第3話 ログブック




 日も落ちかけ東の空に、赤い大きな月が昇り始めた頃、俺と彩は、彼女の曾祖母が住む町にある無人の終着駅に2人っきりで立っていた。乗ってきた電車は既に元来た線路を運転手だけを乗せて帰って行ってしまっている。


 俺は彩がバックパックを背負うのを手伝い、誰もいない道を何気ない会話をしながら、人気の無い道を2人並んでゆっくりと歩く。


 彩は気にしていたのか、

「優、本当に “あなた” って呼ばれたくない?」と聞くので、


 「彩がそうしたいなら、別に構わないよ。」と答える。


 彼女は後ろを振り返ってから、俺を見て、

「じゃあ、あなた、、、気付いてるかしら?さっきから子犬が付いて来てるのよ。」


 「あぁ、知ってるよ。」


 「お腹空いてるかな?クッキーあげようかな?」と言うので、


 俺は、彩のバックパックから、ココナツ味のクッキーと小さなラジオを取り出し、クッキーを彼女に渡してから立ち止まり、ゆっくりと振り返る。


 彼女はそのクッキーを1枚手に持って、しゃがみ込み、

「ほら、おいで、、、これ美味しいよ」とその子犬に話しかけるが、


 その子犬はシッポを振りながら、その場に座り込んでしまい、それ以上近付こうとはしない。俺はラジオを点けて、小さな音でニュース番組を聴きながら、2,3分ほど彼女と子犬のやり取りを眺めていた。


 彩は立ち上がり、

「だめ、あきらめた。あなた、行きましょう。」と言うので、


 「ねぇ、犬欲しいの?」と聞くと、彼女は小さくうなずく。


 「そのクッキーかして、」と言って、俺はしゃがみ、まだ座り込んでいる子犬に見せるようにして、そのクッキーを少しかじり、唾を付けてから、それを地面に置いて、後ろに下がる。


 そうすると、子犬はゆっくりと立ち上がって、そのクッキーに近寄り、その匂いをクンクンと嗅いだ後、口に銜え、おそるおそるそれを食べて、口の周りをぺロぺロとなめた。


 「彩、やってごらん、多分、今度は手から食べるよ。」


 彼女はまたしゃがんで、俺がした様に、少しかじってから、唾を付けて、

「ほら、おいで、」と優しい声で言うと、


 子犬はシッポを振りながら、ゆっくりと彼女に近付き、手からクッキーをとって少し後ずさりし、少し考えたようにしながら、クッキーを食べた。


 それを見た彼女は満足した様に、

「おいしいでしょう。じゃぁね、、、ワンちゃん、バイバイ。」と言い、俺達は、また歩き始めた。


 「彩、あの犬、きっと付いて来るよ。」


 「優は、犬の心も読めるのね。」と嬉しそうに二ッコリと笑う。



 既に日は落ちてしまっていたが、大きな月が赤々と俺達が歩く道を照らし、あの子犬も、まだ俺たちの後を付いて来ている。



 突然、彩が、

「どうして、カメラ持ってこなかったの?」と少し不満そうな顔で聞いてきた。


 「別に、映像に固執してるわけじゃないし、それに、彩との時間をもっと感じていたいから、100%の彩を見ていたいんだ。」


 それを聞いた彼女は、少し嬉しそうな顔をしたが、まだ少し不満そうな顔で、

「どうしよう、ログブック? 私、てっきりあなたが映像を撮ると思ってたから、全部記録する気でいたんだけど。」


 「ごめんな、ちゃんと話しておけばよかったね。」


 彼女は少し考えてから、また二ッコリと笑い、

「じゃあ、日記でも付け始めようかな、、、そうする。その日その日の事を、私が日記として記録に残すよ。もうすぐよ、ひぃ婆っちゃんの家。びっくりするだろうな、いきなり顔出したら、、、でも、どう思う?今晩中に小屋につけるかしら?」


