帰らなきゃ。昨日のゲームの続きをするんだ。
◇
「ただいま……」
帰宅した私はそう呟いて玄関の扉を閉めた。そして、靴を脱いで家に上がろうとした時だった。私の目にあるものが飛び込んできた。
「……!?」
私は玄関に見覚えのある靴があることに気が付いたのだ。無駄に綺麗で高そうな男物の革靴。こんなものを履いている人はこの家にいない。しかし、私はこの靴の持ち主を知っている。
「やあ、おかえりなさい。1週間ぶりだね?」
リビングから玄関へと続く廊下を歩いてくるのは、年齢不詳の━━多分40歳くらいの━━男性。やたらに整った顔立ちに燕尾服。明るい色の茶髪は長くて、毛先の辺りには派手なウェーブ。長身でモデルみたいな体型。一言で言うなら、紳士っぽくてイケメンなおじさんだ。
そいつの名前は藤原
影郁は両親の知り合いで、両親によればかなり優れた魔術の使い手らしい。だが、そんなこと知るか。嫌なものは嫌だ。
というわけで、私はすぐに家を出て影郁から逃れようとした。だが━━。
「あ、開かない……!?」
鍵を閉めた覚えのない扉がなぜか開かない。ホラゲーかよ、と一瞬だけ思った。しかし、私は諦めなかった。もしかしたら開くかもしれないので、一生懸命ドアノブをガチャガチャと動かして何とか扉を開けようとした。
「分かってると思うけど、扉に魔術をかけさせてもらったよ。今日は君に大事な話があるんだ。いつもみたいに逃げられたら困る」
魔術は使わない派の相手に魔術を使うなんて卑怯だ!元から嫌いだけど見損なった!大事な話とか聞きたくない。どうせ魔術に関することだろう。
背を向けているけれど、影郁がこちらに容赦なく近づいてくるのが分かった。……こうなったら最終手段を使うしかない。
私は後ろを向いたまま突然その場にしゃがみ込み、両手で耳を塞いだ。これが私の最終手段、【影郁が諦めて帰るまで絶対に動かない&話を聞かない作戦】だ。私は今まで、この体勢になることで確実に影郁による修行の強要を拒絶してきた。見た目は幼稚だが、そんなことは問題ない。拒否さえできれば良いのだから。
「ああ……困った。その格好になると何を言っても聞かないんだよね。……霧仁くんも協力してくれるかな?」
「……分かりました」
何!?お兄ちゃんも帰って来ているの!?入学式もう終わったんだ!?でも、今の私はお兄ちゃんが何を言っても絶対に聞かないんだから!!
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