5−2「ま、任しとけ」
入団から数日後、初めて訓練をするクロを呼びつけてメイカは言った。
『お前が初日にシミュレーションで用いたシステムは私が初めて作ったもので、アイゼン達が乗っていたものとは異なる。あまりに性能が違うと戦闘どころではないと思ってそうした。そしてこれからは最新版のシステムに
ゼンツクのシステムは慣れるまで苦労したものの、一度馴染んでしまえば従来のシステムで操縦するのが億劫になるぐらい快適だった。メイカが自慢する反応速度は本物で、トリガーやペダルの入力を受けてから機体が動くまでの時間がとにかく早い。初めて歩行したときは思っていた間隔と合わずにコケてしまったほどであった。他のシステムと比べてのコンマ数秒が、駆人にとってはあまりにも大きな差となる。
だから大丈夫だ、誰が出てきても僕は負けない。
『11時方向、最短の敵機まで500。付近に……数2?』
敵機反応の数字が小さくなってきて、ウェスが微妙な報告を入れた。一番近くの反応はもっと近くにあるが、これは動いていないので索敵ダミーの可能性が高い。ウェスの告げた反応が最も近い敵機とみていいだろう。ダミーを見抜ける余裕が出てきたのは良い傾向だ。
視界良好であれば、索敵は届かずとも視認されているような位置に反応も見えるが、未だ気づかれずに接近できている。リムの攻撃によって多くの敵機が一斉に動くので、音での発見も難しくなっているようだ。このままいけば最初の一撃は無警戒の状態で入れられる。
「敵を倒したらすぐに次に近い敵機の方向だけ教えて」
『ま、任しとけ』
「頼んだよ。じゃあ、強襲いきます!」
クロ機は速度を保ったまま左に大きく跳ねる。建物を飛び越える途中で敵機らしき影が見え、索敵の反応と重なった。
「敵機視認!」
敵機はいきなり現れたクロ機に動揺しているのか、動きを見せない。反撃が来ないのはわかっていたことである。ブレードを胸部の位置で固定したまま敵機の目の前に着地し、落下の勢いだけで頭部から胸部にかけてを引き裂いた。接触によって発生する腕部からの衝撃に確かな手応えを感じる。裂け目からは黒い液体が勢いよく噴き出し、付着してブレードや機体を汚していく。胸部にブレードがめり込んだ状態の敵機は完全に沈黙した。
跳甲機はシステム、主機、そして何より駆人の操縦で動いている。損傷を主機にまで与えると機体が爆発する確率が高くなるので危険だ。近接武装で一撃離脱を繰り返すのなら、装甲一枚隔てた向こうにいる駆人を狙うのが確実であり、一番効率が良い。
『12時、正面』
「視認」
真後ろにもあった反応をウェスは索敵ダミーと判断したらしい。悠長に確認するほどの余裕もないので、ここはウェスを信じる。クロ機は流れるように敵機を蹴り飛ばしてブレードを引き抜き、切っ先を次なる敵へ向けて全速で突撃した。影はくっきり見えていて距離は近いが、まだクロ機の方を向いていない。システムに捉えられてロックオンが完了する前に刺し貫く。
しかし敵機はクロ機の接近を警戒し、間をとる跳躍で反転してライフルを放った。
「うッ!?」
機体を伝わって操縦席に届いた嫌な音に変な声が出てしまった。確認すると右脚部に被弾していた。幸いなことに異常はない。当然当たらないものと確信した攻撃だけに、思うところがないわけではないが、即座に割り切って気持ちをもち直す。
「お返し!」
素人に毛が生えた程度の跳躍がクロの前進に対抗できるはずもなく、瞬く間に距離は詰まった。敵機を貫く直前で急停止し、勢い余って機体がぶつからないように調整。ブレードは胸部を突き抜け切らずに止まってしまったが、敵機のライフルから次弾は発射されない。すぐに軽く後ろに跳んで敵機から得物を抜く。滴る液体が刃先の軌跡をなぞるように落下して道路に線を引いた。
「よし、次」
『9時だ』
クロ機は指示と同時に進行方向へ跳躍し、一切の躊躇いなく走行を開始した。ブレードはなるべく胸部の前から動かさない。振り回すとそれだけ機体の重心も振られてしまい、次の行動へ移るのに一拍遅れる。この遅れが命取りだ。敵はクロの侵入に気づいており、索敵の届いている機体が1機でもあると、位置を特定され続けてしまう。軽快に撃破していかなければ、すぐに包囲されて終わりである。
敵機の反応は進行中の道路上、距離はまだ離れている。途中に障害物が存在するはずもなく、クロの機体は敵機からも探知されているだろう。このまま突っ込むのは自殺行為である。今こそ駆人三人で毎日共同訓練している成果を見せる時がきた。
「リムちゃん、前!」
『はいはーい、見つけたよ。タイミングよろしくー』
「始めてどうぞ。2発で大丈夫です」
『オッケー!』
リムに牽制してもらい、敵が足を止められなくなったことで、ロックオンが有効に働く射撃姿勢を崩す。これまで遠くに聞こえていた砲弾の着弾音が急に近づいた。おそらくクロの意図した敵を狙ってくれている。実戦初の連携はうまくいきそうだ。待ち構えての攻撃さえ防げば、この視界で致命傷を受ける確率はほとんどない。クロ機はさらに速度を速めると、敵機の反応に猛進していった。
目標に対して、建物を挟んでいようがとにかく最短で接近。即座に撃破して敵の索敵から自機の反応を潰しながら、クロ機はターミナルへと近づいていく。町の中心部付近になると建物の背が高くなり、道路での移動を余儀なくされた。それでも全速の奔走を続け、ほぼ無傷で7機を行動不能にさせたのだった。
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