 「別に明日の朝でもいいんじゃないの?もう、ここまで来ちゃってるし、邪魔する人なんかいないと思うよ。」


 「あの子犬、まだ付いてきてるわね、、、」


 「彩が手懐けたんだから、彩の犬ね。ちゃんと面倒みてよ、奥さん。」


 彼女は照れたように、

「“奥さん” って、なんか気恥ずかしい、、、」と言うので、


 「“あなた” も気恥ずかしいんですけど、奥さん、、、仕返しだよ。」と言い返して、笑う。


 「犬の名前、どうしよう?」


 「明日、もし、まだいたら、考えたら?」


 「そうね」



 そうこうするうちに、遠くの方に、暖かそうな小さな赤い光が見えてきた。


 8時を少し過ぎた頃、俺と彩は、その家の扉の前に立っていた。


 彼女はその扉をノックし、

「ひぃ婆っちゃん、私、彩です。」と言ったが返事が無いので、俺は扉を引いてみた。


 鍵が掛かっていない。


 彼女は扉を開いて、大きな声で、

「ひぃ婆っちゃん、彩だっちゃ!おらんとね?」と言うと、


 家の中から、

「彩ちゃんか?何しようとね、こんな遅くに、早く入ってきんさい。」と言う曾祖母の声がした。


 彼女が俺の手を引くので、

「こんばんは、優です。ご無沙汰してます。」と言い、土間に入り扉を後手で閉める。


 彼女の曾祖母は、居間の戸を開き、

「優君ね、そぅね、そげね、、、早よ、中に入りんさい。久しぶりやのぅ。」と言って、俺と彩に手招きをする。


 まず彩が先にハイキングブーツを脱いで居間に上がり、俺も彼女に続き、

「お邪魔します。」と言って、居間に上り囲炉裏の横に座り、


 「どうも、ご無沙汰です。ご連絡もせずに、突然押し掛けて来て申し訳ありません。」と言うと、


 曾祖母はお茶を淹れながら

「優君は、何時もながら硬かねぇ、もっと気楽にしんさい。それで、どげんしたとね?駆け落ちでもしたとね?」と本気か、冗談かわからない声で聞く。


 彩は真面目な顔で、

「実はね、ひぃ婆っちゃん、まだ、ちゃんと公表されてないんだけど、もうすぐ“この世の終わり” が来るらしいの。でね、しばらくの間、優と2人で山の小屋で生活したいと思っとると、、、よか?」と聞き、


 俺が続けて、

「今晩か、明日の朝、世界同時に何か重大な事を公表するらしいんですが、何を公表するのか、何が起こるのかは、想像できません。大混乱に成るかもしれないので、、、ですから、正確に言うと、彩と2人で街から逃げて来たんです。」


 「そげね、、、それで、親御さんとは、ちゃんと話したとね?」


 「はい、昨日、2人でお互いの両親に合って、”結婚します” と言いました。」


 「ひっ婆っちゃん、、、どげん成るかわからと。でも、私、彼の子供、生みたいと、安全な所で育てたいっちゃ。」と真面目な顔で言うと、


 曾祖母は少し考えてから、

「そげね、そげね、、、よか、小屋は好きな様に使いんさい。」と気安く許してくれた。


 そして、

「ひ孫の子ね、、、わたしゃ、ひいひぃ婆っちゃんに成るとかね。それは良かね。それまでは、死ねんばい。」と顔の皺くちゃにしてニコヤカに言うので、


 「そうですね。」と俺も笑いながら答えた。


 曾祖母は、

「優君、彩、お腹空いとらんね?」と聞くが、


 「ひぃ婆っちゃん、今出んと、今晩中に辿り付けんけん、、、」


 「彩、何を言ぅとるとね?身体の弱いお前が、そげな大きな荷物担いで、夜の山登れると思とぅとぉね?やめんさい。怪我するだけじゃけん。今晩はここに泊まって、休みんさい。それで、明日の朝、行きんさい。」


 「でも、ひぃ婆っちゃん、急がんと、、、」


 「彩が急ぎたい気持ちは分かるけど、俺もその方が良いと思うよ。今晩はお世話にならないか?昨日もちゃんと寝てないし、やっぱり、夜道は危ないよ。」と彼女の眼を見ながら言うと、


 「あなたがそう言うのなら、そうします。」と素直に同意する。


 「その方がよか。彩、付いて来んさい。食事の支度するけん。」と言い、彩は曾祖母後ろに付いて土間に出て行った。



 2人が食事の準備をしている間、俺は2つのバックパックから詰め込んだ荷物を全部取り出し、軽くてかさ張る衣類等を彩のバックパックに入れ、重い荷物を自分のバックパックに詰め直した。


