危機

日高とリーフデは驚いていた。もちろんさっきの声の内容にだ。


「リエージュ?! もう来たのか!」


「っ! 急いで戻らないと。」


リーフデが走って戻ろうとする。


「ちょっと待て!戻った所で殺されるか人質になるだけだろ!」


「おじい達を助けるのっ。」


リーフデは拳銃を握る。


「アホかっ! それだけで勝てるわけないし、第一使い方教えてねーよ! 取り敢えず逃げる・・・ぞ?」


日高が逃げようと後ろを振り返った時、そこには先ほどまでなかったものが現れていた。



それは、



「ティーガー?」


鋼鉄の虎。 ドイツの代表的な戦車ティーガー。


何故気づかなかったのか分からないくらいの巨体がそこにはあった。


「これは・・・?」


リーフデが聞いてくる。


「これは・・・敵を倒し、村の皆を助ける為の最高の武器だよ。」


日高は笑いながらそう言った。






時は戻って数十分前。


へルックはリーフデを日高のもとへ向かわせた後、村の男達に声を掛けた。見張りに行ってもらう為だ。


「獣かリエージュの兵士を見つけたら即時報告をすること。 よいな?」


男達は頷き、それぞれ違う方向へ走っていった。


「見つからないことを祈るがのぅ・・・」


この集団に戦うことの出来る人はほとんどいない。 リエージュの兵士に見つかってしまえば殺されて終わりだろう。


なのでへルックはいち早く敵を見つけ、素早く逃げるしかないと考えた。


全員が逃げられるとは思ってないが、全員殺されるよりは良いだろう。


その事を他の村の皆に伝えた。


あちこちでざわめきが起き、泣く子どももいる。


「まあ、村を守ってくれている兵士もそう簡単には負けんじゃろう。あくまで最悪の場合の話じゃ。」


そう言ってへルックは皆を落ち着かせようとした。


その時だった。



「リエージュが来たぞーーー!!」



その言葉が聞こえたのは。


「最悪じゃな!」


予想以上に早く来た。 その事に悪態をつきながら、へルックは皆に指示を出した。


「さっき言った通り、戦えぬ者は逃げろ! 戦える者は時間を稼ぐぞ!」


数十人を引き連れて高台の端に移動したへルックは見た。


村の方角から来る百を越える数の兵士を。


「きついのぅ。 だが、ここで時間を稼がねば皆殺される。 皆の衆、守るべき者のため、命を懸けて戦うぞ!」


オオー! と声を挙げ、皆が武器を構えた。






ティーガーを見つけた日高は大急ぎで動くかどうかのチェックをした。


「これをこうして・・・おっしゃ! エンジンかかった!」


どうやら問題なく動くようだ。


日高はハッチから顔を出し、リーフデを呼んだ。


「行けるぞ! 早く乗れ!」


「! 分かった!」


乗ってきたリーフデを車長席に座らせ、操縦席に移動する。


「行くぞ!」


アクセルを踏む。


ティーガーはゆっくりと動き出した。


そして徐々に速度を挙げながら、皆の居る場所へ戻って行く。


しばらく走っていると、


「見えた!」


ハッチから顔を出しているらしいリーフデから声が聞こえた。


ティーガーを一旦止め、日高もハッチから顔を出す。


見えたのは高台の上に向かおうとする大量の兵士。高台の上で戦っている人もかすかに見えるが、数は少ない。


「急ぐぞ!」


ティーガーの中に戻り、アクセルを全力で踏む。






へルックは戦っていた。


岩かげに隠れて敵の攻撃をかわし、弓を打って敵を倒す。


そんな戦いをしていたが、限界が近い。


敵との数も質も違いすぎる。


最初から数十人しかいなかったのに、殺されてもう十人もいないだろう。


突撃されれば終わり。だがそれをしてこないのは、こちらをいたぶるためだろう。


「むっ?」


遂に矢が尽きた。


最早これまでとナイフを取り出し、敵に突っ込もうとする。


けれどそれは出来なかった。何故なら、


ドオォォォォォォン!


そんな音とともにリエージュの兵士が吹き飛んだからだ。

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