第2話 兄がいるんだけど……。

「花帆、そろそろ起きないと遅刻するよ」


 自室のドアの向こう側から兄の声が聞こえる。私には兄がいるんだ。名前は霧仁きりと。兄が私を起こしに来るのは毎朝のことなんだけど、今日は何でこんなに早く来るんだろう。まだ眠いんだけど。


「今日は入学式だろ?遅刻したらまずいんじゃないのか?」


 ああ、そうだ。高校の入学式か。ようやくそのことに気が付いた私はゆっくりと起き上がり、眠い目をこすりながら身支度を始めた。肩に付くほどの長さの髪を梳かし、パジャマを脱いで新品の制服に袖を通す。


「朝ご飯、出来てるからね」


 私が起きた気配を察したのか、兄はそう言って私の部屋の前を離れたようだ。足音が遠ざかるのが聞こえた。


 大体の身支度を終え、顔を洗ってからリビングに行くと、スーツを着ている兄がご飯を食べていた。そういえば兄も大学の入学式があるらしい。


 母と父はいない。二人とも仕事が忙しくていつも朝早くに家を出るから。


「おはよう」


 私が来たことに気が付いた兄が顔を上げる。私は黙って頷くと兄と同様に食卓につき、兄が作ってくれた味噌汁とご飯と焼き鮭を食べ始めた。


 2人しかいないリビングで、朝食の時間が静かに過ぎていく。私も兄も黙っている。ちょっと気まずいような気がするけど、いつものことだ。別に仲が悪いわけではない。


 兄も私も、どちらかというと大人しいし口数が少ない方だ。それに、私は他人と会話をするのがあまり得意ではない。兄はどうか知らないけど。まあ、お互いにあまり話さないから、一緒にいると何となく気が楽。


 でも、兄の見た目は見る度にちょっと気になってしまう。ちょっと変わってるんだ。一言で表すなら、中二病っていう感じ。


 だって、私服は黒っぽいのしか持ってないんだよ。しかも鎖とか十字架みたいなのが付いているやつが多いの。


 で、一番の特徴はいつも眼帯をしていること。医療用のやつ。もちろん今も。眼帯を付けている理由は分からない。病気だからっていう訳ではないらしいんだよね。魔術が関係あるわけでもなさそうだし。


 なんでだろう。やっぱりオッドアイだから、かな。兄の瞳は右と左で色が違う。右側は黄色で左側は青色。眼帯に覆われているのは青の方。私や両親が頼んでも滅多に見せてくれない。事情はよく分からないけど、隠したがってるみたい。


 そんな感じの外見だけど、兄は優しい。朝だって起こしに来てくれるし、ご飯も作ってくれる。


 時々、なんでこんなに優しくしてくれるんだろうって思う。兄妹だから、かもしれないけど。……でも、疑問に思うんだ。


 だって、兄と私は血がつながっていないから。もっと言うと、父や母との間にも血縁関係はない。


 私は拾われてきた子らしい。


 

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