 その後、しばらくの間、横に成って目を閉じる。この4日間、十分な休息が取れていなかったのだが、あまりにも気持ちが高ぶっていて、眠気は全然ない。


 しばらくそうやって寝転んでいると、彩が俺の身体を軽くゆすって、

「あなた、お風呂が沸いたから、先に入って来て。」と言い、俺を風呂場まで取れて行き、


 「着替えは、後で持ってくるから。」と扉を閉めながら言う。



 身体を湯で流した後、少し熱めの風呂に浸かり、

「風呂も、これが最後かもな。」と独り言を言い、濡らしたタオルを頭と顔に被せ、また目を閉じる。ここ数日の事が走馬灯の様に駆け抜けて行く。


 どのぐらい、そうしていただろうか、

「私も入るわね。」と彩が小さな声で言って入ってきた。


 「ひぃ婆っちゃんが、“旦那さまの身体を流してきんさい。” って言うもんだから、、、」と恥ずかしそうに言う。


 俺は、湯船から上がり、

「そんなに恥ずかしがるなよ、俺が洗うから。」と言い、木の椅子に座った彩の小さな肩に流し湯を掛け、泡立てたタオルで優しく身体を洗い、お湯を掛けてその泡を流した。


 まだ恥ずかしそうにしている彼女の華奢でとても白い肌が、桜色と言うより、もう少し赤の濃い紅梅色に染めている。


 「とても綺麗だよ、彩。」と言うと、


 彼女は頬をその色に染めて、

「ありがとう、」と、はにかみながら八重歯を少し見せる。


 そして、

「あなたの背中も、流させて、、、」と言って、タオルに泡を立て俺の背中を洗い始める。


 「こうやって見ると、優の背中って、とても大きいのね。この3年間、あなたの背中ばかり見てきたけど、ぜんぜん気付かなかったな。」と言い、冷たくなった肌を俺に合わせる。



 俺に背中を向けて、寄り添うようにして風呂につかっていた彼女は、

「いっ緒におっ風呂入るの、これが初めてじゃなかとに、、、なんか恥ずかしぃちゃ、、、どことなく新婚旅行みたいやと思わん?」と、めったに俺に使わない方言でつぶやくので、


 「そうだよ、知らなかったの?」と言って、振り返り、彼女の身体に両腕を軽く廻す。


 そして

「俺も、幸せだよ、君がいてくれて。」と言い、強く抱きしめた。



 しばらくの間、暖かい湯の中でそうしていた俺達は、2人で風呂から上がり、身体を拭きあって、用意されていた浴衣に着替えた。


 「髪が短いと、乾かすのが楽ね。でも、やっぱり優は、長い方が良かった?」


 「短い髪も、すごく似合ってるよ。」



 俺は濃紺の浴衣に黒の帯。彩は真白な浴衣、とゆうより薄い生地の着物に白の帯と細くて赤い腰帯を締めて、囲炉裏のある部屋に戻った。


 部屋の上座にあたる部分には、座布団が2枚並べてあり、曾祖母は、

「2人とも、何遠慮しようとね?さっさと座らんね。」と言い、俺達をそこに座らせ、


 「彩は化粧気がないけんね、、、」と言い、たもとから紅を取り出して、くすり指に付け、彩の頬と口に少し注す。


 そして、

「大した物は無いけんど、祝言始めまっしょ。」と言い、


 「高砂はよう歌わんけんね、よかね?」と笑顔で言った。


 彩が、照れながら

「ひぃ婆っちゃん、そこまでせんでも良かとに、、、」と恥ずかしそうに言ったが、


 俺は、

「よろしくお願いします。」と言い、用意されていた、3つの杯の1つを手にした。


 曾祖母はそそれに、3回に分けて酒を注ぎ、俺は、それを3回に分けて飲み、彩にその杯を手渡した。曾祖母は彩の持つ杯にも、3回に分けて酒を注ぎ、彩はそれを3回に分けて飲み干した。


