第3話 知りたいけど、気にしない。



 私がこの家に来たのは小学1年生の時。気が付いたら周りに兄や両親がいた。彼らとの血のつながりがないことは、最初から分かっていた。何となく。


 それと、私には6歳より前の記憶がないということもなぜか分かっていた。思い出そうとしても3~5歳頃、つまり幼稚園生くらいの時の出来事が何も出てこないんだ。


 生まれたばかりの頃の記憶なら他の人々も覚えていないだろう。だが、幼稚園や保育園にいた頃の記憶はほとんどの人が少なからず覚えているものだと思う。私の場合、全く何も覚えてていないのだ。


 魔術を使っても思い出せなかった。両親と兄が随分と頑張ってくれたのだが、それでも駄目だった。そのうち、私も家族も諦めてしまった。で、今に至る。……ほら、魔術が使えても役に立たないでしょ。思い出したいことも思い出せないんだから。


 私と血がつながっている、本当の親のことを知りたくないと言ったら嘘になる。知りたい。できることなら、会いたい。でも、それを言っても仕方ないんだ。だから、あまり気にしないようにしている。



「食器、洗うよ」

「ありがとう」


 朝食を食べ終えた私は皿洗いをすると申し出た。というか、食器を洗うのは私ということになっているのだ。たまに、兄が洗ってくれることもあるけど。


 お茶碗を洗いながら兄の横顔を盗み見ると、兄は無表情で携帯をいじっていた。何を見ているんだろう。お兄ちゃんって何かゲームしていたっけ。


 そんなことを考えながらお皿を洗って、ぼけーっとしながら学校に行く支度をしていたら、家を出る時間になっていた。はあ、もう行かなきゃ。


「いってきます」


 未だに携帯を眺めている兄に向ってそう呟くと、私は家を出た。

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