 その作法を3回やって、三三九度の儀式を終えると、曾祖母は、

「婿様、これで彩は彼方様の妻であります。彩、これで優君はお前の旦那様じゃけん。末永長く、お使えしないかんばい。」と言う。


 俺は手をついて頭を下げ、

「よろしくお願いいたします。」と言うと、


 彩も手をついて頭を下げ、

「不束者ですが、よろしくお願いいたします。」と答える。


 曾祖母は昔ながらのポラロイドカメラを出してきて、写真を数枚撮り、

「1枚はお前の母さんに送っとくけん。」と言った。


 俺は、お酒を曾祖母に注ぎながら、

「ありがとう御座いました。」と言うと、


 曾祖母は

「早く、優君と彩の子供の顔が見たかね、、、その顔を見るまでは死ねんけんね。」と言いい、


「何が起ころうとも、わたしやぁ、ここで、ずーっと待っとうけん、、、早よう子供作って、連れて来んさい。」と言った。


 彩はその時、下を向いて、嬉涙を流していた。



 食事を済ませた後、曾祖母に薦められるままに隣の寝室に向うと、そこには、布団が1つと枕が2つ用意されていた。


 俺は布団に横に成り、ラジオをつけてみたが、何時もの騒がしいだけの深夜放送しか流れていなかったので、すぐに消す。


 彩は俺の横に腹ばいに成って寝転びながら、今日買ったログブックに何やら書き込んでいる様だが、俺がそれを覗き込むと、


 「だめ、覗かないで!ちゃんとまとまったら、読ませてあげるから、」と言った。



 時計は12時を少し過ぎたところだ。

携帯の電波は届いてはいなかったが、俺は目覚ましを5時半にセットし、コードをつないで充電をした。


 15分位で、ログ日記を書き終わらせた彩に、

「本当に書くのが早いね、羨ましいよ。」と言うと、


 彩は、笑いながら、

「“私にできるのは、これくらいですから。”って言わなかったっけ?でも、1つ位、あなたより優れてる事が無いと、へこんじゃうわ。」と言い、


「もう、寝ましょう、明日早いし。」と言って、電気を消したが、直に浴衣の帯をほどき、俺の耳もとで、


「優等生は、ちゃんと練習もしないとね。」とささやき、俺の帯を外して、身体をあわせる。


 翌朝、目覚ましが鳴る前に眼が覚めた俺は、携帯とラジオを持って、静かに隣の囲炉裏のある部屋に行き、山登り用の服に着替えて、外に出た。


 俺は、興味ほんいに買った煙草に火を点け、それを吹かしながら、ラジオをつける。ラジオはまだ何時もの早朝の番組を流している。俺はラジオを消して、西の空に傾いている大きな月を見ながら、煙草を吹かし続けた。


 その煙草を吸い終えた後、家に入ると、彩は既に起きて着替えを済ませ、俺が脱いで畳んでおいた浴衣を畳みなおしながら、曾祖母と話をしていた。


 俺は、

「お早う御座います。顔を洗って来ます。」と言い、洗面道具を持って、また土間におりて、歯を磨き、顔を洗った。


 部屋に戻り、彩に

「まだ、放送は無いみたいだよ。」と言うと、


 曾祖母は

「ちょっと、二人とも、ここに座らんね?」と言い、古びた手帳を彩に手渡し、


「その手帳は、私のおっとのもんだっちゃ。そこには、小屋の辺りの食べられる野草の事や、狩の仕掛けの事などが書いてあるけん、持って行きんさい。それと、去年の冬の前に、一応小屋の様子は見て来たけん、井戸も小屋も十分使えるばい。

 

 あと、塩とか非常用の食料の隠し場所も、書き足しておいたけん、、、灯油もあるけん、一冬は越せるじゃろう。必要な事はその手帳の中に書いてあるけん、2人で読んでおきんさい。」と言う。


 俺は頭を下げて、

「本当に有難う御座います。」と言い、


 彩は涙声で、

「ひぃ婆っちゃん、ありがたいっちゃ。」と言った。


 「今から出れば、昼前には着けるけん、日が落ちる前には夜の準備も出来まっしょ。あと、おにぎりも作ったけん、持って行きんさい。」と言って小さいがズッシリと重みのある包みを俺に渡す。


 俺はそれをバックパックにしまい、斧をパックの横に付け、使い慣れたナイフを腰に挿し、彩に新しいナイフを渡した。


 彩が、不振そうな顔で、

「ナイフ、必要なの?」と聞くので、


 俺が、

「念の為だよ。」と答えると、


 曾祖母は、真剣な顔で、

「あたりまえじゃ、彩。山には猪も野犬もいるとぞ。自分で、身を守らんでどげんするとか?」と少し強い言葉で怒った様に言い、


 「優、こげな何も知らん娘じゃけん、なにとぞよろしく頼みます。彩も、ちゃん彼の言う事、聞かないかんとぞ、よかね。じゃあ、遅く成る前に早く行きんさい。」と俺達を急かせるように言った。



 俺は、荷物を持ち、土間で、ハイキングブーツを履き、靴紐を2重に結んで、水筒と空いたボトルに水を汲んだ。彩も俺に続いて、ブーツを履き、俺はバックパックを背負うの手伝った。


  曾祖母は、

「あと30分位で夜が明け始めるけんね、それと彩、これも持って行きんさい。」と言って古びた杖を渡し、


「これは、お前のひぃ爺っちゃんの形見やけん、お前を守ってくれるとよ。」と言い足した。


 俺はもう1度頭を下げ、

「ひぃ婆っちゃん、色々お世話になりました。もし、何も無ければ5日位で下りて来ますが、そうじゃない時には、何とぞ、御気を付けください。」と言い、


 彩も頭を下げ、

「ひぃ婆っちゃん、本当にありがとう。元気な赤ちゃん、産むようにするけん、その時は、出産の事頼むちゃ。身体に気を付けるちゃよ。」


 「早よう、行きんさい。」と急かして言う彩の曾祖母を残し、俺と彩は山小屋へと歩き始めた。



 しばらく歩いてから振り返ると、曾祖母はまだ俺達を見送っていた。



 俺が歩きながら付けたラジオは、いつもと替わらない、天気予報と交通状況を説明していた。腕時計を見ると、6時半を少し過ぎたところだった。



 東の空が何となく薄っすらと白くな成ってきている。遠くから鶏の鳴く声が聞こえ始め、鳥達のさえずりが少しずつ大きくなり始める。


 俺は彩に、

「ねぇ、聞いて良いかな?」


 「なあに?」と返事する彼女に、


 「どうして、彩は大人の前で子供っぽく振舞えるのかな?」


 「考えた事ないけど、、、そんなに子供っぽかった、私?」


 「あぁ、なんとなく、、、」


 「多分ね、、、自分の責任を放棄してるんじゃないかな、、、子供って、大人の前ではとても気楽でいられるじゃない。


 だって、どんな失敗をしても、どんな間違いをしても、ちゃんと謝れば許される所ってあるじゃない。それに、言われた様にしていれば、“そう言われました。”って言うだけで、それ以上、責任が問われないでしょう。

 

 私は別に意識して、そうしている訳じゃないんだけど、、、深層心理、そうなってるのかも、責任放棄。」と彩が答える。



 空が、少し青白く色付き始め、所々、淡いオレンジ色に輝き始める。鳥達の声は、もっと大きく拡がっていく。


 俺と彩は、その鳥達の歌声に包まれていた。



 彩は眼を輝かせながら、

「凄い、こんなの初めて。」と、とても嬉しそうに言う。


 ふと後を振り返ると、昨日の白い子犬がまたチョコチョコと俺達に付いて来ていた。


 俺は彩に、

「奥さん、あなたの子犬が付いて来てますよ。」と言うと、


 彼女は嬉しそうに、振り向いて

「ワンちゃん、こっちおいで、ほらまたクッキーあげるよ。」と言ってしゃがみこみ、


「優、クッキー何処かな?」と聞く。


 俺は彼女のバックパックからまたクッキーを取り出し、彼女に手渡した。彼女はそれを1つ取り、その子犬の前に差し出すと、子犬は、ちゅうちょせずにそのクッキーを彼女の手から食べる。


 彼女はもう1枚クッキーを子犬にやり、

「どうしよう?連れて行く?」と聞くので、


 「もう、そんな選択権なんて、俺達には無いと思うよ。」と答えると、


 彼女はのん気な声で、

「えっ、どおゆう事?」と聞き返すので、


 「ずっとついて来るよ、その犬。」と答え、残りのクッキーをバッパックにしまい、


 「試してみる?」と聞くと、彼女は好奇心いっぱいな、笑みを浮かべながら、嬉しそうにうなずくので、


 「今から、しばらくその犬の事は無視して歩く、いいね?」と言うと、彼女は、また大きくうなずいた。


 「彩、行こう」と言い、歩き出すと、その子犬はシッポを大きく振りながら、彼女の真横をトコトコ歩きながら付いて来る。



 ラジオがピ、ピ、ピ、ピィン、と音をたて、アナウンサーの

「7時の二ュースをお伝え」と言った瞬間、”ビィ、ビィ、ビィ、” とゆう耳障りな音がした。


 俺は、歩くのを止めた。


 彩が、

「どうしたの、優?」と少し顔色を変え、不安そうな声で聞く。


 「多分、今から、例のアナウンスが始まるんだと思う。」と言い、バックパックとギターケースを地面に置き、ラジオのボリュムを上げ,


 彩もバックパックを下ろて、俺の腕をギュっとつかみ、

「どうしよう、、、心臓がドキドキする。」と言った。



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